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第二章 異世界への扉
4.ティアの想い
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その子のことを、忘れろなんて、オレには言えない。言うつもりもなかった。
だけど───。
三人で野球を観に行った帰り、付き合って欲しいと言った美咲に、直哉は、
「そんな暇があったら、サッカーやってる方がいい」
って、ぶっきらぼうに、答えたんだ。
かなりの勇気をだして言っただろう美咲の告白を、そんな言い方ではねつけた直哉が、オレには信じられなかった。
直哉は、そんな……相手を傷つけるようなことを言う奴じゃ、なかった。だからこそ余計に、腹が立った。
カッとなるままオレの口をついてでた言葉は、
「いつまでも、そんなワケ分かんねー女のこと、ウジウジ想ってんじゃねーよ」
だった……。
◆ ◆ ◆
思い返すと、なんか、オレのほうが悪いような気もするな。
言葉を選べないほど、美咲に肩入れしてたってことなのか? うーん。
ま、それもあるだろうけど、オレが直哉のことを、悪い意味で親友だと思っていたのかもな。
どんなに親しい間柄でも、踏み越えちゃいけない一線ってものが、あるんだ。
オレは、それを忘れてた。
───そうして、直哉と口をきかないまま、二週間が経ってしまった。
こんなに長いケンカは、初めてだった。
いつも些細なことでケンカはしたけど、翌日には何事もなかったかのように、お互い接していたし。
大きく溜息をついた。
いつの間にか足もとに穴を掘っていたらしく、履き慣れたスニーカーは、土にまみれていた。
……げ。
「アサクラ、そろそろ帰らない?」
ティアに声をかけられ、オレはずっと訊きたかったことを口にした。
「あのさ、ティア。
───スメルムーンに、帰る気はないワケ?」
予想しなかった言葉なのか、彼女は驚いたようにオレを見た。それから、目を伏せる。
「そうね。アサクラにしてみれば、あたしやエマの存在は、迷惑よね」
「う、いや……」
当たらずとも遠からずって感じかな。
迷惑、とまではいかなくても、正直、この事態にとまどってはいるし。
いきなり見ず知らずの、しかも異世界からやって来たという二人との同居に、日数が経ったいま、ようやく困惑してきたというか……。
ひとりで抱えこむには、ひょっとしたら、大きすぎる問題なんじゃないかって、そう思えてきていた。
でも、さっきティアに投げかけたのは、そういった思惑なしでの、純粋な疑問だった。
「そういう意味で言ったんじゃなくてさ。訊きたかったんだ、単純に。このまま、こっちの世界で暮らすのか、それとも、元の世界に戻るのか。
ティアは、どうしたいのか」
言葉を重ねたオレに、ティアは思いきったように話し始めた。
「あたし……!」
いったん唇をひき結び、ティアは目を細める。
「ユーヤ様が、好きだったの……」
言われた意味が解らずに、数秒、ティアを見返した。
だって、さ。
あれだろ、ユーヤ様って……ユーヤ・ド・ダラスのことだろ!?
ダラス家の長男で、腹黒で。
カミューラと組んでティアを創造して、スメルムーンの王になったって、奴だろ?
