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第二章 異世界への扉
2.エマの目的
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「ティアがいなくて、正解だったな……」
溜息まじりに言うと、エマが苦々しい表情でオレを見た。
「しかし───アサクラ、ティアはこの噂を、おそらく知っているだろう」
「ティアが……?」
「あぁ。『こちら』に来たのも、その辺りが原因の一部ではないのかと思うのだが……。
何とも言えぬな。ティアは」
言いながらエマは、物憂い瞳をした。
「これから、どうすべきかを、考えているのだろうか……」
オレはうつむいた。
ティアは今後について、何も語ってはいない。
考えたくないのか、あるいは、考えていても言えないのか。どちらか、オレには分からない。
「───綺麗だな」
唐突に言われて、一瞬、返答につまる。
エマの視線の先が、窓の外の月に向けられているのが分かり、小さく相づちをうった。
ふと、言ったきり押し黙ってしまっているエマを見た。潔癖そうな横顔は、なんだか近づき難いものがある。
オレにとって、分からないのは……本当は、ティアだけでなく、エマも同じだった。
ティアを追いかけて来たことだけは、分かる。
でも、それにしては、ティアをすぐに連れ戻すような素振りを見せていないしな。
ティアの意思に任せているような、無理強いは嫌なような……。
カミューラからティアを守ったということは、彼女とは違う目的で、ティアを追いかけて来たってことだよな。
オレの視線に気づいたのか、ふっ……と、エマがこちらを見た。
「何だ、アサクラ。あまり人の顔をじろじろ見るな」
「あぁ、ごめん」
ごまかすように笑って、オレは立ち上がった。
「窓、開けてもいいかな?」
窓枠に手をかけて、肩ごしに振り返ると、エマは軽くうなずいた。
窓を開けると、少しひんやりとした風が、部屋のなかへ入りこんできた。
◆ ◆ ◆
上半身を起こして、ベッドの下へ目をやった。
鳶色のオオカミと銀色の猫が、身体を丸めて寄り添い、交互に寝息を立てている。
ティア……。
銀の毛並みに指を伸ばしかけ、ビクッと手を引っこめた。
───さっき見た夢が、脳裏をよぎったんだ。
見も知らない大人たちが、ティアをどこまでもどこまでも追いかけて行き、しまいには、手にした刃物でティアの腹を刺すという、なんとも惨たらしい夢が。
ほとばしる鮮血、耳をつんざくティアの悲鳴───。
うう、吐き気がする。
オレ、血とかってダメなんだよな。それが他人のものだと、よけいに。
何か飲んで、落ち着こう。
ティアやエマを起こさないよう、なるべく音を立てずにベッドから降りる。
それから壁時計を見た。もう、朝方だった。
ダイニングでお湯を沸かし、お茶を入れた。
マグカップに注いだお茶に、ふーっと息を吹きかけて、冷ます。
やっぱり、何をおいても玄米茶。うまいなー。
オレって、お茶飲んでる時が、一番落ち着くんだよな。
たとえジジ臭いと言われようとも、オレは一生、玄米茶を尊敬してやるっ。
あー、ほのぼのしてて、いいなぁ。
こうしていると、視界に広がった血の雨も、ガンガン耳に響いたティアの絶叫も忘れ……ていた、つもりなんだけどなぁ……。
ダメだ、こんなんじゃ。
ぐいっと、お茶を飲み干す。
うん。忘れたぞ。カンペキだ。
思いださないうちに、寝てしまおう……。
溜息まじりに言うと、エマが苦々しい表情でオレを見た。
「しかし───アサクラ、ティアはこの噂を、おそらく知っているだろう」
「ティアが……?」
「あぁ。『こちら』に来たのも、その辺りが原因の一部ではないのかと思うのだが……。
何とも言えぬな。ティアは」
言いながらエマは、物憂い瞳をした。
「これから、どうすべきかを、考えているのだろうか……」
オレはうつむいた。
ティアは今後について、何も語ってはいない。
考えたくないのか、あるいは、考えていても言えないのか。どちらか、オレには分からない。
「───綺麗だな」
唐突に言われて、一瞬、返答につまる。
エマの視線の先が、窓の外の月に向けられているのが分かり、小さく相づちをうった。
ふと、言ったきり押し黙ってしまっているエマを見た。潔癖そうな横顔は、なんだか近づき難いものがある。
オレにとって、分からないのは……本当は、ティアだけでなく、エマも同じだった。
ティアを追いかけて来たことだけは、分かる。
でも、それにしては、ティアをすぐに連れ戻すような素振りを見せていないしな。
ティアの意思に任せているような、無理強いは嫌なような……。
カミューラからティアを守ったということは、彼女とは違う目的で、ティアを追いかけて来たってことだよな。
オレの視線に気づいたのか、ふっ……と、エマがこちらを見た。
「何だ、アサクラ。あまり人の顔をじろじろ見るな」
「あぁ、ごめん」
ごまかすように笑って、オレは立ち上がった。
「窓、開けてもいいかな?」
窓枠に手をかけて、肩ごしに振り返ると、エマは軽くうなずいた。
窓を開けると、少しひんやりとした風が、部屋のなかへ入りこんできた。
◆ ◆ ◆
上半身を起こして、ベッドの下へ目をやった。
鳶色のオオカミと銀色の猫が、身体を丸めて寄り添い、交互に寝息を立てている。
ティア……。
銀の毛並みに指を伸ばしかけ、ビクッと手を引っこめた。
───さっき見た夢が、脳裏をよぎったんだ。
見も知らない大人たちが、ティアをどこまでもどこまでも追いかけて行き、しまいには、手にした刃物でティアの腹を刺すという、なんとも惨たらしい夢が。
ほとばしる鮮血、耳をつんざくティアの悲鳴───。
うう、吐き気がする。
オレ、血とかってダメなんだよな。それが他人のものだと、よけいに。
何か飲んで、落ち着こう。
ティアやエマを起こさないよう、なるべく音を立てずにベッドから降りる。
それから壁時計を見た。もう、朝方だった。
ダイニングでお湯を沸かし、お茶を入れた。
マグカップに注いだお茶に、ふーっと息を吹きかけて、冷ます。
やっぱり、何をおいても玄米茶。うまいなー。
オレって、お茶飲んでる時が、一番落ち着くんだよな。
たとえジジ臭いと言われようとも、オレは一生、玄米茶を尊敬してやるっ。
あー、ほのぼのしてて、いいなぁ。
こうしていると、視界に広がった血の雨も、ガンガン耳に響いたティアの絶叫も忘れ……ていた、つもりなんだけどなぁ……。
ダメだ、こんなんじゃ。
ぐいっと、お茶を飲み干す。
うん。忘れたぞ。カンペキだ。
思いださないうちに、寝てしまおう……。
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