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❖グレイな恋人❖
異種接近交遊 Part.7『不穏』
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差別論者っているよね、あー、ヤダヤダ。
……なんて心で思って、適当にご婦人の話に相づちうってたに違いない。
私は所詮、そういうエセ正義の小市民だ。
「困った御婦人ですね。秋良さんをこんなふうに泣かせて」
でも、と、ライが私の両方の目じりに唇を寄せる。
「僕のために怒ってくれて、ありがとうございます。
僕も、秋良さん大好きなので、そんな大好きな秋良さんを泣かせた諸悪の根源を絶ちますね」
「……なに? どういう意味?」
ライが放った言葉がなんだか不穏な気がして、怒りも涙も吹き飛んでしまい、思わず彼を見上げた。
にっこりと笑ってみせたあと、ポケットからスマホを取り出すライ。
「───あ、ジンさん。ちょっと調べて欲しいことと、お願いが幾つか。
……いやだな、もちろん『調査』の一貫ですよ」
心底愉しそうに告げるライの様子に、私は私の直感が正しかったことに気づく。
そしてそれは、数日後、確信に変わったのだった。
「コレ、秋良さんにあげますね」
「えっ。いいの?」
ライとの交流きっかけになった呪いを廻るアニメ(なんかこういうと昔流行ったホラー映画のキーワードに近いな)のコラボグッズ欲しさに、ライと行ったファミレスから帰ったあと。
もらったコラボグッズのひとつであるクリアファイルをライが私に差し出してきた。
「僕、コレクターじゃないんで。
それよりも、一緒に好きなもの共有したり語ったり……秋良さんと『好き』を楽しめるのが、一番有意義な時間なんで」
「……それは、どうも」
どちらかというとコレクター寄りな自分の指向と。
ライからの掛け値なしの好意が、後ろめたいやら照れくさいやらで。
私は素っ気なく、そのファイルを受け取った。
……や、本音をいえば、外袋を開けた瞬間、あんまり好きではないキャラのクリアファイルだったんで、ちょっと悲しかったんだけど。
ライが開けた袋の中身が最推しキャラだったんで、顔に「羨ましい、くれ!」って、出てたのかもしれない。
気を遣わせたな、きっと。
「なんか、飲む?」
「お任せします」
勝手知ったる我が家といった態で、テーブルにつきクッションを抱えるライ。
相も変わらず、私たちは休みとなるとアニメ鑑賞会だ。
今日は、ライが観たことないという、少女漫画原作の様式美にこだわった、当時、カルト的人気といわれたアニメ。
「あー、昔、あの刻印の入った指輪が欲しかったんだよね」
「でも、ちょっとデザイン、ごついですよね。男物っぽいっていうか」
「言われてみると、そうかも。もともと主人公が王子様が付けてたって気にしてたのが始まりだし」
ふたりして他愛もないヲタクトークを交わしつつ、劇中、急にいなくなったと語られる登場人物の退場に、私は先日、急に越して行ったのアパートの住人を思いだした。
それは、階下に住む若いご夫婦で。
一度だけ、駐車場でコンビニ袋をポイ捨てする旦那さんを見かけたことがあった。
引っ越してきたのは、つい一ヶ月前。
なんで覚えてるかといえば、夜、騒がしいなと思ったら、家財道具を運び入れてるのを見たからだ。
まさか、とは思うけど───。
「あ。劇場版もあるんですね。続けて観てもいいですか?」
「……あのさ。その前に、いいかな?」
「はい?」
ライの、この無邪気さが逆に怖いというか、アヤしい。
きょとんと見返された私は、思いきって核心をつく。
「この前、越して行った若夫婦───」
「ああ、彼らみたいですよ、無秩序ゴミ出し犯。ジンさんが言ってました。
なので、ちょっと裏から手を回して【居なくなって】もらいました」
清々しいまでの、ライの笑顔の返答。
……うん。そうかと思ったけど。
「裏って……何ルート?」
「まぁまぁ。そんな、ヤバい組織みたいな言い方しないで。
