【完結】ハーフ☆ブラザー 突然出てきた弟に溺愛を通り越してストーカーされてます!

一茅苑呼

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後日談『それから……』

大地くん。君は、何を考えているのかね?

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佐木家の食卓で、三人がそろって夕食をるなんて、滅多にあることではなかった。
にもかかわらず、食事中、父さんは無言だった。

私がれた食後のお茶をひと口すすったあと、父さんは話を切りだした。

「───確かに、未婚の男女が同じ家で暮らしていて、何も起きない方が不思議だろうな。しかし……」

難しい顔のまま、大地を一瞥いちべつする。

「大地くん。君は、何を考えているんだね?」
「ちょっ……父さん!?」

てっきり、未成年で高校生の大地に《手を出した》私を、責めるのかと思っていたのに。

手にしていた汚れた食器を、流し台に投げるように置いた。
テーブルに戻って、父さんに反論する。

「大地は悪くないわよ!? 責めるなら、私の方にして」
「朝、僕が言ったことは、僕の本心です。
今思うと、少し軽い言い方で、お父さんがご心配なさるのも、無理はないかと思いますが」

私の言葉に覆いかぶせるように、強い口調で大地が言う。

「僕は、本当に……まいさんが好きなんです。
言葉では言い足りないくらい、大事な人で、大切に想っています。
その気持ちは、生涯変わることはないって、今ここで誓えます。
ただ僕は学生ですし、将来に関して何の保証もないので、すぐに信じてもらうのは難しいのかもしれませんが」
「そこだよ、大地くん」

いきなり大地が「好き」だの「大切」だのと、父さんを前に睦言のような恥ずかしい言葉を口にしだしたので、隣で聞いていた私は、意識を別次元に飛ばしていた。

けれども父さんには、大地の《ハズカシ発言》は、まるで聞こえなかったのか指を上げて大地の言葉をさえぎった。

「君には、輝かしい将来が待っているはずだ。
学業成績も良く、スポーツも得意だと、担任の先生から聞いている。容姿にしたって、そこら辺の芸能人より、よほど恵まれているだろう。
そんな君が、なぜ、舞美を?
とても周りが見えているとは……正気とは、思えないんだが」

───はい?

私は耳を疑った。
父さん、それって、つまり……。

「君なら、他にもふさわしい子が……歳相応の、若くてきれいな子と、付き合えるはずだろう?
何も好き好んで、三十路過ぎのガサツな……あ、いやゴホン───ひと回りも違う舞美なんかを、相手にしなくても、いいんじゃないのか?」

ちょっと!
いくら事実でも自分の娘捕まえて、そんな言いぐさヒドイんじゃない?

ムッとして、思わず口をはさみかけた。
そんな私の前で大地は、あぁ、そっか、と、つぶやくと、にっこり父さんに向かって笑ってみせる。

「お父さんは、僕の心変わりを気に病まれているんですね?
良かった……それなら、問題ないです。僕の気持ちは、一生変わらないですし。
僕の心には、まいさん以外の女性が入る隙なんて、ないですから」
「……随分きっぱりと、言いきったものだね?」
「えぇ、事実ですから」

笑顔をくずさない大地を見て、父さんは不愉快そうに、口を真一文字に結んだ。
……まぁ、大地が意識して言ったかは分からないけど、今のは父さんにしたら、ちょっとした嫌味に聞こえたのかもね。

気難しい顔で、父さんが息をついた。ふたたび、大地を見据える。

「男に二言はないな、大地くん?」
「ありません」

瞬間、父さんの手が伸びて、大地の両手首をガッチリとつかんだ。
勢い余ってテーブルにぶつかったらしく、鈍い音がした。

「大地くん……君は……君は、若いのに、なんて見る目のある、いい男なんだ……!」

ぶつけた痛みなのか、父さんの目には、涙が浮かんでいる。
私は、あっけにとられて父さんを見た。

「舞美、祝杯だ。ビール持ってきなさい。大地くんの分も」
「大地は、未成年だってば」
「いいから、早く!」
「もう……!」

仕方なく、グラスとビールを用意する。もちろん大地には、ウーロン茶だけれども。

父さんは、大地にグラスを持たせると、感極まったように、乾杯っ、と言って、一気にグラスをあおった。

空になったグラスを差し出され、ビールを注いでやる。
父さんは、そんな私を哀れむように見ながら、語り始めた。

「───舞美はね、親の私が言うのもなんだが、決してよそのお嬢さんに見劣りするような娘ではないんだよ。
母親に似て、可愛いらしい顔立ちをしているし、接客をしているせいか、
『笑顔が素敵なお嬢さんですね』
と、同僚にもご近所さんにも、評判が良いんだ。
縁談話も何度あったか、分からないくらいだよ」
「───えぇ、そうでしょうね」

父さんの迫力に、最初は驚いていた大地だったけど、そこで納得したように相づちをうった。
大地の反応に気をよくしたのか、父さんの力説は続く。

「母親が亡くなってから家事一切を取り仕切っていたせいか、家事全般得意だし、料理の腕だって大したものだ。
君も、それは実感しているだろう?」
「えぇ、本当に」

大地が大きくうなずく。

私はだんだんアホらしくなってきた。
……なんなの、いったい。

まさかの父さんの娘自慢に、あらゆる意味で恥ずかしくなってきた。
……お風呂入ってこよう……。

「そんな舞美が、なぜ、この歳まで独り身でいるのか……君は、不思議に思わなかったか?」
「それは本当に……不思議というより、僕にとっては奇跡に近い幸運だったんですけど」
「大地くん……君は、本当に、いい奴なんだなぁ。
君なら、もう気づいているだろうが───舞美はね、ギャップがあり過ぎるんだよ。

適度に距離があるうちは、愛想よく控えめに振る舞うんだが……。
親しくなるにつれて、顔に似合わない乱暴な言葉遣いをしたり、歯に衣着せぬ毒を吐かれたりして、みんな、だまされたと思うらしいんだ」
「だまされた……ですか?」

理解できないといったように首を傾ける大地に、私はこっそりささやいた。

「……いちいち相手にすることないわよ。適当に切りあげていいからね。私、お風呂に入ってくるから」

大地はちょっと笑って、小さくうなずき返してみせた。



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