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第五章 絆をつなぐ碧色のマフラー
望むもの全部、あげる【1】
しおりを挟むいつものように、仕事場と同じ敷地内のファミレスで食事して。
いつものように、従業員駐車場へと、大地と二人、歩いて行く。
「……ねぇ、まいさん。たまには少し、歩かない?」
自転車道路から駐車場へは、三段ある石の階段を降りて行くようになっていた。
大地の指は、駐車場には向かわずに、まっすぐに続く、自転車道路を指していた。
「歩くの?」
眉をひそめる。
自転車道路は、右手にある駐車場が切れると、両脇を竹林と河川に挟まれていた。
等間隔にある街灯以外は何もない、薄暗い夜道だった。
絶対に一人では、必要もないのに歩きたくなんかならないところだ。
「散歩だよ。僕と一緒でも、ちょっと怖い?」
私の心中を見透かしたように、大地はいたずらっぽく笑った。悔しまぎれに言い返す。
「ある意味、あんたと一緒ってのが怖いけど……まぁいいわよ、付き合うわ」
「やった! 手、つないでもいい?」
「……もうつないでるじゃん」
私の返事を待たず、言葉と同時にさらわれた片手に、ムッと大地を見上げる。
「そんな不機嫌にならないで。可愛い顔が、台無しだよ?」
大地に手を引かれ、よろめくように自転車道路を歩き始めた。
ふふっと、楽しそうに大地が笑う。
「僕、誰かと手をつないで歩くなんて、初めてだ」
お母さんとは、つながなかったの? と、言いかけて、やめる。
……つながなかったから《初めて》なんだ。
せせらぎの音と、鈴虫の鳴き声。
重なるように、遠くで車が行き交う音がする。
欠け始めた月が、頭上から私たちを照らしていた。
少し肌寒さを感じる夜気のなか、つないだ手のぬくもりだけが、やけに心地よくて……だからよけいに、なんだか気恥ずかしい。
いつもは、不必要なほど他愛もないことを話す大地も、黙ったままで。
互いの体温だけ共有して、私たちは何も語らず、歩いていた。
二百メートルほど行った時、ふいに大地が足を止めた。
するりと私から手を離し、小脇に抱えた封筒から、A4サイズの小冊子を取り出す。
「はい。まいさんも、その目で確かめて?」
大地から手渡され「鑑定書」と表紙に書かれた小冊子を、無造作にめくった。
「───大地」
ざざっ……と。冷えた夜風が竹林を揺らして、駆け抜けていく。頬に髪が、まとわりついた。
「……もう、お姉さんって、呼べなくなっちゃったね」
およそ大地に似つかわしくない、感情のない声が、その内容を端的に表した。
『───当病院においての鑑定結果は以下の通り。鑑定申し立て人・「佐木恭一(敬称略)」と「進藤大地(同)」
両人は、“生物学的親子”では
ない と 結論する。
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