【完結】イケメン外国人と親交を深めたつもりが、イケメン異星人と恋人契約交わしてました!

一茅苑呼

文字の大きさ
上 下
1 / 16
❖グレイな隣人❖

異種接近遭遇 Part.1『裾分』

しおりを挟む


疲れた。もういいや。何も考えたくない。

アパートの外灯が付いたり消えたりしているのも、どうでもいい。ただ、寒い。

ごそごそとバッグのなかの家鍵をあさってると、背後に人の気配がした。

「コンバンわ」

振り向けば、黄褐色の肌をした彫りの深い顔立ちの若い男。
職業柄、すぐに愛想笑いが浮かんだ。

「今晩は。寒いですね」

意味のない形だけの挨拶あいさつだけど、相手は律儀に会話をつないでくる。

「寒いデスね。日本ココはいつもこんな寒いデスか?」
「あー、年々変わってきてますかね。じゃあ……」
「良カッタら、ドウゾ」

片言で差し出された、缶に入ったコーン入りのポタージュスープ。……んん?

「えーと」
「あったまりマスよ」

にっこり微笑まれても、正直困る。困るが。

「ありがとう、ございます」

手袋越しに受け取った缶は、それほど熱くない。これ、飲んだらヌルいやつじゃん。

───隣人。挨拶交わすだけ。接点なし。

とはいえ、いらんこと言って波風立てるのは、性に合わない。

「イィえー。お休みナサイ」

良い事をした、という達成感丸出しの満面の笑み。
片手を上げて、自分の部屋いえに入って行くイケメン異国人。

……うん。とりあえず、害はない。
害はないけど……メンドいな、近所付き合い。

 
      ❖


「えっ。何それ、怖くない?」
「んー……とりあえず、コンポタはレンチンしてあっため直して飲んだけど」
「飲んだの!?」
「いや、飲むよ。さすがに毒入りとかはナイでしょ」
「そういうことじゃなくてさー。はぁっ……、そのうちヘンな事件とかに巻き込まれないでよ?」
「……あー、ねぇ?」

政府のお偉いさんが日本の労働力低下を憂えて発案した移民政策。
年々増える外国人犯罪。

けどさ、別に日本人だって良い人もいれば悪い人もいる。腹の中なんて、誰にも分かんない。

外国人だからって、差別するのはどうなの?
……とか、くだらない論争しかける気は毛頭ない。

久しぶりに飲んだコンポタはフツーに美味うまかったし。食べ物に罪はなし。

「お姉ちゃんさ……高校の時もバスの中で外人にサンドイッチもらってなかった?」
「だねー。私、そんなに物欲しそうに見えるのかね?」

アハハ、と空笑いを返せば、呆れたように二つ違いの妹の夏鈴かりんが溜息をつく。

「ほんっと、お気楽でいいよね。こっちは上の子が受験生で下は反抗期で姑は要介護なのに!」
「ゴメンね~。日本の出生率低下に貢献してて~」

その代わり、税金だけ持っていかれてますが。納めるだけ納めて、なんの恩恵も受けてませんが。

……あくまで個人比、心で反発。社会に向かって吠える気はない。

私の渾身こんしんの厭味が、グチ話だけして帰りたかったらしい夏鈴の怒りの導火線に火をつけたらしい。

長居は無用とばかりに、勢いよく玄関扉を開け、私の顔に指を突きつける。

「もう、いいよっ。
くれぐれも、犯罪被害者にも加害者にもならないでよねっ」
「はーい」

ひらひらと手を振って、うるさい妹を玄関先で見送る。
ふと目を上げれば、藍色の夜空にやけに大きな満月が出ていた。

こわいくらい、デカいな。

そんな感想と共に玄関扉のノブに手をかけた直後、カンカンと安アパートの階段を昇る音がして、作業着姿の隣人が帰ってきた。

あ、そうだ。

「コンバンわ~」
「今晩は。ちょっと待って」

きょとんと茶色い瞳を丸くしたお隣さんを尻目に、妹から大量に押しつけられたミカンを適当に袋に詰め、渡す。

「おすそ分けです。どうぞ」
「おソバ? オーケィ?」

うわ、すごい変換ミスみたいな返し。

「えっとね、コンポタのお礼……このあいだの、缶の」

ジェスチャーで飲む真似して伝えれば、ようやく大きくうなずかれた。

「オゥ、ありガトウ、ゴザぁマス!」
「いえいえ、ではこれで」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜

ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。 そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、 理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。 しかも理樹には婚約者がいたのである。 全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。 二人は結婚出来るのであろうか。

ワケあり上司とヒミツの共有

咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。 でも、社内で有名な津田部長。 ハンサム&クールな出で立ちが、 女子社員のハートを鷲掴みにしている。 接点なんて、何もない。 社内の廊下で、2、3度すれ違った位。 だから、 私が津田部長のヒミツを知ったのは、 偶然。 社内の誰も気が付いていないヒミツを 私は知ってしまった。 「どどど、どうしよう……!!」 私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

【完結】Keyless☆Night 一晩だけでいいから、泊めて?

一茅苑呼
恋愛
❖本郷(ほんごう)叶絵(かなえ) 26歳  洋菓子店販売員兼パティシエール         ✕ ❖進藤(しんどう)雅貴(まさき) 21歳  無表情イケメン大学生  ◆◆◆年の差ラブコメディ◆◆◆ 拙著『ハーフ☆ブラザー 突然出てきた弟に溺愛されてます!』の次世代ストーリーです。 他サイト複数掲載済み。……ですが、アルファポリスさんにてR15程度の艶ごとシーン追加しました。  ────あらすじ──── いや、図々しいよね? 絶対、常識ないって思われてるよね? 「一晩だけでいいから泊めて!」 って。 ビジネスホテルにでも泊まっとけって話だよね。 「別に、いいですよ」 ……え? いいの? 本当に? こうして私は、バカでビッチな女と思われるのを覚悟で片想い中の進藤くんに頼みこみ、一晩だけ泊めてもらうことになりました、やった! ……優しさにつけこんで、ゴメンね。 誓って、何もしないからさ……たぶん。

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される

永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】 「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。 しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――? 肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!

大好きな背中

詩織
恋愛
4年付き合ってた彼氏に振られて、同僚に合コンに誘われた。 あまり合コンなんか参加したことないから何話したらいいのか… 同じように困ってる男性が1人いた

処理中です...