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信じられない思いで、けれど、妙に静の声が聞きたくなった俺は、着信履歴に残ったそこへ、かけた。

「もしもし?」

久しぶりに耳元で聞いた静の声に、緊張しながらも、さりげなく口を開く。

「あ、俺。電話くれたよね?」

「うん。……ごめん、迷惑だった?」

「んなワケ、ないじゃん。ちょっとびっくりはしたけどさ」

「そっか、良かった。少し、話していい?」

落ち着いた、やわらかな声。
わずかに甘さを含む、抑揚のある話し方。

そう言って静は、他愛もない話をいくつかしたあと、突然、訊いてきた。

「彼女できた?」

と。


俺は正直に答えた。静は、

「私の知っている人?」

と、なおも突っ込んできて……しまいには、それを朋美と言い当てた。

俺は、これまでの朋美との経緯いきさつを話しながら、なんでこんな話を別れた彼女にしているんだろうと、感じていた。

───だけど。

いまの俺の周りに、俺が抱えてるいらだちや、やり場のない怒りを解ってくれる存在はなく……だから、親身に話を聞いてくれる静の声が、よりいっそう温かかった。

「そりゃあさ、俺もいいかげんだったとは思うよ?
だけど、そんなに責められなきゃいけないことかよって、感じでさ」


「確かにねー。
人の恋路に口はさむなって、言いたくなるよね」

「でしょ?
つーか、女は女で、いちいち束縛するしさ。勘弁してくれよって感じなんだよ、マジで」

「でも、それって、それだけ直和なおかずのこと、好きなんだよ。
解ってあげなよ」

「げー。ウザイよ、それ。
ホントに好きなら、俺を自由にさせてくれって、言いたくなるね。
それが真の愛情ってもんだよ、違う?」


調子にのって持論を展開すると、端末の向こうから静の軽やかな笑い声が届く。

「……もうっ。相変わらずだなぁ、直和は。
付き合ってって言われて、すぐにオーケイしちゃうなんて、高校生ならともかく大人のすることじゃないよ?」

「どーせね。俺は子供ですよ。
俺なんか、死んじゃった方がいいんだよ」

「なにねてんのよ、もう。
流されたとはいえ、自分で決めたことでしょう? 頑張りなよ、もう少しだけ」


笑って俺をたしなめる静の口調は、付き合ってた当時そのままで。

……俺は、なんだか無性にせつなくなった。

ふとした、沈黙。
静が、ぽつりと言った。

「なんか、こういうのって……せつないね」

俺の心中をズバリ言い当てられたような気がして、急に心臓がバクバクと音を立てた。

静は、なんで今日、俺に連絡をとってきたんだろう?

どうして、付き合ってた頃と同じように、優しい声で話すんだろう?

考えだすとよけいに息苦しくなって、俺は思わず言ってしまった。

今度、どこかで会わないかって───。



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