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❖グレイな隣人❖
異種接近遭遇 Part.4『声音』
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チャトランこと茶トラの地域猫をなでながら、薄暗くなっていく春の空を見ていた。
一番星が、控えめに光ってる。
ああ、なんか、久しぶりに一息ついた感じ。しばらくは有休もあるし、のんびりしよう。
「秋良サン!」
男の人にしては、少し高めの澄んだ声に目を向ける。
「あっ、ライ。お帰り~」
「タダいまデス! チャトラン、おなかすいてマスか~?」
わしわしとチャトランの首周りをなでるライに、桜耳をパタパタさせ、わずらわしそうにするチャトラン。
「さっき私が食べさせたよ。今はもういらないんじゃないかな」
「秋良サンは? 食べマスか?」
白髪と白ひげの紳士が目印のフライドチキンの箱。
……どうりで良い匂いがするはずだ。
素直に受け取れば、ライから「シャワー浴びたら行きマスね」と言われ、深く考えずにうなずいた。
❖
濡れた黒髪に、ざっくりと胸もとが開いたニットを着たライは色っぽい。
というか、そんな感想をもつ自分にかなりの自己嫌悪。
年増にこんな風に見られてると知ったら、さぞかし気色悪かろうと、冷蔵庫を覗き込む振りをして頭を冷やす。
「ライ、何飲む? 炭酸系なら、コーラかビール、発泡酒」
「秋良サンと同じでダイジョブデスよ」
「えっ、私、コーヒーだけど?」
「ハイ!」
油モノ摂る時は常にコーヒーを飲んでしまう私だけど……酒類じゃなくて、ホントにいいのかな、ライ。
ワンコ系の素直さと可愛いらしさに、先ほどまでの艶っぽさも忘れ、私はいつも通りライとの共通の趣味であるアニメ鑑賞を始めたのだけど。
「いや、なんで寝るかな……」
最初は肩枕、次は膝枕。
カフェイン摂っておいて、自宅以外で睡魔に襲われるとか、ある?
まだ春先の寒さが残るため、仕舞わずにいたコタツ。
母親がいた時に買った少し幅広のそこに並んで座っての鑑賞会は、別に初めてじゃない。
「そんな無防備に寝てると、触っちゃうよ?」
指先で触れた髪は、思ったより硬い。無造作に乾かしたままの状態のライの髪を、梳くようになでてやる。
「ん……」
「起きた?」
寝返りをうつように半身を横にしたライの、首筋。キラリと光る、金属のそれ。
一瞬、こんな場所にボディピアスでも付けているのかなと思った私の目に入ったのは。
「ファスナー……?」
銀色の留め具と2、3センチほどある噛み合せ金具。
それが、黄褐色の肌に埋め込まれるようにして、あった。
「見マシた、か?」
「えっ」
ゆらりと、至近距離で私を見つめたまま、ライが上半身を起こす。
初めて見る、無表情。
何かの警告を受けたかのように感じて、頬を引つらせながらも笑ってみせた。
「ファスナーのピアスなんて、変わってるね」
「ああ、そうキマスか?」
いつもの、笑顔。
なのに、とてつもない違和感のある笑みを、ライは浮かべていた。
そのまま軽く首をかしげ、自分の喉仏の辺りに手をやる。
小さく咳払いした、のち。
「いいんですよ、本当のことを言ってくれて」
流暢な、日本語。ややハスキーな艶のある声は、どこかで聞いたことのある声。
それが、ライの口から発せられた。
「……あれ? おかしいな、もっと喜んでくれると思ったのに」
くすっと笑う、その声。
あまりのことについていけない鼓動が、滅茶苦茶な心音を奏でて耳もとで響く。
息が、うまくできない。
ライの唇が、そんな私の耳もとでささやいた。
「あなたの好きな、緒方さんの声ですよ?」
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