【完結】イケメン外国人と親交を深めたつもりが、イケメン異星人と恋人契約交わしてました!

一茅苑呼

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❖グレイな隣人❖

異種接近遭遇 Part.3『疑問』

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秋良あきらサン、明日休み?」
「うん。休み。……ちょっと戻していい?」

私はいま、倉石もとい、クライシチャクリ……長いな、愛称ライの部屋にいた。

名前長いね、という話題の時に訊いた話によると、その由来は「獅子より勇敢な王様」というものらしい。

で、仕事先では獅子=ライオンの略でライと呼ばれてるとのこと。

「ハァ……相変わらず良い声だな、緒方おがたさん」
「萌ぇル?」
「萌える~」

バカみたいな会話を交わしながら、アニメのDVDを二人で観る───ようになって数週間経つ。

が、誤解のないようにいえば、私とライの間には、これっぽっちも艶はない。

アハハと笑い顔を見合わせても、それ以上でもそれ以下でもなかった。

正直、最初の頃は久しぶりの年下の異性の部屋。
何があってもおかしくないカモ、な緊張感はもっていた。

───いた、けれども。

特に、それらしい雰囲気もなく、ただ普通の女友達とヲタ話をする感覚に近いものに思えて、最近は緊張感ゼロだ。

ま、歳と外見考えたら当然か。
向こうはイケメンで、しかも私より八歳も年下ときている。
恋愛も性欲も対象外だろう。

そのことに絶対の安心感と微妙な寂しさを抱えるのは、私がまだ女を捨てきれてなかったということなのかもしれない。

「カレー、食べマスか?」
「食べます! ありがとう!」

時折ただよってきていた匂いと、規則正しい包丁の音の正体は、香辛料たっぷりのカレーだったりスープだったりしたようだ。

正直、何度か、
「くっさ。においテロじゃん! こんなの!」
と、ライとの交流がない時は恨み節を自室でぼやいてたこともあった。

と、同時に、その香りに食欲をそそられる自分に、罪悪感のようなものがあったのも事実───なんだけど。

「んーっ。やっぱり、食べ物に罪はない!」
「罪、デスか?」
「美味しいってことです」
「おいシイ、良カッタ。秋良サン、食べるのカワイイ。萌ぇマース! イェーイ!」

片手にスプーンで、意味なくハイタッチ。たまにライがする、よく解らんノリ。

たぶん、覚えたての日本語を使ってみたいヤツだろうと思い、私も適当に合わせている。

「あれ……スマホ鳴ってるよ」
「ああ、ハイ」

さっきまでの明るい顔から一転して、ライの表情がスマホ画面を見たとたん、くもる。

「気にしないで、出なよ」
「ハイ……ごめんナサイ」

ペコリ、頭を下げてからスマホをタップしつつ立ち上がる。

ちらりと見えたスマホの画面には、人の顔。

ビデオ通話かなと見ないように視線を伏せかけた時、ライの襟足の長い黒髪の下で、何かがキラッと光った。

あれ……ライって、ネックレスとかしてたっけ? と、その時は漠然とそんなことを思うだけだった。

まさか、その疑問を深く考えずにいたことが、あんなことになるとは思わずに。

      ❖

「ちなみに、直接の原因、訊いても構いませんか?」
「えっと、体力的にキツいのが一番で」
「他には?」

監視カメラで逐一行動把握されて、サボってるって言われたことです。

「あとは、クレームの件、ですかね? ちょっと精神的に参っちゃって。あはは」

休憩時間に呼び出しくらって対応したあげく、お客様の長話に付き合ったら、品出し終わってないって文句言われて。

休憩なくなるし散々だな、と思ったその日。SNSの口コミに名指しで「最悪な接客」と書かれる始末。

いや、私じゃないんだが。濡れ衣なんだが。

───そういえば、あの日だ。ライにコンポタもらったの。

「では、あとで登販の実務経験日誌も出力かけておきますね」
「はい、お願いします」

せっかく頑張って取った登録販売者の資格も、今後は意味ないな。
店長から受け取った退職手続きの書類に目を通しながら、漠然とそう感じていた。
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