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4.
しおりを挟む信じられない思いで、けれど、妙に静の声が聞きたくなった俺は、着信履歴に残ったそこへ、かけた。
「もしもし?」
久しぶりに耳元で聞いた静の声に、緊張しながらも、さりげなく口を開く。
「あ、俺。電話くれたよね?」
「うん。……ごめん、迷惑だった?」
「んなワケ、ないじゃん。ちょっとびっくりはしたけどさ」
「そっか、良かった。少し、話していい?」
落ち着いた、やわらかな声。
わずかに甘さを含む、抑揚のある話し方。
そう言って静は、他愛もない話をいくつかしたあと、突然、訊いてきた。
「彼女できた?」
と。
俺は正直に答えた。静は、
「私の知っている人?」
と、なおも突っ込んできて……しまいには、それを朋美と言い当てた。
俺は、これまでの朋美との経緯を話しながら、なんでこんな話を別れた彼女にしているんだろうと、感じていた。
───だけど。
いまの俺の周りに、俺が抱えてるいらだちや、やり場のない怒りを解ってくれる存在はなく……だから、親身に話を聞いてくれる静の声が、よりいっそう温かかった。
「そりゃあさ、俺もいいかげんだったとは思うよ?
だけど、そんなに責められなきゃいけないことかよって、感じでさ」
「確かにねー。
人の恋路に口はさむなって、言いたくなるよね」
「でしょ?
つーか、女は女で、いちいち束縛するしさ。勘弁してくれよって感じなんだよ、マジで」
「でも、それって、それだけ直和のこと、好きなんだよ。
解ってあげなよ」
「げー。ウザイよ、それ。
ホントに好きなら、俺を自由にさせてくれって、言いたくなるね。
それが真の愛情ってもんだよ、違う?」
調子にのって持論を展開すると、端末の向こうから静の軽やかな笑い声が届く。
「……もうっ。相変わらずだなぁ、直和は。
付き合ってって言われて、すぐにオーケイしちゃうなんて、高校生ならともかく大人のすることじゃないよ?」
「どーせね。俺は子供ですよ。
俺なんか、死んじゃった方がいいんだよ」
「なに拗ねてんのよ、もう。
流されたとはいえ、自分で決めたことでしょう? 頑張りなよ、もう少しだけ」
笑って俺をたしなめる静の口調は、付き合ってた当時そのままで。
……俺は、なんだか無性にせつなくなった。
ふとした、沈黙。
静が、ぽつりと言った。
「なんか、こういうのって……せつないね」
俺の心中をズバリ言い当てられたような気がして、急に心臓がバクバクと音を立てた。
静は、なんで今日、俺に連絡をとってきたんだろう?
どうして、付き合ってた頃と同じように、優しい声で話すんだろう?
考えだすとよけいに息苦しくなって、俺は思わず言ってしまった。
今度、どこかで会わないかって───。
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