上 下
37 / 73
第一章 もう一人の存在

大地と、どういう関係?【2】

しおりを挟む
「オレは、あいつが小学生ガキの頃からあんたに夢中で、異母姉弟だって知ってても……違うって解ってからも、あんたにメロってんのは知ってるわけ。でもさ、それってどうよ? って、オレは思っててさ」
「……刷り込みみたいに大地が思いこんでいるだけで、私を好きだっていうのは、錯覚なんじゃないかって、こと?」

歳の差も外見的要素も、第三者からすれば、確かに私と大地は不釣り合いなのかもしれない。

だけど、私は───。

「……大地がいま、私のことを想ってくれているのは事実だし、私も大地のこと……好き、なの。
人からどう思われようと、大地の方からはっきりと『飽きたから別れたい』って言われるまで、私は大地から離れる気はないわ」
「…………あー……えーと……うん、悪い。
質問したオレが、馬鹿だった。いや、あんたらが、似合いのバカップル?」

言って、神林透が堪えきれないといった様子で笑いだした。
テーブルに片手をバンバンと叩きつける。

「……や、そうくるとは……。いや、でも、そうか……考えたら弟とヤッちゃうようなオネーサンなんだよな、そうだよな……」
「ちょっと!」

近くのテーブルについた数人の目が、こちらに向けられたのを感じ、あわててたしなめる。

悪い、と、口先で謝っただけで全然反省している様子もなく、神林透は口元を覆う。
肩で大きく息をついた。

「……オレがきたかったのは、佐木さんがあいつの行動に迷惑してんじゃないのかって、ことだったんだけど。
だってさ……ウザイだろ、どう考えても。重いっつーか。
一緒に暮らしてるのに、あいつ学校終わったら、ここに……佐木さんの職場にまで、来ててさ。
四六時中、見張られてるような気がして、嫌気がさしてんじゃないのかって、思って。
オレはちゃんと忠告してたんだけど、あいつ、あんたから自分を好きだっていう『免罪符』もらってから、歯止めきかないみたいだし……。
フラれる前にやめとけって、言ってやったんだよ。
普通そんなに束縛されたら、どんだけイイ男だとしても勘弁してくれって、オレが女だったら思うし。けど」

ちらっと、神林透がにやけた表情のまま、私に視線を寄越した。

「佐木さんにとっては、あいつのストーカー行為は、ただの愛情表現にしか、映らないんだ?」
「………………悪い?」

改めて言われると、なんだか自分の感覚が麻痺まひしているようで、私は悔しまぎれに神林透をにらんでみせた。

「いんや? いいんじゃないの? 二人が、それでよければ。
───佐木さんは、あいつとあいつの母親とのこと……知ってるんだろ?」

ふいにもちだされた事実に、驚いて彼を見返した。
初めて、真剣な顔をした神林透と目が合った。

「……ん。あいつが、あんたに隠しごとするわけないしな。
知った上で、あいつのこと受け入れているなら、オレから言えることは、何もないけど。

ただ」

私を見つめる神林透の眼が、挑むように真剣みを増す。

「……あんただけは、裏切らないでやってくれよな? あいつが、どんな状況にあっても。
信じてる人間から裏切られるだなんて、一度経験すれば、十分だろ?」

告げられた声音の強さに、胸が詰まった。
彼の言葉から、大地へ向けられた無償の愛を感じたからだ。

……ああ、そっか。
大地が、大地でいられたのは、この人がいたからなんだ……。

「───ありがとう、トオルくん。大地の側に、いてくれて」

私の言葉に、彼は目を見開いた。
ふいっと目をそらして、テーブルに頬杖をつく。

「……勘違いすんなよ。オレができたのは、あいつの話を聞いてやることくらいだ。
あいつが抱えた複雑な事情を知ったって、何もしてやれなかったんだ。正直、オレが手に負える問題じゃねぇなって、思ったし。
結局あいつは、あいつ自身で自分を支えてた。
……救いがあったとすれば、あんたを想う気持ちだけだったんだ。
だからさ」

そこで大きく息をついて、トオルくんは、私をじっと見据えた。

「あいつが、誰よりもあんたを好きだって気持ちだけは、疑わないでやってくれよ。歳の差があり過ぎて、あんたが不安になる気持ちも解んないでもないけどさ。
それだけは、何があっても、信じてやって」
「───……解った」

語られる言葉のひとつひとつが不思議なほどに私の心に響いた。

大地から寄せられる想いを、こんなふうに誰かの口を通して聞かされて……こそばゆさよりも、安心感が募っていくのが分かった。

───だからこそ私は、微笑み返さずには、いられなかった。

「ね、トオルくん。
トオルくんは何もできなかったって言ってたけど……やっぱり大地にとっては、トオルくんがいてくれたこと───たとえ話を聞いてくれるだけだったとしても……ううん、話を聞いてくれたからこそ、救われていたんだと思う。
大地にとってトオルくんは、とても大切な人、なんだよね?」

トオルくんは、私の言葉に、嫌な顔をしてみせた───ちょうど、大地が私の隣に彼を見つけた時のように。

「……なんで女って、話をキレイにまとめたがるかなぁ……。
ま、あんたの次に、ってことにしておくか」

言ってトオルくんが肩をすくめた時、三人前のたこ焼きを右手に、三人分の飲み物を左手に持ち、大地がテーブルに戻って来た。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~

taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。 お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥ えっちめシーンの話には♥マークを付けています。 ミックスド★バスの第5弾です。

【R18完結】エリートビジネスマンの裏の顔

白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます​─​──​。 私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。 同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが…… この生活に果たして救いはあるのか。 ※サムネにAI生成画像を使用しています

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

イケメンエリート軍団の籠の中

便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC” 謎多き噂の飛び交う外資系一流企業 日本内外のイケメンエリートが 集まる男のみの会社 唯一の女子、受付兼秘書係が定年退職となり 女子社員募集要項がネットを賑わした 1名の採用に300人以上が殺到する 松村舞衣(24歳) 友達につき合って応募しただけなのに 何故かその超難関を突破する 凪さん、映司さん、謙人さん、 トオルさん、ジャスティン イケメンでエリートで華麗なる超一流の人々 でも、なんか、なんだか、息苦しい~~ イケメンエリート軍団の鳥かごの中に 私、飼われてしまったみたい… 「俺がお前に極上の恋愛を教えてやる 他の奴とか? そんなの無視すればいいんだよ」

極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました

白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。 あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。 そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。 翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。 しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。 ********** ●早瀬 果歩(はやせ かほ) 25歳、OL 元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。 ●逢見 翔(おうみ しょう) 28歳、パイロット 世界を飛び回るエリートパイロット。 ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。 翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……? ●航(わたる) 1歳半 果歩と翔の息子。飛行機が好き。 ※表記年齢は初登場です ********** webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です! 完結しました!

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

ミックスド★バス~混浴フレンドは恋人になれる?

taki
恋愛
【R18】入浴剤開発者の温子と、営業部の水川は、混浴をする裸の付き合いから、男女のお付き合いに発展できる!? えっちめシーンは❤︎マークです。 ミックスド★バスシリーズ第二弾です。

処理中です...