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第四章 愛してる、愛してない
愛情でなく、同情【3】
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*****
父さんからは、仕事で遅くなるとの連絡を受けていた。
変な気兼ねもいらないだろうし、
「夕飯でも食べて行けば?」
という私の誘いを、トオルくんはあっさり断った。
「佐木さんって、変なとこスキ見せるなぁ……。
男に手料理振る舞うのは、誤解の元だろ? メシ食うついでに佐木さんも喰っとくか~とか、オレが思ったらどうすんの?
言っとくけど、いまの大地じゃ佐木さんが襲われてたって、助けてくれねーよ?」
ひょいと肩をすくめ、トオルくんは心にもなさそうな苦言を呈し帰って行った。
トオルくんを誘ったのは、私のなかのモヤモヤを解消してくれたお礼の意味と。
大地と二人だけの食事が、気詰まりに思えたからなんだけど。
……イヤだな、私。
大地と一緒にいることを、気詰まりに感じてしまうなんて。
夕食の支度を整えて、そんな気分を振り払うように、大地の部屋をノックした。
努めて明るく、何事もなかったかのように、声をかける。
「大地~? 夕飯用意できたわよ。早く来なさいね?」
返事は、なかった。
以前、こんな風にノックをして、大地が答えてくれない時があったのを思いだした───お母さんとの間にあった事を、話してくれた時を。
急に嫌な胸騒ぎがした。
「大地? ……入るわよ」
いまの大地なら、怒るかもしれない。
そう思いながらも、意を決してドアノブを回した。
鍵はかかってなかった。怒声も、かからなかった。だけど───。
「ちょっと、大地!? 大丈夫?」
大地は、ベッド脇で片腕をベッドの上に投げだし、こちらに背を向けた状態で、ぐったりとベッドに寄りかかっていた。
尋常じゃない様子に、あわてて大地の側に寄る。
青い顔をしていたのに、私ったら放っておいたりして……!
「ゴメン、大地! あんた、クリニックから帰って来てからずっと、具合が悪かったんだよね? もう、それならそうと、言ってくれれば……」
のぞきこんで見た大地の顔は、さきほどの青い顔から一変して、赤かった。
頬に触れると、かなり熱い。
唇から漏れる息遣いも、相当しんどそうだった。
「ゴメンね……気づいてやれなくて……」
力のない瞳が私を捕らえ、ゆっくりと閉じられた。
いまは、私に歯向かう気力も、ないのかもしれない。
拒まれないのをいいことに、もう一度その頬に触れる。
とたん、堰をきったように、大地への想いがあふれだした。
思わず大地を、ギュッと抱きしめてしまう。
「ホントにごめんね……大地……」
自分でも、何に対しての『ごめん』なのか、解らなかった。
体調不良を気遣えなかったことについての謝罪なのか、恋愛感情をもてないことへの後ろめたさなのか……。
次の瞬間、腕のなかで大地が身動ぎ、かすれた声で言った。
「……おかしいな……。いつもは、あったかくて柔らかくて、すごく気持ち良いのに。
……今日は、まいさんが、なんだか冷たく感じる……」
私はまばたきをした。
いま、『まいさん』って、言った?
耳を疑う単語は、ふたたびささやかれた。
「まいさん……ねぇ、謝らないで。
きっと……謝らなきゃならないのは……僕のほう、だから……」
自分のこと『僕』って、言った……?
抱きしめた腕をゆるめて、大地と向き合う。
気だるい表情で、けれども大地はふふっと笑ってみせた。
「まいさん。そんな泣きそうな顔をしていると……キスして、押し倒してしまうよ……?」
聞き取りにくいハスキーな声。
なのに、やわらかく優しい口調は、まぎれもなく『大地』のものだった。
父さんからは、仕事で遅くなるとの連絡を受けていた。
変な気兼ねもいらないだろうし、
「夕飯でも食べて行けば?」
という私の誘いを、トオルくんはあっさり断った。
「佐木さんって、変なとこスキ見せるなぁ……。
男に手料理振る舞うのは、誤解の元だろ? メシ食うついでに佐木さんも喰っとくか~とか、オレが思ったらどうすんの?
言っとくけど、いまの大地じゃ佐木さんが襲われてたって、助けてくれねーよ?」
ひょいと肩をすくめ、トオルくんは心にもなさそうな苦言を呈し帰って行った。
トオルくんを誘ったのは、私のなかのモヤモヤを解消してくれたお礼の意味と。
大地と二人だけの食事が、気詰まりに思えたからなんだけど。
……イヤだな、私。
大地と一緒にいることを、気詰まりに感じてしまうなんて。
夕食の支度を整えて、そんな気分を振り払うように、大地の部屋をノックした。
努めて明るく、何事もなかったかのように、声をかける。
「大地~? 夕飯用意できたわよ。早く来なさいね?」
返事は、なかった。
以前、こんな風にノックをして、大地が答えてくれない時があったのを思いだした───お母さんとの間にあった事を、話してくれた時を。
急に嫌な胸騒ぎがした。
「大地? ……入るわよ」
いまの大地なら、怒るかもしれない。
そう思いながらも、意を決してドアノブを回した。
鍵はかかってなかった。怒声も、かからなかった。だけど───。
「ちょっと、大地!? 大丈夫?」
大地は、ベッド脇で片腕をベッドの上に投げだし、こちらに背を向けた状態で、ぐったりとベッドに寄りかかっていた。
尋常じゃない様子に、あわてて大地の側に寄る。
青い顔をしていたのに、私ったら放っておいたりして……!
「ゴメン、大地! あんた、クリニックから帰って来てからずっと、具合が悪かったんだよね? もう、それならそうと、言ってくれれば……」
のぞきこんで見た大地の顔は、さきほどの青い顔から一変して、赤かった。
頬に触れると、かなり熱い。
唇から漏れる息遣いも、相当しんどそうだった。
「ゴメンね……気づいてやれなくて……」
力のない瞳が私を捕らえ、ゆっくりと閉じられた。
いまは、私に歯向かう気力も、ないのかもしれない。
拒まれないのをいいことに、もう一度その頬に触れる。
とたん、堰をきったように、大地への想いがあふれだした。
思わず大地を、ギュッと抱きしめてしまう。
「ホントにごめんね……大地……」
自分でも、何に対しての『ごめん』なのか、解らなかった。
体調不良を気遣えなかったことについての謝罪なのか、恋愛感情をもてないことへの後ろめたさなのか……。
次の瞬間、腕のなかで大地が身動ぎ、かすれた声で言った。
「……おかしいな……。いつもは、あったかくて柔らかくて、すごく気持ち良いのに。
……今日は、まいさんが、なんだか冷たく感じる……」
私はまばたきをした。
いま、『まいさん』って、言った?
耳を疑う単語は、ふたたびささやかれた。
「まいさん……ねぇ、謝らないで。
きっと……謝らなきゃならないのは……僕のほう、だから……」
自分のこと『僕』って、言った……?
抱きしめた腕をゆるめて、大地と向き合う。
気だるい表情で、けれども大地はふふっと笑ってみせた。
「まいさん。そんな泣きそうな顔をしていると……キスして、押し倒してしまうよ……?」
聞き取りにくいハスキーな声。
なのに、やわらかく優しい口調は、まぎれもなく『大地』のものだった。
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