【完結】ハーフ☆ブラザー 突然出てきた弟に溺愛を通り越してストーカーされてます!

一茅苑呼

文字の大きさ
上 下
49 / 73
第三章 三番目の大地

あんたが好きなのは、おれじゃない【2】

しおりを挟む


*****


車に乗りこんで数分後、大地の様子が変だと気づき、あわてて通りかかった駐車スペースの広いコンビニで車を停めた。

「大地? 気分悪いの? ここでトイレ借りていく?」
「……触んなっ……!!」

瞬時に払われた手の行き場にとまどいながらも、もう一度、大地の肩に手を伸ばした。

「じゃ、外の空気でも吸って───」
「気持ち悪いんだよ、あんたにさわられるとっ……!」

助手席で半身を伏せ、肩を震わせた大地の口から、悲鳴のような拒絶の言葉が漏れた。

けれども、声から伝わってくる悲痛な響きの方が、大地の心を表しているようで……。
私は逆に、大地を包みこむように抱きしめた。

「───ごめんね、大地」

私を振りほどこうとして、腕のなかでもがいていた大地の動きが、止まる。

「あんたが嫌でも……私には、こうやって抱きしめてあげる以外、あんたにしてあげられること、思いつかないの。
あんたはどこまで私とのこと、思いだせたの? 私があんたのことを好きで……あんたも、私のこと───」
「おれじゃない!」

言うなり、かなり乱暴な力強さで突き飛ばされる。私の頬を、大地の爪の先が、かすめていった。

「あんたが好きなのは、おれじゃない。おれの中で眠ってる、《こいつ》だ」

自分の胸に拳を叩きつけて、大地が言う。

「《こいつ》の母親も、《こいつ》じゃなくて、自分が好きな男を《こいつ》の中に見て《こいつ》にセックスを強要したんだ。
あんたも《こいつ》の母親も、結局、マスターベーションの道具として《こいつ》を利用していただけだろ!?
それを『良い子』だとか『好き』だとか……《こいつ》が喜びそうな言葉でごまかして、隷属させてただけじゃないか!」

───殴りつけるような言葉の羅列は、これで二度目だ。
それでも私の心が慣れることはなく、身体が自然、震えた。

そんな私をにらみ据えたまま、大地は続けざま言葉でりつけてくる。

「口先でなら、なんとでも言えるっ。おれは、そんなものにはだまされない! 《こいつ》とは、違う!
自分の欲望を満たすために、おれを利用しようだなんて、思うなっ!」

言いきった大地が、興奮がおさまらないように、肩で息をする。
ふいに、こみあげたものを抑えるように口元を覆った。

その理由に気づいた瞬間には、もう、大地は嘔吐おうとしていた。胃液の匂いが車内に充満する。

「……大地、だいじょ───」
「気持ち、悪い……って……言って……。なんで……さわ、るんだ……」

窓を開けながら、大地の背中をさすってやる。
涙目でこちらをにらむ大地が、なおも私を拒んでいるのが解った。

好きな気持ちを否定されて……そんな大地を受けとめられない悔しさと悲しみを抱えたまま、私は言った。

「なんでとか……この期に及んで、訊いてくるんじゃないわよっ。
あんたさっき、自分で言ったじゃない。口先では、なんとでも言えるって。
言葉を信じられない人間に、伝えられることなんて、私にはないわ……!」

視界が揺らいで、泣きそうな自分に気づく。
こんなにも、伝えたい想いが伝わらないもどかしさがあるだなんて、初めて知った。

言葉を重ねても、身体を寄せても、いまの大地には何ひとつ解ってもらえない。

「あんたは……私の知っている、大地じゃないの……?」

思わず、か細い問いかけが口をついた。

トオルくんに諭されてから、あえてふたをしてきた気持ち。もう自分をごまかせないと、思った。

「私は……あんたを好きでいちゃ……いけ、ないの……?」

何があっても変わらないと、思っていたわけじゃない。

大地が心変わりする日がくるかも知れないという不安は、大地を好きだと自覚してから、徐々に募ってきていたものだ。

───だけど。
こんな風に、大地から突き放される日がくるなんて。

「……あんたが……好きなのは……おれじゃない……」

かすれた声音で告げる《大地の顔》は、涙でにじんだ視界の向こうで、私の知らない《誰か》に見えて、仕方がなかった……。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

月城副社長うっかり結婚する 〜仮面夫婦は背中で泣く〜

白亜凛
恋愛
佐藤弥衣 25歳 yayoi × 月城尊 29歳 takeru 母が亡くなり、失意の中現れた謎の御曹司 彼は、母が持っていた指輪を探しているという。 指輪を巡る秘密を探し、 私、弥衣は、愛のない結婚をしようと思います。

俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜

ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。 そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、 理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。 しかも理樹には婚約者がいたのである。 全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。 二人は結婚出来るのであろうか。

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される

永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】 「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。 しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――? 肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!

【完結】イケメン外国人と親交を深めたつもりが、イケメン異星人と恋人契約交わしてました!

一茅苑呼
恋愛
【年上アラフォー女子✕年下イケメン外国人(?)のSFちっく☆ラブコメディ】 ❖柴崎(しばさき) 秋良(あきら) 39歳 偏見をもたない大ざっぱな性格。時に毒舌(年相応) 物事を冷めた目で見ていて、なぜか昔から外国人に好かれる。 ❖クライシチャクリ・ダーオルング 31歳 愛称ライ。素直で裏表がなく、明るい性格。 日本のアニメと少年漫画をこよなく愛するイケメン外国人。……かと思いきや。 いえ、彼は『グレイな隣人』で、のちに『グレイな恋人』になるのです(笑) ※他サイトでも掲載してます。 ❖❖❖表紙絵はAIイラストです❖❖❖

助けてください!エリート年下上司が、地味な私への溺愛を隠してくれません

和泉杏咲
恋愛
両片思いの2人。「年下上司なんてありえない!」 「できない年上部下なんてまっぴらだ」そんな2人は、どうやって結ばれる? 「年下上司なんてありえない!」 「こっちこそ、できない年上の部下なんてまっぴらだ」 思えば、私とあいつは初対面から相性最悪だった! 人材業界へと転職した高井綾香。 そこで彼女を待ち受けていたのは、エリート街道まっしぐらの上司、加藤涼介からの厳しい言葉の数々。 綾香は年下の涼介に対し、常に反発を繰り返していた。 ところが、ある時自分のミスを助けてくれた涼介が気になるように……? 「あの……私なんで、壁ドンされてるんですか?」 「ほら、やってみなよ、体で俺を誘惑するんだよね?」 「はあ!?誘惑!?」 「取引先を陥落させた技、僕にやってみなよ」

ハメられ婚〜最低な元彼とでき婚しますか?〜

鳴宮鶉子
恋愛
久しぶりに会った元彼のアイツと一夜の過ちで赤ちゃんができてしまった。どうしよう……。

処理中です...