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第一章 真夜中の訪問者
6.ティアの涙は宝石になる
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「そんなこと……ティアの口から聞かなくても、分かるよ。
詳しい事情は分からなくても、でも、だいたいは想像がつく。わざわざティアに言わせるなよ。
エマだったて本当は、理由くらい、オレなんかより予想がつくんじゃないのか?」
ふん、と、エマは鼻を鳴らした。
「思ったより馬鹿ではないようだな」
ばっ……、馬鹿って、お前な……。
これでも学校では、優等生で通ってるんだぞ、一応。
憤然とエマから視線をそらし、なにげなくティアを見た。
あ……。
───ティアは、泣いていた。
月明かりのなか、ティアの涙はきらめいていた。
彼女のひざ上に落ちる過程で宝石となり、音を立ててカーペットへと転がった。
まぶしいくらいに光るそれは、ダイヤモンド、サファイア、アメジスト、ルビー……等々の、小さな粒へと変化した。
す、すげー……。
マジかよ、なんか香緒里が喜びそうだな。
「ティア───」
オレとエマは、同時に彼女の名前を口にした。
しかし───。
「どうしたんだよ……?」
涙のわけを、分かりそうで分からなかったオレが気遣って声をかけたのに対し、
「ひとつ貰うぞ。腹が減った」
などと、ティアの側に転がったサファイアをつまんで口に入れるエマに、オレは二重の意味で、ギョッとした。
うわっ、ホントに食いやがった、こいつ! しかも、このタイミングで!
「お前なぁっ、心配するという言葉を知らんのかっ!?」
「なんの心配だ」
怒鳴るオレに、エマは平然と答えた。
こいつ嫌いだよ、オレ。
思いやりのない奴って、最低だ。
エマを心のなかで非難した時、ふいに直哉のことを思いだした。
あいつは……思いやりのある、いい奴だった。
だけど、あいつがとった態度は、思いやりのかけらもなかった。
それが、オレには不満だったんだ。あいつらしくなくて。
───けど。
オレが直哉にかけた言葉、あれは、思いやりがあったといえるのか……?
あいつの心を、土足で踏みにじったんじゃないのか……?
強く、唇をかんだ。
なんで、もっとあいつのことを、考えてやれなかったんだろ、オレ。親友が、聞いてあきれるよ。
最低なのは、オレのほうか。エマのこと言えた義理じゃないや……。
「───少年、暗くなるな。心配していたのは、どうしたのだ? 逆にティアのほうが、心配顔だぞ?」
からかうような響きのエマの声に、ドキッとした。
うう、やっぱりオレって、香緒里の言ってた通り、思っていることが、顔に出る性質なんだ……。
「アサクラ、どうかしたの?」
逆にティアに尋ねられ、オレは立つ瀬がなかった。
「いや……オレのことより、ティアの方こそ、どうしたんだよ?」
もう一度、同じ質問をぶつけると、彼女は小さく笑った。
「あたしはいいの。大したことじゃないから。
あたし、泣き虫なのよ。気にしないで」
「そうだな。そのほうが都合がいい」
横にいるエマがぼそりと言った。
ほんっとに、こいつって、性格悪いなっ。
オレはエマを思いきりにらみつけた。
エマと目が合って、一瞬、エマが目を見開いた。
予想外の反応にオレが驚いていると、エマのほうが先に視線をそらした。
が、もっと驚いたのは、横を向いたエマの頬が微かに赤らんだ気がしたことだ。
うーん、これは、どう取ったらいいんだ?
照れ、か。でも、どうして照れるんだ? 照れる場面じゃないよな。
……いや待てよ。オレに惚れたとか?
