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第六章 この心に宿るから
秘めごとを越えた二人【1】
しおりを挟む「───乾杯ッ!」
もう十数回には及ぶと思われる、グラスがかち合う音が響いた。
いいかげんウンザリしながら、空になったつまみの皿を下げる。
主役であるはずの大地は、ひとり落ち着いた様子でウーロン茶を飲んでいた。
ことあるごとに乾杯を繰り返す、酔っ払い二人をニコニコと見つめて。
「舞美、トオルくんのグラスが空になったぞ」
父さんの言葉に、意外にも酒に呑まれてるっぽいトオルくんのグラスに、ためらいながらビールを注いだ。
「あー、オネーサン、悪いっすねぇ……。
おら、大地。お前が気ぃ利かねーから、逆にオトーサンが、気ぃ遣ってくれてるじゃねぇかっ」
「…………透さん。そろそろタクシー呼ぼうか?」
「あー? ウタゲはまだ始まったばっかだろー?
お前が小学校の時に、どんだけ近所のアホガキ供にいじめられてたかとかよぉ……。オトーサンだって、知っておきたいだろーがっ」
「それは、是非とも聞いておかなければならないね。トオルくん、話してくれたまえ」
口調は真面目くさってるのに、目は焦点が合っていない。
こっちも酒に呑まれてる感満載の父さんを、溜息まじりにたしなめた。
「……父さん。トオルくんだって、明日仕事があるんだから、あんまり引き留めちゃ悪いと思うわよ?」
「───大丈夫っすよ、オネーサン。二日酔いで仕事なんて、よくあることですから~……ック」
……まぁ確かに、トオルくんの言動は、素面とは思えないことあるけど……って。
いやいや、そういうことじゃないでしょ、私!
そもそも大地の快気祝いだったはずなのに、肝心の大地そっちのけで男二人が意気投合して、飲み会始めちゃったのが間違いでしょう……どう考えても。
「舞美。トオルくんが安心して呑めるように、布団を用意してあげてくれ」
「あ、オネーサン、オレは大地のベッドで寝ますから、気遣い無用で」
「……僕に気を遣う気は、さらさらないわけね」
ぼそっと告げられた大地の厭味に、父さんが驚いたように目を丸くする。
「おや。大地くんも、そんなことを言うんだな」
「言いますよ、オトーサン! こいつオレに対しては常にこんな感じっスよ?
つか、大地。お前ってヤツは、なんで解らないのかね、オレ様のやっさしーいココロ遣いが!」
「───は? なに言ってんの?
いっつも、そのわけ解らない透さん流の『ココロ遣い』とやらに、迷惑かけられてる僕の身にも、なって欲しいよ」
父さんの手前、トオルくんに対する態度に遠慮があった大地も、一度本性を見せてしまったせいか本来のトオルくんへの対応に切り替えたようだった。
「ばっか、お前なぁ、よく聞けよ?
オレがお前のベッド占領してれば、その名目でもって、どぉーどぉーと、オネーサンの部屋行って、子作りにハゲめるだろぉー?」
「ちょっ……透さん! お父さんの前で、そういう下品なこと───」
「下品とか、んなコト気にしてっから、もうじき同居して一年近くも経つってのに、オネーサンとデキ婚もできねぇんだろーがっ。
……ん? まだ十七だから、どっちにしろ結婚は無理なのか??
いやいや、とりあえず既成事実だよな? オネーサンの歳考えたら、早いに越したことねぇし。
……つか、ヤルことヤッてんのになんでだ? 若いのにジジ臭い分別もってるせいで、お前の精───」
大地の片手が、勢いよくトオルくんの口を覆った。
「本当に、シャレにならないから。これ以上まいさん達が引くようなこと言ったら、僕、本気で透さんとの付き合い考え直すからね?」
大地ににらみつけられた、トオルくんの目がおよぐ。
にらまれた事実より、大地の言葉に含まれた本気度によってか、文字通りトオルくんの口がふさがれた。
大地もそれを感じとったらしく、おもむろに手を離す。
ばつ悪そうに頭をかきながら、トオルくんが言った。
「───オレ、帰るわ。佐木さん、いろいろご馳走さまでした。
あ、バイクはあとで取りに来るんで、今日のとこはアイツだけ泊めといてやってください」
一気に酔いがさめたように、トオルくんは私と父さんを代わる代わる見て、それから頭を下げた。
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