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第一章 もう一人の存在
大地と、どういう関係?【2】
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「オレは、あいつが小学生の頃からあんたに夢中で、異母姉弟だって知ってても……違うって解ってからも、あんたにメロってんのは知ってるわけ。でもさ、それってどうよ? って、オレは思っててさ」
「……刷り込みみたいに大地が思いこんでいるだけで、私を好きだっていうのは、錯覚なんじゃないかって、こと?」
歳の差も外見的要素も、第三者からすれば、確かに私と大地は不釣り合いなのかもしれない。
だけど、私は───。
「……大地がいま、私のことを想ってくれているのは事実だし、私も大地のこと……好き、なの。
人からどう思われようと、大地の方からはっきりと『飽きたから別れたい』って言われるまで、私は大地から離れる気はないわ」
「…………あー……えーと……うん、悪い。
質問したオレが、馬鹿だった。いや、あんたらが、似合いのバカップル?」
言って、神林透が堪えきれないといった様子で笑いだした。
テーブルに片手をバンバンと叩きつける。
「……や、そうくるとは……。いや、でも、そうか……考えたら弟とヤッちゃうようなオネーサンなんだよな、そうだよな……」
「ちょっと!」
近くのテーブルについた数人の目が、こちらに向けられたのを感じ、あわててたしなめる。
悪い、と、口先で謝っただけで全然反省している様子もなく、神林透は口元を覆う。
肩で大きく息をついた。
「……オレが訊きたかったのは、佐木さんがあいつの行動に迷惑してんじゃないのかって、ことだったんだけど。
だってさ……ウザイだろ、どう考えても。重いっつーか。
一緒に暮らしてるのに、あいつ学校終わったら、ここに……佐木さんの職場にまで、来ててさ。
四六時中、見張られてるような気がして、嫌気がさしてんじゃないのかって、思って。
オレはちゃんと忠告してたんだけど、あいつ、あんたから自分を好きだっていう『免罪符』もらってから、歯止めきかないみたいだし……。
フラれる前にやめとけって、言ってやったんだよ。
普通そんなに束縛されたら、どんだけイイ男だとしても勘弁してくれって、オレが女だったら思うし。けど」
ちらっと、神林透がにやけた表情のまま、私に視線を寄越した。
「佐木さんにとっては、あいつのストーカー行為は、ただの愛情表現にしか、映らないんだ?」
「………………悪い?」
改めて言われると、なんだか自分の感覚が麻痺しているようで、私は悔しまぎれに神林透をにらんでみせた。
「いんや? いいんじゃないの? 二人が、それでよければ。
───佐木さんは、あいつとあいつの母親とのこと……知ってるんだろ?」
ふいにもちだされた事実に、驚いて彼を見返した。
初めて、真剣な顔をした神林透と目が合った。
「……ん。あいつが、あんたに隠しごとするわけないしな。
知った上で、あいつのこと受け入れているなら、オレから言えることは、何もないけど。
ただ」
私を見つめる神林透の眼が、挑むように真剣みを増す。
「……あんただけは、裏切らないでやってくれよな? あいつが、どんな状況にあっても。
信じてる人間から裏切られるだなんて、一度経験すれば、十分だろ?」
告げられた声音の強さに、胸が詰まった。
彼の言葉から、大地へ向けられた無償の愛を感じたからだ。
……ああ、そっか。
大地が、大地でいられたのは、この人がいたからなんだ……。
「───ありがとう、トオルくん。大地の側に、いてくれて」
私の言葉に、彼は目を見開いた。
ふいっと目をそらして、テーブルに頬杖をつく。
「……勘違いすんなよ。オレができたのは、あいつの話を聞いてやることくらいだ。
あいつが抱えた複雑な事情を知ったって、何もしてやれなかったんだ。正直、オレが手に負える問題じゃねぇなって、思ったし。
結局あいつは、あいつ自身で自分を支えてた。
……救いがあったとすれば、あんたを想う気持ちだけだったんだ。
だからさ」
そこで大きく息をついて、トオルくんは、私をじっと見据えた。
「あいつが、誰よりもあんたを好きだって気持ちだけは、疑わないでやってくれよ。歳の差があり過ぎて、あんたが不安になる気持ちも解んないでもないけどさ。
それだけは、何があっても、信じてやって」
「───……解った」
語られる言葉のひとつひとつが不思議なほどに私の心に響いた。
大地から寄せられる想いを、こんなふうに誰かの口を通して聞かされて……こそばゆさよりも、安心感が募っていくのが分かった。
───だからこそ私は、微笑み返さずには、いられなかった。
「ね、トオルくん。
トオルくんは何もできなかったって言ってたけど……やっぱり大地にとっては、トオルくんがいてくれたこと───たとえ話を聞いてくれるだけだったとしても……ううん、話を聞いてくれたからこそ、救われていたんだと思う。
大地にとってトオルくんは、とても大切な人、なんだよね?」
トオルくんは、私の言葉に、嫌な顔をしてみせた───ちょうど、大地が私の隣に彼を見つけた時のように。
「……なんで女って、話をキレイにまとめたがるかなぁ……。