───な~んてな。んなワケあるかっ、だよな。
はははと自分のくだらない思いつきを笑い飛ばしかけ、はたと我に返る。
……まさか、な。
ちらりとエマを盗み見る。
……もし、エマが同性愛者だとしたら、ちょ、ちょっと身の危険を感じるな、オレ。
いや、偏見とかはないつもりだったけど、いざ自分が当事者になるかもと思うと、話は別だ。
うん。きっとオレの気のせいだ。
それに、無理ヤリとかは、きっとないだろうしな。異性愛者同士と同じだろ、相手が嫌がることをしたらダメたろうし、アウトだ。
……とはいえ、エマは凶器持ちだ。一応、心の片隅になくはないと思っておこう……。
一抹の警戒心を抱くオレの前で、エマはティアのひざ先を指差した。
「ティア、それを全部貰っても良いか?」
「ん……いいわよ」
「ならば、貰うぞ」
エマがティアの側に落ちた宝石をかき集める。
「……つらくない?」
エマを尻目に、ティアに尋ねると、彼女はためらいもなく首を振った。
「平気よ。それがあたしの役目だから。
あたしは、そのために生まれて来たのだから」
笑って答えてくれたけど、これって建て前だよな、絶対。
しんみりとするオレの耳に、エマのつぶやきが入る。
「ダイヤは硬くていかんな。それに不味い。やはりサファイアが一番だ。アサクラ、ダイヤは貴様にやろう」
「く、くれるのかっ!?」
……あぁ、オレって現金……。
詳しい事情は分からなくても、でも、だいたいは想像がつく。わざわざティアに言わせるなよ。
エマだったて本当は、理由くらい、オレなんかより予想がつくんじゃないのか?」
ふん、と、エマは鼻を鳴らした。
「思ったより馬鹿ではないようだな」
ばっ……、馬鹿って、お前な……。
これでも学校では、優等生で通ってるんだぞ、一応。
憤然とエマから視線をそらし、なにげなくティアを見た。
あ……。
───ティアは、泣いていた。
月明かりのなか、ティアの涙はきらめいていた。
彼女のひざ上に落ちる過程で宝石となり、音を立ててカーペットへと転がった。
まぶしいくらいに光るそれは、ダイヤモンド、サファイア、アメジスト、ルビー……等々の、小さな粒へと変化した。
す、すげー……。
マジかよ、なんか香緒里が喜びそうだな。
「ティア───」
オレとエマは、同時に彼女の名前を口にした。
しかし───。
「どうしたんだよ……?」
涙のわけを、分かりそうで分からなかったオレが気遣って声をかけたのに対し、
「ひとつ貰うぞ。腹が減った」
などと、ティアの側に転がったサファイアをつまんで口に入れるエマに、オレは二重の意味で、ギョッとした。
うわっ、ホントに食いやがった、こいつ! しかも、このタイミングで!
「お前なぁっ、心配するという言葉を知らんのかっ!?」
「なんの心配だ」
怒鳴るオレに、エマは平然と答えた。
こいつ嫌いだよ、オレ。
思いやりのない奴って、最低だ。
エマを心のなかで非難した時、ふいに直哉のことを思いだした。
あいつは……思いやりのある、いい奴だった。
だけど、あいつがとった態度は、思いやりのかけらもなかった。
それが、オレには不満だったんだ。あいつらしくなくて。
───けど。
オレが直哉にかけた言葉、あれは、思いやりがあったといえるのか……?
あいつの心を、土足で踏みにじったんじゃないのか……?
強く、唇をかんだ。
なんで、もっとあいつのことを、考えてやれなかったんだろ、オレ。親友が、聞いてあきれるよ。
最低なのは、オレのほうか。エマのこと言えた義理じゃないや……。
「───少年、暗くなるな。心配していたのは、どうしたのだ? 逆にティアのほうが、心配顔だぞ?」
からかうような響きのエマの声に、ドキッとした。
うう、やっぱりオレって、香緒里の言ってた通り、思っていることが、顔に出る性質なんだ……。
「アサクラ、どうかしたの?」
逆にティアに尋ねられ、オレは立つ瀬がなかった。
「いや……オレのことより、ティアの方こそ、どうしたんだよ?」
もう一度、同じ質問をぶつけると、彼女は小さく笑った。
「あたしはいいの。大したことじゃないから。
あたし、泣き虫なのよ。気にしないで」
「そうだな。そのほうが都合がいい」
横にいるエマがぼそりと言った。
ほんっとに、こいつって、性格悪いなっ。
オレはエマを思いきりにらみつけた。
エマと目が合って、一瞬、エマが目を見開いた。
予想外の反応にオレが驚いていると、エマのほうが先に視線をそらした。
が、もっと驚いたのは、横を向いたエマの頬が微かに赤らんだ気がしたことだ。
うーん、これは、どう取ったらいいんだ?
照れ、か。でも、どうして照れるんだ? 照れる場面じゃないよな。
……いや待てよ。オレに惚れたとか?
───な~んてな。んなワケあるかっ、だよな。
はははと自分のくだらない思いつきを笑い飛ばしかけ、はたと我に返る。
……まさか、な。
ちらりとエマを盗み見る。
……もし、エマが同性愛者だとしたら、ちょ、ちょっと身の危険を感じるな、オレ。
いや、偏見とかはないつもりだったけど、いざ自分が当事者になるかもと思うと、話は別だ。
うん。きっとオレの気のせいだ。
それに、無理ヤリとかは、きっとないだろうしな。異性愛者同士と同じだろ、相手が嫌がることをしたらダメたろうし、アウトだ。
……とはいえ、エマは凶器持ちだ。一応、心の片隅になくはないと思っておこう……。
一抹の警戒心を抱くオレの前で、エマはティアのひざ先を指差した。
「ティア、それを全部貰っても良いか?」
「ん……いいわよ」
「ならば、貰うぞ」
エマがティアの側に落ちた宝石をかき集める。
「……つらくない?」
エマを尻目に、ティアに尋ねると、彼女はためらいもなく首を振った。
「平気よ。それがあたしの役目だから。
あたしは、そのために生まれて来たのだから」
笑って答えてくれたけど、これって建て前だよな、絶対。
しんみりとするオレの耳に、エマのつぶやきが入る。
「ダイヤは硬くていかんな。それに不味い。やはりサファイアが一番だ。アサクラ、ダイヤは貴様にやろう」
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