【完結】拾った猫が超絶美少女だったので、彼女を救うため異世界に行って来ます!

一茅苑呼

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第二章 異世界への扉

11.サファイアの生る木?

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「───ヴァルム・ファレンよ。
エマ・スローンが求む。

今、ふたたびこの扉が、我が祖国スメルムーンへとつながることを。

“蒼いうさぎの跳ねる時に”」

エマの言葉が終わると共に、エマの手が置かれた場所が光った。放たれた閃光に、まぶしさのあまり顔をしかめる。

「アサクラ……飛びこめ」

光が消えて無くなったとたん、エマが振り返ってきた。オレは、おもむろに腰を上げた。

「飛びこむのか……?」
「そうだ。早くしろ! この扉はあまり長い時間もたない」

急き立てるようにエマが言う。
オレは窓辺に寄った。見ると、窓ガラスが水面のように揺らいでいる。

そっと指先で触れてみた。
フニャリと表現していいのか、それは、オレが触れるのを待っていたかのごとく、指先を受け入れた。

なんか……ゼリーの中に指を突っこんだみたいで、気持ち悪いな。

すっと指を引き抜いて、そんなことを思っていると、後ろでエマが、ぞっとするほど低い声を放ってきた。

「貴様……おれの言ったことを聞いてなかったのか? なんなら、おれが手伝ってやろうか!?」
「わ、分かったってばっ。後ろから襲いかかってきそうな勢いで言うなよ! 怖いだろ!」
「……早くしろ」

短く言い捨てるエマに恐れをなして、窓枠に手をかけ、足からそこへ飛びこんだ。
すると、さっきの感覚が全身を突っきった。

うわ、気持ち悪いなぁ。
と、思うか思わないかのうちにオレの体は宙に浮いた。

次の瞬間、ドシンと、したたか腰を打った。身体中にしびれが走る。

───ってぇ……。
腰の辺りをなでつつ、ふと周囲に視線を向けた。

ここが───スメルムーン……!?

穏やかな片田舎の雰囲気。
果樹園らしき畑が広がる向こう、濃い緑色をした大きな山が見える。
舗装などはされてなく、人の足で作られたであろう道に、オレは座っていた。

ストン、と、オレとは違って軽やかに、エマがオレの横に着地した。

「アサクラ、何をしておる。立たぬか」

ぼーっと辺りを見回していたオレは、目の前の畑を指しながら腰を上げた。

「これって……なんか作ってるんだろ? 宝石以外にも、なんか食うの?」
「───……これには、サファイアがりるのだ」
「え、ウソだろっ?」

すげーな、と感心していると、エマが、くっと笑った。

「何だ。信じたのか?お前はスメルムーンでは生きてはいけぬな」

ふっと、遠い目つきをする。

「ここは、弱肉強食がすべてだ。人を迂闊うかつに信用すると、寝首をかかれるぞ」

言って目を伏せたのち、エマは、まだ実のない果樹園を見た。

「これらは、隣国へ出荷するものだ。
スメルムーンでは、よほど貧しい者で無い限り、果実は主食とはしない。体質に合わぬ場合が多いからな」

へぇ……。身体の造りが、オレとエマとじゃ違うってことなのかな。
そんなことを頭の片隅で考えながら、口を開いた。

「で、エマ。これから、どこへ行くんだ?」

エマは息をつき、厄介ごとを抱えたように腰に手をあてながら、空を仰いだ。

「ティアはカミューラによって連れ去られたわけだが。
もちろんそれは、ティアにふたたび涙を流させ“スメルムーンの涙”を生産させるために他なるまい。
そして、それを必要としている者は……」
「ユーヤ・ド・ダラス───」

つぶやくようにオレが言うと、エマはうなずいてみせ、

「ということは、いまティアは、ユーヤの所にいると考えるのが、妥当だな」

静かに言いきった。

「じゃあ、これからユーヤの所へのりこむのか?」
「いや」

考えこむように片手で口元を覆い、エマは先を続けた。

「ユーヤの周りが手薄なら、それもよかろう。
だが、ユーヤと顔を合わせるまでに、多少時間がかかる───奴には、護衛がいるからな。

また、それらを片付けたとしても、ユーヤがすんなりとティアを引き渡すとは思えない。
となると、実力行使だが、ユーヤ自身、腕が立つ。
……おれと貴様では、歯が立たぬだろう」

くっ……ティアが遠ざかるなぁ……。

「味方とか、いないワケ?」

絶望的な状況に、ひとすじの希望の光を求める思いで言うと、エマは視線を地面に落とした。

「いることは……いる。ひとりだけな」

なんだか、物憂い表情。が、構わずにオレは言った。

「じゃ、そいつに頼もう。二人より三人のほうが、いいもんな」

しばらくのあいだ、エマは黙りこんだ。
それは、決断にとまどっている様子で、エマらしくなかった。

そんなに……ワケありの奴なのかな。

「───行こう」

やがてエマは思いきるように、オレを見て微笑んだ。



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