【完結】拾った猫が超絶美少女だったので、彼女を救うため異世界に行って来ます!

一茅苑呼

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第一章 真夜中の訪問者

7.セーラー服と涙

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最寄りの駅に着き、改札口を抜け、腕時計に目を落とした。時計の針は、八時十分過ぎを示している。

あたりはすっかり真っ暗で、駅前の自転車置き場の街灯だけが、頼りなげな光を発していた。

失敗したなー。後片づけに時間くったうえに、一本電車遅らせちまったからなぁ……。

親父には悪いけど、今日はインスタント物で、適当に晩メシ済ませてもらうかな。

駅からオレの家までは、自転車で約30分くらい。

家路の途中には、コンビニはもちろん、大型スーパーもあったけど、今日は部活の疲れも手伝って、まっすぐに帰りたい気分だった。

家まであと百メートルくらいとなり、角を曲がった直後、ブレーキをかけた。

セーラー服を着た女の子が、後ろ姿からもハッキリ分かるくらい肩を震わせ、泣いていた。

ここらじゃ見かけないセーラー服だな……。
えりとスカートが小豆あずき色で、スカーフが黒いものだった。

オレはそっと声をかけた。

「どうしたの?」

自転車を止め、端に置く。

顔を覆っていた両手をゆっくりと下ろし、その子はオレに向かって、なんとも優雅に微笑んだ。

「ごめんなさい。お気になさらないで……」

褐色がかった髪は、軽くウェーブがかかり、腰まであった。
少し幅の広いカチューシャで髪を留めて、整った形のいい額を、惜しみなく出している。

潤んだ瞳が、痛々しい。

今どきの子にしては堅苦しい話し方と見慣れない制服は、私立のお嬢様学校の生徒とかだろうか。
何か、よっぽどの事情があるのかも知れない。

「でも、さ。もう遅いから、早く家に帰ったほうが、いいよ」
「───ありがとう。
お名前、なんておっしゃるのかしら?」

かれて、オレは素直に答えた。

「朝倉」
「あさくら……下のお名前は?」
「与太……くっ」

やんわりとした口調につられて正直に答えかけたが、途中で止めた。
笑われたくないんだよな……。

ところが、彼女はくすっと笑った。

「よたく君? おもしろい、お名前ね」

どちらにしても笑われてしまうオレって、喜劇のヒーロー……。

「ねぇ、朝倉くん」

名字で呼ばれ、少しホッとしながら何かと答えた。

「自転車で、私の家まで送ってもらえないかしら?」
「え?」
「私の家、この先にあるんだけど……ダメ?」

最後は少し甘えるように、上目遣いでオレを見る。

聞きようによっちゃ、だいぶ図々しい話だけど、いいんだ、可愛い子はどんどん男を利用して。

「いいよ。乗って」

言いながらオレは自転車に乗り、親指で荷台を指した。
彼女は、そっと、そこに腰掛けた……。

     ◆  ◆  ◆

星も出ている暗い夜道を走るにつれ、なんだかフワフワと宙に浮いているような、そんな気分になってきた。

あれ……変だな。
思考、能力が、衰えていくみたいだ……。

そのうちに、ふわっと甘い香りの空気がオレの周りをただよい、包みこみ始めた。

意識が朦朧もうろうとしているのに、オレはなお、自転車をこいでいた。

オレ、ここで何しているんだろ───。

「もうそろそろ、いいかしら。
朝倉くん。こちらを向いてくださらない?」

その声に誘われるように、なんのためらいもなく、後ろを振り返った。

「ふふっ……。いい? よく聞いてね。
ティアっていう少女を知っているわね?
……やっぱり……。こんな所まで逃れて来ていたのね、あの子……。

それでね、朝倉くん。
ティアを誰にも気づかれないように、連れて来て欲しいの。

……誰にも、よ?
私は、あそこの空き地で待っているから」



ティア……ティア……。

「与太郎。僕はお腹がすいたぞ。早く何かこしらえてくれ」

ティア───。

「戸棚に、カップ麺があるだろ? それ食えよ。オレは忙しい」

そうだ。オレは忙しいんだ。
ティアを連れて行かなくてはいけないんだ。

ティアはどこにいるんだ……?

あぁ、あそこに、いる。ティアだ。

「ティア、おいで。散歩しよう」

ティアがオレの腕のなかに飛びこんでくる。

「与太郎。今からどこに行くんだ? もう九時だぞ」
「うるさいな。オレの勝手だろ?」
「しかし……」
「放っておいてくれよ!」

ティアを連れて行かなきゃ、いけないんだ……彼女の元へ。
誰にも……エマにも見つからないように、そっと。

「連れて来たよ。ティアだ……」
「まぁ、これがティア? 小生意気にも変身能力を身につけていたのね。
ティア、久しぶりね」
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