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7.
しおりを挟む「もうさ……こういう風に会うの、やめよう」
静は、心の底から驚いたように、俺を見た。
「なに、それ……」
その反応に、参ったな、と、思う。
自分の方から「別れよう」って言ってきた時は、こっちの言い分も聞かずに、自己完結してたくせに。
「私の……『それまでの私』のことを殺しておいて、もう会わないって言うの? だったら『いまの私』も、殺してよぉ……」
おいおい……。
俺は言葉を失った。
───そうだ。
静は、酒に弱かった。
素面の時は、このうえなく、クールでしっかりしているのに。
酒が入ったとたん、甘えたのワガママ娘になる。
付き合っていた時は、そんな彼女を可愛いと思ったし、それを利用して口説いたことも認める。
けど……。
いまのこの状況下では、最低最悪の女をつかまされた感じだ。
……女って、なんでこんなにメンドくさいんだ?
「私のコト、嫌いになったの?
私……私だって本当は、直和のコト、好きだったんだよ?
だけど……直和はホワイトデーの日に、会社の人達とイチゴ刈りとかに行っちゃってさ。
木村さんとかリンリンがいるから、行って欲しくなかったのに!
おまけに───」
なおも静は、俺に別れを告げた『原因』を話した。
だけど、それがなんだっていうんだ?
終わったことじゃん。いまさらだろ、それ。
そう思いながらも身体はなんとなく静に寄り添われて、その髪を手ぐしで梳き、その唇を奪った。
小言ばかりを耳にするより、静のせつなげな吐息を聞いている方が、よっぽどマシだ。
静に抵抗はなく、俺たちは、そのまま互いを求め合った。
静の『奉仕』は極上で、その点においてだけ、彼女と離れるのは惜しかった。
半裸の上半身を隠すように、静は着ていたブラウスを胸元にあてた。
酔い覚ましに飲んでいた俺の手から、ポカリスエットを奪う。
「……どうしても、もう、会えない?」
「その方が、いいよ。小泉さんも言ってたよ、静に……幸せになって欲しいって」
都合のいいセリフと重々承知で、俺は彼女との関係を清算する気でいた。
静は黙っていた。
いつもの平静を取り戻したかのように、向こう向きで服装を整えて、そしてソファーに座り直した。
その眼差しは冴え冴えとし、理知的な静に戻ったようだった。
ところが、
「──バラしてやる、全部。
あの女にも、職場のみんなにも」
ゾッとするような、低い声が、俺の隣で発せられた。
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