ちょっとアメリカの偉い人から、ちょっと日本のそれなりに偉い人に話がいって、そういう部隊の人たちが日々の正当な任務をこなしたってだけですから」
……なんて心で思って、適当にご婦人の話に相づちうってたに違いない。
私は所詮、そういうエセ正義の小市民だ。
「困った御婦人ですね。秋良さんをこんなふうに泣かせて」
でも、と、ライが私の両方の目じりに唇を寄せる。
「僕のために怒ってくれて、ありがとうございます。
僕も、秋良さん大好きなので、そんな大好きな秋良さんを泣かせた諸悪の根源を絶ちますね」
「……なに? どういう意味?」
ライが放った言葉がなんだか不穏な気がして、怒りも涙も吹き飛んでしまい、思わず彼を見上げた。
にっこりと笑ってみせたあと、ポケットからスマホを取り出すライ。
「───あ、ジンさん。ちょっと調べて欲しいことと、お願いが幾つか。
……いやだな、もちろん『調査』の一貫ですよ」
心底愉しそうに告げるライの様子に、私は私の直感が正しかったことに気づく。
そしてそれは、数日後、確信に変わったのだった。
「コレ、秋良さんにあげますね」
「えっ。いいの?」
ライとの交流きっかけになった呪いを廻るアニメ(なんかこういうと昔流行ったホラー映画のキーワードに近いな)のコラボグッズ欲しさに、ライと行ったファミレスから帰ったあと。
もらったコラボグッズのひとつであるクリアファイルをライが私に差し出してきた。
「僕、コレクターじゃないんで。
それよりも、一緒に好きなもの共有したり語ったり……秋良さんと『好き』を楽しめるのが、一番有意義な時間なんで」
「……それは、どうも」
どちらかというとコレクター寄りな自分の指向と。
ライからの掛け値なしの好意が、後ろめたいやら照れくさいやらで。
私は素っ気なく、そのファイルを受け取った。
……や、本音をいえば、外袋を開けた瞬間、あんまり好きではないキャラのクリアファイルだったんで、ちょっと悲しかったんだけど。
ライが開けた袋の中身が最推しキャラだったんで、顔に「羨ましい、くれ!」って、出てたのかもしれない。
気を遣わせたな、きっと。
「なんか、飲む?」
「お任せします」
勝手知ったる我が家といった態で、テーブルにつきクッションを抱えるライ。
相も変わらず、私たちは休みとなるとアニメ鑑賞会だ。
今日は、ライが観たことないという、少女漫画原作の様式美にこだわった、当時、カルト的人気といわれたアニメ。
「あー、昔、あの刻印の入った指輪が欲しかったんだよね」
「でも、ちょっとデザイン、ごついですよね。男物っぽいっていうか」
「言われてみると、そうかも。もともと主人公が王子様が付けてたって気にしてたのが始まりだし」
ふたりして他愛もないヲタクトークを交わしつつ、劇中、急にいなくなったと語られる登場人物の退場に、私は先日、急に越して行ったのアパートの住人を思いだした。
それは、階下に住む若いご夫婦で。
一度だけ、駐車場でコンビニ袋をポイ捨てする旦那さんを見かけたことがあった。
引っ越してきたのは、つい一ヶ月前。
なんで覚えてるかといえば、夜、騒がしいなと思ったら、家財道具を運び入れてるのを見たからだ。
まさか、とは思うけど───。
「あ。劇場版もあるんですね。続けて観てもいいですか?」
「……あのさ。その前に、いいかな?」
「はい?」
ライの、この無邪気さが逆に怖いというか、アヤしい。
きょとんと見返された私は、思いきって核心をつく。
「この前、越して行った若夫婦───」
「ああ、彼らみたいですよ、無秩序ゴミ出し犯。ジンさんが言ってました。
なので、ちょっと裏から手を回して【居なくなって】もらいました」
清々しいまでの、ライの笑顔の返答。
……うん。そうかと思ったけど。
「裏って……何ルート?」
「まぁまぁ。そんな、ヤバい組織みたいな言い方しないで。
ちょっとアメリカの偉い人から、ちょっと日本のそれなりに偉い人に話がいって、そういう部隊の人たちが日々の正当な任務をこなしたってだけですから」
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