そのままオレが黙っていると、ティアがふたたび口を開いた。
「彼の側で、花を摘むのが好きだった。最初は、側にいられるだけで良かったのに……。
───ユーヤ様にとってあたしは、“涙”を流す人形でしかないって気づいた時、つらかった。
自分の存在価値が、それだけしかないって思われていることが、たまらなく嫌だったの。
……結局あたしは、ユーヤ様に愛されたかったのよ。
そんな自分が欲張りに思えて、もっと、つらくなった。ユーヤ様と、同じ立場に生まれたかった……!!」
ティアの涙が、頬を幾筋も流れた。
あごを伝って宙に浮くと、光りながらそれは、サファイアになりエメラルドになり、ガーネットに変わっていった。
涙が宝石となって、転がっていた。
「あたし……帰れないわ。多分、帰ることは、できない。
ごめんね、アサクラ。落ち着くまで、家に置いて欲しいの。落ち着いたら、ちゃんと出て行くから。
お願い」
「……分かった」
他に言葉が、でなかった。
だけど───。
三人で野球を観に行った帰り、付き合って欲しいと言った美咲に、直哉は、
「そんな暇があったら、サッカーやってる方がいい」
って、ぶっきらぼうに、答えたんだ。
かなりの勇気をだして言っただろう美咲の告白を、そんな言い方ではねつけた直哉が、オレには信じられなかった。
直哉は、そんな……相手を傷つけるようなことを言う奴じゃ、なかった。だからこそ余計に、腹が立った。
カッとなるままオレの口をついてでた言葉は、
「いつまでも、そんなワケ分かんねー女のこと、ウジウジ想ってんじゃねーよ」
だった……。
◆ ◆ ◆
思い返すと、なんか、オレのほうが悪いような気もするな。
言葉を選べないほど、美咲に肩入れしてたってことなのか? うーん。
ま、それもあるだろうけど、オレが直哉のことを、悪い意味で親友だと思っていたのかもな。
どんなに親しい間柄でも、踏み越えちゃいけない一線ってものが、あるんだ。
オレは、それを忘れてた。
───そうして、直哉と口をきかないまま、二週間が経ってしまった。
こんなに長いケンカは、初めてだった。
いつも些細なことでケンカはしたけど、翌日には何事もなかったかのように、お互い接していたし。
大きく溜息をついた。
いつの間にか足もとに穴を掘っていたらしく、履き慣れたスニーカーは、土にまみれていた。
……げ。
「アサクラ、そろそろ帰らない?」
ティアに声をかけられ、オレはずっと訊きたかったことを口にした。
「あのさ、ティア。
───スメルムーンに、帰る気はないワケ?」
予想しなかった言葉なのか、彼女は驚いたようにオレを見た。それから、目を伏せる。
「そうね。アサクラにしてみれば、あたしやエマの存在は、迷惑よね」
「う、いや……」
当たらずとも遠からずって感じかな。
迷惑、とまではいかなくても、正直、この事態にとまどってはいるし。
いきなり見ず知らずの、しかも異世界からやって来たという二人との同居に、日数が経ったいま、ようやく困惑してきたというか……。
ひとりで抱えこむには、ひょっとしたら、大きすぎる問題なんじゃないかって、そう思えてきていた。
でも、さっきティアに投げかけたのは、そういった思惑なしでの、純粋な疑問だった。
「そういう意味で言ったんじゃなくてさ。訊きたかったんだ、単純に。このまま、こっちの世界で暮らすのか、それとも、元の世界に戻るのか。
ティアは、どうしたいのか」
言葉を重ねたオレに、ティアは思いきったように話し始めた。
「あたし……!」
いったん唇をひき結び、ティアは目を細める。
「ユーヤ様が、好きだったの……」
言われた意味が解らずに、数秒、ティアを見返した。
だって、さ。
あれだろ、ユーヤ様って……ユーヤ・ド・ダラスのことだろ!?
ダラス家の長男で、腹黒で。
カミューラと組んでティアを創造して、スメルムーンの王になったって、奴だろ?
そのままオレが黙っていると、ティアがふたたび口を開いた。
「彼の側で、花を摘むのが好きだった。最初は、側にいられるだけで良かったのに……。
───ユーヤ様にとってあたしは、“涙”を流す人形でしかないって気づいた時、つらかった。
自分の存在価値が、それだけしかないって思われていることが、たまらなく嫌だったの。
……結局あたしは、ユーヤ様に愛されたかったのよ。
そんな自分が欲張りに思えて、もっと、つらくなった。ユーヤ様と、同じ立場に生まれたかった……!!」
ティアの涙が、頬を幾筋も流れた。
あごを伝って宙に浮くと、光りながらそれは、サファイアになりエメラルドになり、ガーネットに変わっていった。
涙が宝石となって、転がっていた。
「あたし……帰れないわ。多分、帰ることは、できない。
ごめんね、アサクラ。落ち着くまで、家に置いて欲しいの。落ち着いたら、ちゃんと出て行くから。
お願い」
「……分かった」
他に言葉が、でなかった。
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