【完結】拾った猫が超絶美少女だったので、彼女を救うため異世界に行って来ます!

一茅苑呼

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第一章 真夜中の訪問者

2.狼が美少年に変わるとか

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     ◆  ◆  ◆

カーテンがパタパタと窓枠に当たるような音で、目を覚ました。

月明かりが窓辺から斜めに差しこんでいる。
時計の秒針が時を刻む音だけが、室内に響いていた。

風か……。
ゆっくりとベッドから降りて、窓辺に寄った。
蒸し暑くて、窓を開け放ったまま眠りについたことを思いだし、窓を閉めて、カーテンをひく。

今になって冷えてきてるな……。
夢と現実の間を歩くようなあやふやな意識のまま、ベッドに戻った。

───あれ?
なんだろ、この感じ。違和感ってやつか?

変だな、とは思いつつも、すでにまぶたは重かった。
布団のぬくもりを心地よく思って浅い眠りに入った、瞬間、だった。

ガルルル……という獣の低いうなり声と共にベッドが沈みこみ、同時に、荒々しい息遣いがオレの顔の間近にあった。

思わず、目を開く。
───視界に入ったのは、半ば口を開き牙をむき出しにした、ぞくぞくと寒気のするような冷たい瞳をもつとび色のオオカミ。
そいつが、オレを見下ろしていた。

ひ、ひえぇぇ……!! マジかよぉ。
何か悪い夢でも見てるんだよな、きっと。

いったん、ぎゅっと目をつぶって、落ち着いて良く見てみれば、ほら、もういなくなって……ないっ。

あぁ、夢だよな。うん、絶対、夢だ。
夢に決まってる。
……と、思いたい。
思いたいんだ、オレはっ。

がしかし、鳶色のオオカミは、そんなオレの心中を察してくれず、今にも噛み付いてきそうだ。

どうする……!?
この体勢に限られた範囲でオレにできることは……。

腹を蹴り上げるっていうのは、どうかな。
動物って人間もそうだけど、腹蹴られると、弱いよな。うん。
などと、考えている間にも、うなり声をあげてくるオオカミ。

噛み付かれる、と思った瞬間、右足を立て、思いきりオオカミの腹をドカッと蹴り飛ばしてやった。
するとオオカミは短い悲鳴をあげ、オレの上から飛びのいた。

反射的に起き上がり、急いで部屋を飛び出そうとした。オオカミを部屋に閉じこめて、警察に通報するつもりで。

きっと、動物園から逃げ出して、たまたま窓の開いてたオレの部屋に入って来たに違いない。

……のわりには、なんの警戒指示も出てなかったのが気になるけど。
頭の隅に浮かんだ疑問符をおいやり、ドアノブをつかんだ。

その時、
「───待て」
低く押さえつけるような響きの声に、驚いて、後ろを振り返った。

声の出どころが分からずにいたオレは、そちらを見て言葉を失う。

オレとオオカミ以外、いるはずのない部屋に、腹を押さえ、片足を床についた少年がいたからだ。

鳶色の髪を両耳の前に一房長く伸ばし、あとは短くしていて、かなり整った顔立ちをしていた。

瞳はあくまでも冴え冴えとし、なおかつ、氷のように冷たいセルリアン・ブルー。
その瞳の色には、見覚えがあった。
───この眼つき、さっきのオオカミだ!

そいつが、口を開いた。

「待て。聞きたいことがある。
───おれはスメルムーンという国からやってきた、エマ・スローンという。
貴様、名は?」

鋭い視線を向けられ、ドキッとして答えた。

「朝倉」

さすがに、与太郎とまでは言えなかった。

エマと名乗ったオオカミもどき少年は、オレの言葉に、ほう、と感心したようにつぶやいた。

「随分と変わった名だな。アサクラ、か」

無表情のまま言いきると、エマは後ろ手でシャッとカーテンを引いた。
月光がいっそう鮮やかに部屋に流れこみ、それを背にしたエマの細身の体を冷たく縁取った。

まだ五月半ばのこの時期に、濃いブルーのノースリーブの長いシャツのような物を着ている。
ようなとしたのは、腰の辺りを布紐で結んであり、丈はひざ上くらいまであったからだ。

エマは無駄のない動きで前髪をかきあげ、まっすぐにオレを見た。

「早速だがアサクラ、貴様、ティアという少女を知らぬか? この辺りにいるはずなのだが」
「ティア……?」
「そうだ。隠すとためにならぬぞ。答えよ、何処にいる?」
「どこにって言われても……。ってか、オレに訊かれてもなぁ……」

しどろもどろになるオレを見て、エマは軽く眉を寄せた。

「答えぬか……。ならば、こちらも考えるまで」

言いながら、右手首を左手で覆い、そのまま右手を斜め下へ滑らせた。

すると、エマの右手に細長い剣のような物が現れた。
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