62 / 73
第六章 この心に宿るから
二人の融合──僕は僕を、赦すよ【2】
しおりを挟む
腕を伸ばして、大地を抱き寄せる。
力いっぱい抱きしめて、その心に響くように告げる。
「ありがとう、大地。……私の好きな、大地。
たとえあんたが消えてしまったとしても……あんたが私を想ってくれた事実だけは、ちゃんと私のなかに残るから。
だから、忘れないで。私があんたを好きなこと。何より誰より、あんたを一番に想っているってことを。
どんな『大地』だって、受け入れてあげる」
どんな大地でも───一度は難しいと思ったその言葉を、いまならはっきりと、口にできる。
私が好きなのは、ここにいる『大地』なんだって。
私より短い年数しか生きていないのに、私より深い傷を負って、なのに、人を思いやれる心をもっている。
私は、その心に、応えたい。応えてあげたい。
「……届いてるよ、まいさん」
透明な声音が、わずかにかすれて響いた。
「『あいつ』にも……きっと」
私は目を閉じた。
……ほら、こうやって、私の心を推し量って、気遣うことができるから。
「ありがとう、大地」
もう一度、同じ言葉を繰り返す。
今度は、いまここにいる大地のためだけに。
ゆっくりと身を起こして大地の頬に触れ、瞳をのぞきこんだ。
「無理しないでいいって言ったって、あんたはきっと、無理してでも、私の想いに応えてくれるのよね……」
しみじみと告げてしまう。
自分の頬に伸ばされた私の指をつかみ、大地が口を開く。
「まいさんは、思い違いをしているよ。僕は、僕の心の赴くまま、行動してるんだ。
人からすると、やせ我慢して無理しているように見えても……それは、僕が僕であるために『必要な我慢』なんだよ?
第一、まいさんが望むことならどんな無理難題だって叶えたいし叶えることが僕の『幸せ』なんだ。
……ね、ほら、僕にとってそれは『我慢』じゃなくて『幸せ』なんだから……まいさんにだって、それを奪う権利はないはずだよ?」
片目をつむって、いたずらっぽく笑う。
へ理屈だって解っていても、そうやって私をけむに巻いて、自分を通すのが『大地』なんだから、どうしようもない。
傍からみれば滑稽に思えるほど盲目的な想いを、大地は私に向けてくれている。
だからこそ私も、バカみたいに大地を想うしかなくなるんだろう。
「あんたが……『大地』が『大地』で、本当に良かったわ。いまほど、そう思えたことない……」
泣きそうになりながら微笑むと、大地はつかんだ私の指先にキスをした。
「まいさんにそう言ってもらえるのなら、こんな事態になったことも、まんざら悪いことじゃないね。
じゃあ……今度の診療日、榊原先生に僕からお願いするよ───僕達ふたりの、融合を」
私はうなずいた。
……後悔はないのに、ほんの少し寂しい気持ちが、胸を駆け抜けていく。
そんな気持ちが顔にでてしまったのか、大地は私を安心させるように笑ってみせた。
「大丈夫だよ。僕は……『どんな僕』でも、まいさんが大好きで……それだけは絶対に、変わらないから」
「……うん。それだけは、信じてる」
信じたい、という気持ちで相づちをうった私に、大地がふうっと息をついた。
「……反則だよ、まいさん」
何が、と言いかけた私の唇を、大地の唇がふさいだ。
「……頑張って自制してたけど、もう、限界だよ」
唇を離した大地は、言って私を押し倒した。
いとおしげに目を細め、私の髪を指で梳く。
「信じてる、だなんて。まいさん、可愛いすぎるよ……」
言った唇が頬に触れて、優しくて甘い吐息が、耳もとにかかる。
「ね、だから……いいよね……?」
つっ……と、大地の人差し指が私の鎖骨の間を抜けて、下がった。
触れそうで触れない指の行方がせつなくて、思わず大地の首の後ろに腕をまわした。
「……もっと、ちゃんと……あんたの全部で、私に触れて……」
大地はくすぐったそうに身をよじり、私の頭を抱えこみながら頬を傾けた───言葉よりも、身体で伝えられる想いがあると、いわんばかりに。
力いっぱい抱きしめて、その心に響くように告げる。
「ありがとう、大地。……私の好きな、大地。
たとえあんたが消えてしまったとしても……あんたが私を想ってくれた事実だけは、ちゃんと私のなかに残るから。
だから、忘れないで。私があんたを好きなこと。何より誰より、あんたを一番に想っているってことを。
どんな『大地』だって、受け入れてあげる」
どんな大地でも───一度は難しいと思ったその言葉を、いまならはっきりと、口にできる。
私が好きなのは、ここにいる『大地』なんだって。
私より短い年数しか生きていないのに、私より深い傷を負って、なのに、人を思いやれる心をもっている。
私は、その心に、応えたい。応えてあげたい。
「……届いてるよ、まいさん」
透明な声音が、わずかにかすれて響いた。
「『あいつ』にも……きっと」
私は目を閉じた。
……ほら、こうやって、私の心を推し量って、気遣うことができるから。
「ありがとう、大地」
もう一度、同じ言葉を繰り返す。
今度は、いまここにいる大地のためだけに。
ゆっくりと身を起こして大地の頬に触れ、瞳をのぞきこんだ。
「無理しないでいいって言ったって、あんたはきっと、無理してでも、私の想いに応えてくれるのよね……」
しみじみと告げてしまう。
自分の頬に伸ばされた私の指をつかみ、大地が口を開く。
「まいさんは、思い違いをしているよ。僕は、僕の心の赴くまま、行動してるんだ。
人からすると、やせ我慢して無理しているように見えても……それは、僕が僕であるために『必要な我慢』なんだよ?
