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第六章 この心に宿るから

秘めごとを越えた二人【3】

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「……お父さん、自分の部屋で休んでるよ」

例によって酒好きなわりに酒に弱い父さんは、いまごろ高いびきのようだった。

なんだか元気がなさそうな様子で、散らかった食器類を片付ける大地に、後ろから抱きついた。

「まいさん……?」
「……せっかく久しぶりにお兄ちゃんと楽しく飲み食いできたのに、自分がぶち壊しちゃったなとか、反省してる?」

「そんなまさか。分別のない透さんに、ほとほとあきれかえってるだけ」

私は大地の頬をつねった。

「素直じゃないわね、あんたも」
「そんなことないよ」
「そんなことあるの!
……別に父さん、トオルくんのこと悪く思ってるような素振り、してなかったでしょ?」

のぞきこんで尋ねると、「うん」という短い肯定の言葉が返ってきた。
しぶしぶといった感じで、大地は続ける。

「それどころか、
『今度は是非、泊まりがけで来て欲しい』
って、言ってた。……なんか、複雑だよ」
「そ? 大好きなお兄ちゃんが、父さんに気に入られたのに?」
「……だって、僕より透さんを気に入って、ぜひ、まいさんのお婿さんに欲しいとか言われたら、僕の立場ないじゃないか」

ムスッとした顔で言う大地に、私は噴きだした。

「バカねー、そんなこと、あるわけないじゃない。
……私と一緒で嬉しいのよ、気ぃ遣いの大地にも、ちゃんと気が置けない相手がいたんだって解って」
「それは……そうなんだろうけど……」

ねたような口調の大地が可愛いくて、いたずらっぽく笑ってやった。

「ね、トオルくんの言う通り、ホントにデキ婚しちゃおっか?」
「───駄目だよ、まいさん。物事には順序ってものがあるんだから。
お父さんの立場や、まいさんの立場……世間体ってものがあるし」
「……姉弟でエッチすること万々歳だったあんたが言うなんて、ものすごく矛盾を感じるんですけど?」

あきれ半分で言い返してやる。
それとこれとは別だよ、と、生意気にも反論が返ってきた。

「近親姦は単なる秘めごとで、倫理や性的指向の問題でしょ?
だけどデキ婚は、将来設計ができてない二人の結果論な気がして……僕は、嫌なんだよ」
「───……意味不明なんですけど……」

相変わらずの大地ルールに、あきれてグッタリと大地に寄りかかる。
くすっと笑って、大地が身体を入れ替えた。
そのまま、ソファーに押し倒される。

「……別に、あせって『先』を急がなくたって、僕はまだ、まいさんと『二人だけ』の生活を、楽しみたいんだけどな……?」

含むような物言いと、私の唇をなぞる大地の親指がいやらしい。
逆らえない自分の本能を受け入れた瞬間、わざとらしい咳払いが聞こえた。

「───あー、その、邪魔するつもりはないんだが……。
そそそそういうことは、ふたりの部屋に行って、してもらえないか?」

リビングの入り口に、あらぬ方向を見て、アルコールが入っただけとは思えない赤い顔をした父さんがいた。

───っ……ぎゃーっ!
また父さんに見られてたーっ!!

思わず大地の影に隠れて心のなかで大絶叫の私とは違い、大地はいたって冷静に父さんを振り返った。

「すみません、お父さん。以後、気をつけます」

しれっと答える大地のツラの皮の厚さが、心底うらやましい。
そんな大地を、恥ずかしさのあまり突き飛ばして、私は自分の部屋に行く。

間違いなくあとからやってくるだろう大地との、『二人の時間』を楽しむために……。








        †第二部・完†


※このあと、大地視点の『後日談・五番目の大地』をお届けします。
よろしければ、お付き合いくださいませ。


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