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第二章 異世界への扉
10.親父にエマを紹介する
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◆ ◆ ◆
その夜、親父にエマを紹介した。
エマと二人、これまでの経緯を話して、スメルムーンに行くことを告げた。
親父は、ずいぶんと長い間、黙っていた。
「───そうか……それで、与太郎の様子が変だったんだな……」
やがて独り言のように、納得した口振りで親父が言った。直後、情けない顔をする。
「となると、僕の食事の世話とか……家事一切は、誰が面倒みてくれるんだ?」
「一応、香緒里に頼んできた」
「そうかそうか。それなら、行ってもいいぞ」
おい、子供をなんだと思ってるんだっ。
面白くない気分のオレをよそに、親父はニコニコ顔から真顔になって、エマを見た。
「エマさん、と、おっしゃいましたっけ……。
正直に言って、私は、あなたの話には半信半疑です。私の今までの価値観では、図れないことが多すぎます。
ですが、あなたも与太郎も、真剣であるということは、伝わってきました。それを、信じたいと思います。
与太郎は幼い頃から、自分が思い立ったら、どんな困難なことでも最善を尽くすことを、惜しまない子でした。
今も、そうでしょう。
そんな与太郎が、あなたについて行き、あなたを手伝いたいと言っている。
私が反対しても、きっとこの子は、自分の意志を通すと思います。
……それなら、私の言いたいことは、ひとつです。
与太郎のことを、よろしくお願いします」
言って、頭を下げる親父に、エマは少しかすれた声で、それでも力強く答えた。
「はい」
うなずくエマを見届け、親父がオレに視線を移した。
「与太郎。しっかり頑張ってくるんだぞ」
◆ ◆ ◆
親父に最後の夕食を作ってやり、部屋に戻った。
あ。
最後だなんて、縁起でもねーや。
ヤバイヤバイと思いながら、エマに言った。
「ところで。どうやってスメルムーンに行くんだ?」
「すぐに、着く」
エマは部屋の窓に目をやった。
「あそこを、入り口にする。おれの《言葉》でスメルムーンへの《扉》が開くようになっている」
「え……。そういうのって、簡単にできるものなのか?」
疑問に思って尋ねると、エマは、ふっと笑ってみせた。
「スメルムーンに、そういう特殊な《力》を持つ者がいる。元は、異国から来た者らしいが。
その者に、ある《言葉》を教えてもらう。
すると、教えてもらった者が、その《言葉》を異世界に行くとき発するとそれを受け取り、その者に対して、《扉》を開いてくれるのだ。
ただし、《言葉》の効力は、一度だけだがな。
ようするに、ふたつの《言葉》を教えてもらわなければ、異世界に行くことはできても、戻ることはできない訳だ。
もちろん、代償は払わなければならない。それは、人によって違うらしいが。質も、量も。
おれは、その者からティアの行き先を聞き、同じ世界の同じ場所に、《扉》を開いてもらったのだ」
オレは、その仕組みに感心しながらも、不思議に思って言った。
「ティアは、どうやってこの世界のことを知ったんだろう?」
エマの話を聞く限りじゃ、ティアは自ら望んで、この世界に来たってことになるよな。
どうして、わざわざ地球の日本の……オレが住んでいる街にやって来たんだろ。
「ティアは、こう言ったそうだ。
『自分と同じ言語を操る人がいる、そんな異世界に、《扉》を開いて欲しい』
と」
エマは静かに言い、さらにこう付け加えた。
「彼女は、その者から、ひとつだけしか《言葉》を聞かなかったそうだ。
……スメルムーンに戻るつもりは、なかったのだろう」
感情をこめないエマの声は、逆に言えば、何かを思いながら言葉にしているようにも聞こえた。
「さて」
声音に、いつものような厳しさを含み、エマが表情を引き締める。意思を確認するように、オレを見据えてきた。
「では、行くぞ」
うなずき返すと、エマは窓辺に寄った。
そして、窓ガラスに、大きく開いた右の手の平を置く。
その夜、親父にエマを紹介した。
エマと二人、これまでの経緯を話して、スメルムーンに行くことを告げた。
親父は、ずいぶんと長い間、黙っていた。
「───そうか……それで、与太郎の様子が変だったんだな……」
やがて独り言のように、納得した口振りで親父が言った。直後、情けない顔をする。
「となると、僕の食事の世話とか……家事一切は、誰が面倒みてくれるんだ?」
「一応、香緒里に頼んできた」
「そうかそうか。それなら、行ってもいいぞ」
おい、子供をなんだと思ってるんだっ。
面白くない気分のオレをよそに、親父はニコニコ顔から真顔になって、エマを見た。
「エマさん、と、おっしゃいましたっけ……。
正直に言って、私は、あなたの話には半信半疑です。私の今までの価値観では、図れないことが多すぎます。
ですが、あなたも与太郎も、真剣であるということは、伝わってきました。それを、信じたいと思います。
与太郎は幼い頃から、自分が思い立ったら、どんな困難なことでも最善を尽くすことを、惜しまない子でした。
今も、そうでしょう。
そんな与太郎が、あなたについて行き、あなたを手伝いたいと言っている。
私が反対しても、きっとこの子は、自分の意志を通すと思います。
……それなら、私の言いたいことは、ひとつです。
与太郎のことを、よろしくお願いします」
言って、頭を下げる親父に、エマは少しかすれた声で、それでも力強く答えた。
「はい」
うなずくエマを見届け、親父がオレに視線を移した。
「与太郎。しっかり頑張ってくるんだぞ」
◆ ◆ ◆
親父に最後の夕食を作ってやり、部屋に戻った。
あ。
最後だなんて、縁起でもねーや。
ヤバイヤバイと思いながら、エマに言った。
「ところで。どうやってスメルムーンに行くんだ?」
「すぐに、着く」
エマは部屋の窓に目をやった。
「あそこを、入り口にする。おれの《言葉》でスメルムーンへの《扉》が開くようになっている」
「え……。そういうのって、簡単にできるものなのか?」
疑問に思って尋ねると、エマは、ふっと笑ってみせた。
「スメルムーンに、そういう特殊な《力》を持つ者がいる。元は、異国から来た者らしいが。
その者に、ある《言葉》を教えてもらう。
すると、教えてもらった者が、その《言葉》を異世界に行くとき発するとそれを受け取り、その者に対して、《扉》を開いてくれるのだ。
ただし、《言葉》の効力は、一度だけだがな。
ようするに、ふたつの《言葉》を教えてもらわなければ、異世界に行くことはできても、戻ることはできない訳だ。
もちろん、代償は払わなければならない。それは、人によって違うらしいが。質も、量も。
おれは、その者からティアの行き先を聞き、同じ世界の同じ場所に、《扉》を開いてもらったのだ」
オレは、その仕組みに感心しながらも、不思議に思って言った。
「ティアは、どうやってこの世界のことを知ったんだろう?」
エマの話を聞く限りじゃ、ティアは自ら望んで、この世界に来たってことになるよな。
どうして、わざわざ地球の日本の……オレが住んでいる街にやって来たんだろ。
「ティアは、こう言ったそうだ。
『自分と同じ言語を操る人がいる、そんな異世界に、《扉》を開いて欲しい』
と」
エマは静かに言い、さらにこう付け加えた。
「彼女は、その者から、ひとつだけしか《言葉》を聞かなかったそうだ。
……スメルムーンに戻るつもりは、なかったのだろう」
感情をこめないエマの声は、逆に言えば、何かを思いながら言葉にしているようにも聞こえた。
「さて」
声音に、いつものような厳しさを含み、エマが表情を引き締める。意思を確認するように、オレを見据えてきた。
「では、行くぞ」
うなずき返すと、エマは窓辺に寄った。
そして、窓ガラスに、大きく開いた右の手の平を置く。
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