ま、あんたの次に、ってことにしておくか」
言ってトオルくんが肩をすくめた時、三人前のたこ焼きを右手に、三人分の飲み物を左手に持ち、大地がテーブルに戻って来た。
「……刷り込みみたいに大地が思いこんでいるだけで、私を好きだっていうのは、錯覚なんじゃないかって、こと?」
歳の差も外見的要素も、第三者からすれば、確かに私と大地は不釣り合いなのかもしれない。
だけど、私は───。
「……大地がいま、私のことを想ってくれているのは事実だし、私も大地のこと……好き、なの。
人からどう思われようと、大地の方からはっきりと『飽きたから別れたい』って言われるまで、私は大地から離れる気はないわ」
「…………あー……えーと……うん、悪い。
質問したオレが、馬鹿だった。いや、あんたらが、似合いのバカップル?」
言って、神林透が堪えきれないといった様子で笑いだした。
テーブルに片手をバンバンと叩きつける。
「……や、そうくるとは……。いや、でも、そうか……考えたら弟とヤッちゃうようなオネーサンなんだよな、そうだよな……」
「ちょっと!」
近くのテーブルについた数人の目が、こちらに向けられたのを感じ、あわててたしなめる。
悪い、と、口先で謝っただけで全然反省している様子もなく、神林透は口元を覆う。
肩で大きく息をついた。
「……オレが訊きたかったのは、佐木さんがあいつの行動に迷惑してんじゃないのかって、ことだったんだけど。
だってさ……ウザイだろ、どう考えても。重いっつーか。
一緒に暮らしてるのに、あいつ学校終わったら、ここに……佐木さんの職場にまで、来ててさ。
四六時中、見張られてるような気がして、嫌気がさしてんじゃないのかって、思って。
オレはちゃんと忠告してたんだけど、あいつ、あんたから自分を好きだっていう『免罪符』もらってから、歯止めきかないみたいだし……。
フラれる前にやめとけって、言ってやったんだよ。
普通そんなに束縛されたら、どんだけイイ男だとしても勘弁してくれって、オレが女だったら思うし。けど」
ちらっと、神林透がにやけた表情のまま、私に視線を寄越した。
「佐木さんにとっては、あいつのストーカー行為は、ただの愛情表現にしか、映らないんだ?」
「………………悪い?」
改めて言われると、なんだか自分の感覚が麻痺しているようで、私は悔しまぎれに神林透をにらんでみせた。
「いんや? いいんじゃないの? 二人が、それでよければ。
───佐木さんは、あいつとあいつの母親とのこと……知ってるんだろ?」
ふいにもちだされた事実に、驚いて彼を見返した。
初めて、真剣な顔をした神林透と目が合った。
「……ん。あいつが、あんたに隠しごとするわけないしな。
知った上で、あいつのこと受け入れているなら、オレから言えることは、何もないけど。
ただ」
私を見つめる神林透の眼が、挑むように真剣みを増す。
「……あんただけは、裏切らないでやってくれよな? あいつが、どんな状況にあっても。
信じてる人間から裏切られるだなんて、一度経験すれば、十分だろ?」
告げられた声音の強さに、胸が詰まった。
彼の言葉から、大地へ向けられた無償の愛を感じたからだ。
……ああ、そっか。
大地が、大地でいられたのは、この人がいたからなんだ……。
「───ありがとう、トオルくん。大地の側に、いてくれて」
私の言葉に、彼は目を見開いた。
ふいっと目をそらして、テーブルに頬杖をつく。
「……勘違いすんなよ。オレができたのは、あいつの話を聞いてやることくらいだ。
あいつが抱えた複雑な事情を知ったって、何もしてやれなかったんだ。正直、オレが手に負える問題じゃねぇなって、思ったし。
結局あいつは、あいつ自身で自分を支えてた。
……救いがあったとすれば、あんたを想う気持ちだけだったんだ。
だからさ」
そこで大きく息をついて、トオルくんは、私をじっと見据えた。
「あいつが、誰よりもあんたを好きだって気持ちだけは、疑わないでやってくれよ。歳の差があり過ぎて、あんたが不安になる気持ちも解んないでもないけどさ。
それだけは、何があっても、信じてやって」
「───……解った」
語られる言葉のひとつひとつが不思議なほどに私の心に響いた。
大地から寄せられる想いを、こんなふうに誰かの口を通して聞かされて……こそばゆさよりも、安心感が募っていくのが分かった。
───だからこそ私は、微笑み返さずには、いられなかった。
「ね、トオルくん。
トオルくんは何もできなかったって言ってたけど……やっぱり大地にとっては、トオルくんがいてくれたこと───たとえ話を聞いてくれるだけだったとしても……ううん、話を聞いてくれたからこそ、救われていたんだと思う。
大地にとってトオルくんは、とても大切な人、なんだよね?」
トオルくんは、私の言葉に、嫌な顔をしてみせた───ちょうど、大地が私の隣に彼を見つけた時のように。
「……なんで女って、話をキレイにまとめたがるかなぁ……。
ま、あんたの次に、ってことにしておくか」
言ってトオルくんが肩をすくめた時、三人前のたこ焼きを右手に、三人分の飲み物を左手に持ち、大地がテーブルに戻って来た。
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