上 下
12 / 16
❖グレイな恋人❖

異種接近交遊 Part.6『差別』

しおりを挟む


夕方の買い物帰り。
アパートのそばにある駐輪場に、ライの自転車がないのを見ながら、階段を昇ろうとした時。

「ねぇ、ちょっと、いい?」

階下の住人である初老のご婦人に声をかけられた。

「……なんでしょう?」

いつも、すれ違えば挨拶は交わすけれど、それ以上の会話をしたことがない。
私は、表面上は愛想笑いを浮かべたものの、内心めんどいなと思いながら足を止める。

「お宅の隣、外人さんが住んでるわよね? ちょっと黒いっていうか、茶色の」
「……はぁ」

年代的には仕方ないのかもしれないけど、差別的発言だなぁ。

「アレ、その外人さんじゃない?」

アレ、と指された先にあるのは、ゴミの集積所。この辺りの自治会では簡易な柵とネットの囲いしかないので、ゴミ袋があると、すぐに分かる。

そこに、市の指定ゴミ袋と同じ色ではあるけれど、指定の袋ではないのが分かるものが、二つほど置かれていた。

「ゴミの収集、明日でしょ? 昼間から置いてあるのよ」
「それじゃ、違うと思いますよ」
「は?」
「昼間じゃ、彼、仕事中ですし」

あと、ライはルール破るようなヤツじゃないし。
それに、悪目立ちすることは避けてる気がするんだよね、いろんな意味で。

「ワタシが気づいたのが昼間なだけで、朝からあったかもしれないの! 外人さんじゃ、ゴミ出しのルールも解らないでしょ!」

いや、決めつけ過ぎない? 日本人でもルール解ってないどころか、解ってても前日に出す人とか、いるよ?

「……彼、ゴミ出しのルールも分別も、なんなら指定のゴミ袋も知ってますよ。
日本人じゃないからって、決めつけで非難するの、よくないと思います」
「やだ、アナタ。外人の肩もつの?」

───は?
一瞬、頭が真っ白になった。私、なに言われてんの? いま。

いろんな感情が込み上げて、二の句が継げない。
なんでこんな───。

「秋良サン! どしたデスカ?」

男の人にしては少し高めの、能天気な口調。
自転車のブレーキ音とかぶる形で、ライの声が聞こえ、私はそちらを振り返った。

かたわらのご婦人もそちらを見やって、少し気まずそうな顔をする。

けれども、ピッと立てた人差し指で集積所を指し示した。

「とにかく! ルールは守ること! みんなが迷惑するでしょう?」
「だからっ……」

遅れてきた怒りにまかせて反論しかけた私を見もせずに、言うだけ言ってご婦人は自宅に戻って行ってしまう。

「……なんなの、人の話も聞かないで……!」

「秋良サン……ダイジョブ?」
「じゃない! ……ごめん、八つ当たり」
「ハハ。……家、入りマショ」

なだめるように肩を叩かれ、私はそのままライの部屋へ連れ立って行く。

我慢しきれず、玄関の上がり口で一部始終をライに話した。

「……なんか、悔しくて。偏見とか差別とか……、頭では解ってたつもりだけど、実際、ああいうの聞いちゃうと……うまく、言葉にならなくて。
理不尽なこという人間に正論返しても、思考が違うから相手にするだけムダだって……自分のことなら、わりとやり過ごせるのに……!」

久しぶりの悔やし泣きで、目じり浮かんだ涙を乱暴にぬぐう私を、ライがやんわりと抱きしめる。

「秋良さん、確かにそういうトコありますよね。一見、冷めて流していても、好きなものとか大事なことには熱くなるというか」

静かな口調で耳に落ちてくる、ライの声。……こんな時に緒方ヴォイスになるとか。ズルい。

「……そうだよ。ライが好きだから、必要以上に腹が立ったんだよ」

外国人差別じゃん! っていう憤りは、表面的なものだ。
これが、ライ以外の外国人に対してのものだったのなら、泣くほど悔しいなんてこと、なかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】Keyless☆Night 一晩だけでいいから、泊めて?

一茅苑呼
恋愛
❖本郷(ほんごう)叶絵(かなえ) 26歳  洋菓子店販売員兼パティシエール         ✕ ❖進藤(しんどう)雅貴(まさき) 21歳  無表情イケメン大学生  ◆◆◆年の差ラブコメディ◆◆◆ 拙著『ハーフ☆ブラザー 突然出てきた弟に溺愛されてます!』の次世代ストーリーです。 他サイト複数掲載済み。……ですが、アルファポリスさんにてR15程度の艶ごとシーン追加しました。  ────あらすじ──── いや、図々しいよね? 絶対、常識ないって思われてるよね? 「一晩だけでいいから泊めて!」 って。 ビジネスホテルにでも泊まっとけって話だよね。 「別に、いいですよ」 ……え? いいの? 本当に? こうして私は、バカでビッチな女と思われるのを覚悟で片想い中の進藤くんに頼みこみ、一晩だけ泊めてもらうことになりました、やった! ……優しさにつけこんで、ゴメンね。 誓って、何もしないからさ……たぶん。

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される

永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】 「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。 しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――? 肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!

10 sweet wedding

国樹田 樹
恋愛
『十年後もお互い独身だったら、結婚しよう』 そんな、どこかのドラマで見た様な約束をした私達。 けれど十年後の今日、私は彼の妻になった。 ……そんな二人の、式後のお話。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

crazy Love 〜元彼上司と復縁しますか?〜

鳴宮鶉子
恋愛
crazy Love 〜元彼上司と復縁しますか?〜

彼氏が完璧すぎるから別れたい

しおだだ
恋愛
月奈(ユエナ)は恋人と別れたいと思っている。 なぜなら彼はイケメンでやさしくて有能だから。そんな相手は荷が重い。

あなたと恋に落ちるまで~御曹司は一途に私に恋をする~ after story

けいこ
恋愛
あなたと恋に落ちるまで~御曹司は一途に私に恋をする~ のafter storyになります😃 よろしければぜひ、本編を読んで頂いた後にご覧下さい🌸🌸

羽柴弁護士の愛はいろいろと重すぎるので返品したい。

泉野あおい
恋愛
人の気持ちに重い軽いがあるなんて変だと思ってた。 でも今、確かに思ってる。 ―――この愛は、重い。 ------------------------------------------ 羽柴健人(30) 羽柴法律事務所所長 鳳凰グループ法律顧問 座右の銘『危ない橋ほど渡りたい。』 好き:柊みゆ 嫌い:褒められること × 柊 みゆ(28) 弱小飲料メーカー→鳳凰グループ・ホウオウ総務部 座右の銘『石橋は叩いて渡りたい。』 好き:走ること 苦手:羽柴健人 ------------------------------------------

処理中です...