第一、まいさんが望むことならどんな無理難題だって叶えたいし叶えることが僕の『幸せ』なんだ。
……ね、ほら、僕にとってそれは『我慢』じゃなくて『幸せ』なんだから……まいさんにだって、それを奪う権利はないはずだよ?」
片目をつむって、いたずらっぽく笑う。
へ理屈だって解っていても、そうやって私をけむに巻いて、自分を通すのが『大地』なんだから、どうしようもない。
傍からみれば滑稽に思えるほど盲目的な想いを、大地は私に向けてくれている。
だからこそ私も、バカみたいに大地を想うしかなくなるんだろう。
「あんたが……『大地』が『大地』で、本当に良かったわ。いまほど、そう思えたことない……」
泣きそうになりながら微笑むと、大地はつかんだ私の指先にキスをした。
「まいさんにそう言ってもらえるのなら、こんな事態になったことも、まんざら悪いことじゃないね。
じゃあ……今度の診療日、榊原先生に僕からお願いするよ───僕達ふたりの、融合を」
私はうなずいた。
……後悔はないのに、ほんの少し寂しい気持ちが、胸を駆け抜けていく。
そんな気持ちが顔にでてしまったのか、大地は私を安心させるように笑ってみせた。
「大丈夫だよ。僕は……『どんな僕』でも、まいさんが大好きで……それだけは絶対に、変わらないから」
「……うん。それだけは、信じてる」
信じたい、という気持ちで相づちをうった私に、大地がふうっと息をついた。
「……反則だよ、まいさん」
何が、と言いかけた私の唇を、大地の唇がふさいだ。
「……頑張って自制してたけど、もう、限界だよ」
唇を離した大地は、言って私を押し倒した。
いとおしげに目を細め、私の髪を指で梳く。
「信じてる、だなんて。まいさん、可愛いすぎるよ……」
言った唇が頬に触れて、優しくて甘い吐息が、耳もとにかかる。
「ね、だから……いいよね……?」
つっ……と、大地の人差し指が私の鎖骨の間を抜けて、下がった。
触れそうで触れない指の行方がせつなくて、思わず大地の首の後ろに腕をまわした。
「……もっと、ちゃんと……あんたの全部で、私に触れて……」
大地はくすぐったそうに身をよじり、私の頭を抱えこみながら頬を傾けた───言葉よりも、身体で伝えられる想いがあると、いわんばかりに。
10
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
【完結】イケメン外国人と親交を深めたつもりが、イケメン異星人と恋人契約交わしてました!
一茅苑呼
恋愛
【年上アラフォー女子✕年下イケメン外国人(?)のSFちっく☆ラブコメディ】
❖柴崎(しばさき) 秋良(あきら) 39歳
偏見をもたない大ざっぱな性格。時に毒舌(年相応)
物事を冷めた目で見ていて、なぜか昔から外国人に好かれる。
❖クライシチャクリ・ダーオルング 31歳
愛称ライ。素直で裏表がなく、明るい性格。
日本のアニメと少年漫画をこよなく愛するイケメン外国人。……かと思いきや。
いえ、彼は『グレイな隣人』で、のちに『グレイな恋人』になるのです(笑)
※他サイトでも掲載してます。
❖❖❖表紙絵はAIイラストです❖❖❖
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
【完結】溺愛予告~御曹司の告白躱します~
蓮美ちま
恋愛
モテる彼氏はいらない。
嫉妬に身を焦がす恋愛はこりごり。
だから、仲の良い同期のままでいたい。
そう思っているのに。
今までと違う甘い視線で見つめられて、
“女”扱いしてるって私に気付かせようとしてる気がする。
全部ぜんぶ、勘違いだったらいいのに。
「勘違いじゃないから」
告白したい御曹司と
告白されたくない小ボケ女子
ラブバトル開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる