29 / 79
第三章 奪われた未来
6.ジークに似ている?
しおりを挟む翌朝。
あいさつもそこそこに、ギルに言った。
「オレ達に、力を貸して欲しい。
ギル、言ったよな? 血を流さずに、話し合いで解決したほうがいいって。
……オレも、そう思う。
けど、エマやギルの話を聞く限りじゃ、この国では、一滴も血を流さずに事が収まるとは思えない。
人を殺したかもしれない人間を、裁く法が、ない国みたいだし。
だけどオレは……できるなら、人が傷つかずに済む方法をとりたいんだ。
オレとエマだけで行動したり、考えたりするより、ギルにも一緒にいてもらったほうが、二人でやるよりも犠牲が少ないと思うんだ。
だから、頼むよ!
オレ達を、手伝ってくれ!」
一生懸命に、オレなりの言葉で、ギルに気持ちを伝えた。
ギルは数回、瞬きをしたあと、困ったように笑ってオレを見た。
「どうしても、僕に手伝えと……?」
「どうしても! いまのオレ達には、ギルの力が必要だから!」
揺るがない気持ちのまま、訴えかけるオレをじぃっと見つめ、やがてギルは、根負けしたかのようにうなずいた。
「───分かったよ。
僕が、できる範囲の協力を、君たちにしよう」
やった!
飛び上がりたい思いでいるオレに、ギルが言った。
「エマの所に、行こう」
エマの家に向かう途中、意気揚々と歩くオレに、ギルが声をかけてきた。
「君は……似ているな」
「えっ?」
意味が分からずにギルを見ると、ギルがあごをしゃくってみせた。
「彼女の瞳に、よく映ったであろう男───ジーク・ファーストに、だよ」
ギルの視線の先に人影が見え、やがてそれが、こちらに向かって歩いて来るエマだと、オレにも分かった。
「───なんだ。二人そろって出迎えか?
機嫌とりなら、遅すぎるぞ」
不遜な言い方をするエマに、ギルがいたずらっぽく笑う。
「それは困ったな。せっかく、君たちを手伝おうと決めたのに」
驚いたように、エマがギルを見返す。
「本当か……?」
「アサクラに、説得されたんだ」
「アサクラに?」
エマの目がますます見開かれ、オレに向けられる。オレは胸を張ってやった。
「まーね」
おおげさに、エマが溜息をつく。
「貴様は、すぐ調子にのるな。一応、礼はいうが、図にのらぬことだ」
口先だけで、感謝をする気がさらさらないようなエマに、ムッとして言い返した。
「ギルが言ってたぞ。オレは、ジークに似てるって。
ってことは、ジークも、お調子者だったんだな、きっと」
とたんにエマは、不愉快きわまりないといった様子で顔をしかめた。
「馬鹿を申すな! 貴様のような未熟者と、ジークが似ているわけがなかろう。
冗談なら、もっと気の利いたことを言え!」
「あぁ、確かに。ジークは、お調子者ではなかったな」
くくっと笑って、ギルがエマに同意する。
お、お前……自分の発言には責任もてよ。
ギルに内心で突っ込みながらも、ふと思いあたってポンと手をうった。
「あ、なるほど! 容姿か、容姿が似ているのか。
確かに、あの肖像画のジークって、オレと似ているとこ、あったもんな。
オレ、名前では笑われるけど、ルックスは良いって褒められるしなー」
「───行くぞ、ギル」
「そうだね。ぐずぐずしてたら、日が暮れてしまう」
皆まで聞かず、二人はオレを完全に無視して背を向けると、ギルの家の方角へ歩きだした。
あ、なんだよ、その態度!
「おい! あんまりオレをバカにすると、手伝ってやんねーぞっ。帰っちまうからなっ」
二人の背中に叫ぶと、こちらを振り返ったエマが、鼻で笑ってのけた。
「ほほう? 貴様は、どうやって元の世界に戻るつもりなんだ?」
オレは絶句した。
ううう……ひどい仕打ちだ。来るんじゃなかった。
呆然と立ち尽くすオレを哀れに思ったのか、ギルが戻って来て、オレの肩を抱いた。
「……エマには、逆らわないほうがいい」
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜
駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。
しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった───
そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。
前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける!
完結まで毎日投稿!

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!


異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる