【完結】拾った猫が超絶美少女だったので、彼女を救うため異世界に行って来ます!

一茅苑呼

文字の大きさ
上 下
16 / 79
第二章 異世界への扉

4.ティアの想い

しおりを挟む
その子のことを、忘れろなんて、オレには言えない。言うつもりもなかった。

だけど───。

三人で野球を観に行った帰り、付き合って欲しいと言った美咲に、直哉は、
「そんな暇があったら、サッカーやってる方がいい」
って、ぶっきらぼうに、答えたんだ。

かなりの勇気をだして言っただろう美咲の告白を、そんな言い方ではねつけた直哉が、オレには信じられなかった。

直哉は、そんな……相手を傷つけるようなことを言う奴じゃ、なかった。だからこそ余計に、腹が立った。

カッとなるままオレの口をついてでた言葉は、
「いつまでも、そんなワケ分かんねー女のこと、ウジウジ想ってんじゃねーよ」
だった……。

     ◆  ◆  ◆

思い返すと、なんか、オレのほうが悪いような気もするな。
言葉を選べないほど、美咲に肩入れしてたってことなのか? うーん。

ま、それもあるだろうけど、オレが直哉のことを、悪い意味で親友だと思っていたのかもな。

どんなに親しい間柄でも、踏み越えちゃいけない一線ってものが、あるんだ。
オレは、それを忘れてた。

───そうして、直哉と口をきかないまま、二週間が経ってしまった。

こんなに長いケンカは、初めてだった。
いつも些細ささいなことでケンカはしたけど、翌日には何事もなかったかのように、お互い接していたし。

大きく溜息をついた。
いつの間にか足もとに穴を掘っていたらしく、履き慣れたスニーカーは、土にまみれていた。
……げ。

「アサクラ、そろそろ帰らない?」

ティアに声をかけられ、オレはずっと訊きたかったことを口にした。

「あのさ、ティア。
───スメルムーンに、帰る気はないワケ?」

予想しなかった言葉なのか、彼女は驚いたようにオレを見た。それから、目を伏せる。

「そうね。アサクラにしてみれば、あたしやエマの存在は、迷惑よね」
「う、いや……」

当たらずとも遠からずって感じかな。
迷惑、とまではいかなくても、正直、この事態にとまどってはいるし。

いきなり見ず知らずの、しかも異世界からやって来たという二人との同居に、日数が経ったいま、ようやく困惑してきたというか……。

ひとりで抱えこむには、ひょっとしたら、大きすぎる問題なんじゃないかって、そう思えてきていた。

でも、さっきティアに投げかけたのは、そういった思惑なしでの、純粋な疑問だった。

「そういう意味で言ったんじゃなくてさ。訊きたかったんだ、単純に。このまま、こっちの世界で暮らすのか、それとも、元の世界に戻るのか。
ティアは、どうしたいのか」

言葉を重ねたオレに、ティアは思いきったように話し始めた。

「あたし……!」

いったん唇をひき結び、ティアは目を細める。

「ユーヤ様が、好きだったの……」

言われた意味が解らずに、数秒、ティアを見返した。

だって、さ。
あれだろ、ユーヤ様って……ユーヤ・ド・ダラスのことだろ!?

ダラス家の長男で、腹黒で。
カミューラと組んでティアを創造して、スメルムーンの王になったって、奴だろ?

そのままオレが黙っていると、ティアがふたたび口を開いた。

「彼の側で、花を摘むのが好きだった。最初は、側にいられるだけで良かったのに……。
───ユーヤ様にとってあたしは、“涙”を流す人形でしかないって気づいた時、つらかった。

自分の存在価値が、それだけしかないって思われていることが、たまらなく嫌だったの。
……結局あたしは、ユーヤ様に愛されたかったのよ。

そんな自分が欲張りに思えて、もっと、つらくなった。ユーヤ様と、同じ立場に生まれたかった……!!」

ティアの涙が、頬を幾筋も流れた。
あごを伝って宙に浮くと、光りながらそれは、サファイアになりエメラルドになり、ガーネットに変わっていった。

涙が宝石となって、転がっていた。

「あたし……帰れないわ。多分、帰ることは、できない。
ごめんね、アサクラ。落ち着くまで、家に置いて欲しいの。落ち着いたら、ちゃんと出て行くから。
お願い」
「……分かった」

他に言葉が、でなかった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜

KeyBow
ファンタジー
 この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。  人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。  運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。  ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

おっさんの異世界建国記

なつめ猫
ファンタジー
中年冒険者エイジは、10年間異世界で暮らしていたが、仲間に裏切られ怪我をしてしまい膝の故障により、パーティを追放されてしまう。さらに冒険者ギルドから任された辺境開拓も依頼内容とは違っていたのであった。現地で、何気なく保護した獣人の美少女と幼女から頼られたエイジは、村を作り発展させていく。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。繁栄も滅亡も、私の導き次第で決まるようです。

木山楽斗
ファンタジー
宿屋で働くフェリナは、ある日森で卵を見つけた。 その卵からかえったのは、彼女が見たことがない生物だった。その生物は、生まれて初めて見たフェリナのことを母親だと思ったらしく、彼女にとても懐いていた。 本物の母親も見当たらず、見捨てることも忍びないことから、フェリナは謎の生物を育てることにした。 リルフと名付けられた生物と、フェリナはしばらく平和な日常を過ごしていた。 しかし、ある日彼女達の元に国王から通達があった。 なんでも、リルフは竜という生物であり、国を繁栄にも破滅にも導く特別な存在であるようだ。 竜がどちらの道を辿るかは、その母親にかかっているらしい。知らない内に、フェリナは国の運命を握っていたのだ。 ※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」にも掲載しています。 ※2021/09/03 改題しました。(旧題:刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。)

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...