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「それでも、いい?」

静は、俺が今まで見たこともないような、艶やかな微笑みを浮かべている。

「ちょっと待った! キャラクター、違うよ? そんな人じゃないでしょ、静は」

予想もしなかった事態に、おののく。

静は、もっと物分かりのいい女だったはずで……。

可愛いワガママは言っても、人を傷つけるようなことは、しない人間だと思っていた。

けれども俺の言葉に悪びれる様子もなく、静はにっこりと、笑みを深めた。


「うん。私も、そう思っていたよ。
だけど、こういう女だったみたい。

───これこそが、直和と付き合って『変わった私』なんだ。

だから、ね? いいよね、このままで」

───強引に静に、押しきられた。
最悪だ。





こういうのを“身から出たさび”って、いうんだろーか……。

静を送る車中、他愛もない会話を交わしつつ、そんなことを思った。

「───はい、到着。お疲れ」


毎度のくせで思わず言ってしまった俺だけど。

正直、疲れているのは、俺の方だった。

静はシートベルトを外しかけ、ふとためらい、それから一気にそれを外した。

沈黙。

さっきまで、あっけらかんと話していたくせに、急に押し黙っている。

「───静?」

呼びかけても反応せず、静はドアを開け、そのまま車を降りた。

助手席に俺が身を乗りだしかけた瞬間、

「バイバイ」

短い言葉を残し、静がドアを勢いよく閉めた。


不審な静の態度に、あわてて車から降りた。

「静」

俺の再度の呼びかけに振り返らず、静は自分の家の方へ向かい、歩いていた。

朝焼けのなか、迷いのない足取りで。

毅然きぜんとした後ろ姿は、もう、俺の存在など忘れてしまったかのようだった。

女らしい丸みのある体の線を、わずかな朝の日の光が、照らす。

無言の背中。
俺は、ようやく気がついた。


静は、俺との仲を終わりにするつもりで、友達とのことを口実に、俺と会ったのだと。

彼女らしからぬワガママな言動が、急に嘘くさいものに思えてくる。

朝方の冷えた空気を吸い込むと、胸の奥で、何かがくすぶっていた。

急にせつなさがこみあげてきて、そんな自分を抑えつけるように、のどをきゅっとしめつける。

───振り返らない背中を、振り向かせたい衝動にかられていた。

だけど俺は、静を追いかけはしなかった。

追いかければ、また同じことの繰り返しだと分かっていたからだ。


俺は静に甘えていただけだし、彼女もただ、過去にすがっていたかっただけなんだろう。


そうして……俺たちの関係は、あっけなく終わりを告げた。



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