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第三章 奪われた未来
11.エマのした行為と弱肉強食
しおりを挟む城内に入ると、辺りは静寂に包まれていた。
一応、夜中だしな。みんな、寝てるんだろ。
石レンガの壁には、赤々とした松明が掲げられている。
数十メートル歩くと、丁字路に面した。
「どちらに進む?」
エマがギルを見る。
「左、かな」
オレ達はうなずき合い、左に曲がった。
三人の足音が、石畳を冷たく響く。
そして、十字路に出た。
「右だな」
オレが言うと、エマは嫌な顔をした。
「アサクラと同意見とは……。このまま進むことにしよう」
なんだよ、それっ!
オレがにらむと、彼女は当然だといわんばかりに言った。
「アサクラと同じでは、嫌な予感がするのだ。仕方なかろう」
理屈が通ってねーぞ、それは。
不満に思いながらも、オレはエマ達のあとに続いた。
すると、ひとつの大きな両開きの扉に突き当たった。
え。
もしかして、もうユーヤの居場所にたどり着いたのか?
「入るのはよさないか?」
「なぜだ?」
ドアノブに両手をかけたエマに、ギルが声をかける。
「ここにユーヤがいるとは思えない。位置的に、まだ城の下部だろう。戻って、別の道に進もう」
エマはちょっと笑った。
「確認もせずに、なぜそうと言いきれる?
仮にそうだとしても、一応、「違う」と判ってからでなければ、さきへは進めまい。
いい、おれ一人でなかに入る。貴様らは、ここで待て」
言って右手首を左手で覆い、剣を出現させると、片側の扉を開け、後ろ手で閉めながら、エマはなかに入って行った。
数秒後、ドタバタと争うような音が聞こえ、オレとギルは、気色ばみながら同時に扉をつかみかけた。
が、扉がなかから開き、エマが平然とオレ達の前に現れた。
「……ギルの言う通り、ここは違った。戻るぞ」
返り血を浴びたその姿に、息をのんだ。
無造作に、血しぶきのかかった頬をぬぐうエマが、オレの脇を通り過ぎていく。
ギルはわずかに眉をひそめてエマから視線をそらしたものの、彼女と共に来た道を戻り始めた。
けれどもオレは、エマが出て来た扉をひらかずにはいられなかった。
エマと戦った相手の生死が、気になって。
室内は薄暗く、オレが扉を開けたことによって差しこんだ明かりが、なかの様子を照らした。
オレの目に映ったのは、二メートル以上はある大男が、左肩からざっくりと切られ、目を見ひらき倒れている所だった。
男を囲うようにできつつある血だまりと、嗅いだことのない臭気を前に、立ち尽くしてしまう。
自分のいる場所と大男のいる場所が、まるで違う次元のように思えた。
でも……これは紛れもない現実で、オレはこの大男の姿を、テレビ画面を通じて見ているわけではないんだ。
そう認めるまでに、時間がかかった。
そのうえ───。
「なんで……!?」
オレの目の前から、突如として、大男の姿が消え去った。
血生臭さはオレの鼻のなかに、まだ残っているのに。
あるはずの死体だけが、こつ然と、消えてなくなっていた。
「アサクラ、何をしている? 行くぞ」
遠くのほうから声がかかり、びくっとして振り返る。
不満げに腕を組んだエマに、射すくめるような眼差しを向けられていた。
「迷子になりたいのなら、置いていくが?」
ごめんと謝り、さっきの十字路で待っていた二人に近づいたけれど、彼女の着衣を染めた血の色からは目をそらした。
ギルが、心配そうにオレを見る。
「アサクラ……顔色が悪いみたいだけど、大丈夫かい?」
「あぁ。……ギル、人が、消えたんだ」
ギルは目を伏せた。そうか、と、うなずく。
「息を引き取ったんだね。……気の毒に」
人の死を悼む気持ちはあっても、それ以上の感情はもちあわせてないような、ギルの反応だった。
オレの住む世界では、エマのした行為は、殺人を犯したとして罪を問われる。
だけど、ここでは殺した者より、殺された者が悪いとされる、弱肉強食が常識なんだ。
それが、ギルの態度からは顕著にあらわれていた。
───その時、オレは初めてぞっとした。
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