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第四章 過去が溶け出すアイスティー
この想いと、情熱の行く手【2】
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受話器の向こう側で、父さんが苦笑いしたのが分かった。
「お前のそういうところ、ホント、つくづく母さんに似たんだなぁ……」
聡子伯母さんに啖呵切っちゃったから、父さんも承知しといてね、と、外出先の父さんへ電話したのだった。
父さんのしみじみとした物言いに、眉を寄せる。
「伯母さんに文句言われたからって、いまさら大地をどうこうするつもりはないでしょう!? 私、間違ったことしたなんて、思ってないからね!」
「解ってるよ。……ありがとう、舞美」
優しく穏やかな感謝。なんだか急に、背中がムズ痒くなって、ぶっきらぼうに言った。
「じゃ、帰りの運転、気をつけてね。あ、変なお土産ならいらないからね!」
「分かった分かった。……ところで、大地くんは、どうしてる?」
「いま、お風呂に入ってるところ」
「そうか……。まぁ、彼とは、帰ってからゆっくり話そう」
「うん。そうしてあげて。じゃあね」
電話を切って、息をつく。
今日の出来事は、大地もショックが大きかったのだろう。
伯母さんが帰ったあと、いつも通りをよそおっていたけど……時折、沈んだ顔をしていた。
私に気づかれたと分かると、わざとおどけたりして。その姿が、よけいに痛々しかった。
ふわり、と、ボディシャンプーの香りが、鼻腔をくすぐった。
ソファーに腰をかけていた私に、大地が後ろから腕をまわし、寄りかかってきた。深い溜息と共に言う。
「……僕たちのことが伯母さんにバレたら、僕、伯母さんに殺されちゃうかなぁ……?」
「───その前に伯母さんショック死するだろうから、無駄な心配、しなくていいわよ」
「あはは……まいさん、ホント、毒を吐く人だね」
私をあお向かせ、大地は私の唇に指を這わせた。愛おしむように、指先が唇をなぞっていく。
「……こんなに、可愛い唇なのにね……」
「───あんたのお母さんのこと、悪く言って、ごめん」
「え? ……あぁ。ホントのことだから、気にしないで」
いまようやく思いだしたというように、なんでもない素振りで大地は言った。
それでも私は、ソファーから立ち上がり、大地に向き直った。
「真実そうであっても、口にだして良いことと、悪いことはあると思うわ。だから……ごめんなさい」
頭を下げる。大地の手が、私の肩口に置かれた。
「謝らないで。まいさんが僕を、伯母さんから守ってくれたこと、僕、すごく嬉しかったんだよ? ほら、もう顔を上げて?」
「───大地……」
ゆっくりと身を起こして、大地を見た。
ふふっと笑って、大地はソファーを回りこみ、私の側へと寄ってきた。こちらをのぞきこむ。
「ねぇ、まいさん? 僕、あまりにもまいさんのことを好きになりすぎて、おかしくなりそうだよ……」
言った唇が私の唇を奪い、サマーニットの上からブラのホックを外された。
すかさず裾から入りこむ指先を片手で押さえ、もう一方の手でデコピンを見舞ってやる。
「いたッ」
「おバカッ。父さんがもうじき帰って来るのに、何考えてんの、あんたは! あんたの頭んなか、ソレしかないわけ?」
弾かれた額を押さえて、大地は一瞬、真顔になる。それから、押さえられた方の指先でもって、私の指を握り返した。
そのまま自らの唇に引き寄せると、私の指先にキスをする。
「……僕も、自分がこんなに、年中ソレしかない人間だとは、思わなかったよ。きっと……まいさんが、いけないんだ」
頬を傾け、ふたたび唇を、私の唇に割りこませてきた。私の髪に手を入れて、深く強く、私を求めてくる。
「……まいさんが……僕の理性を狂わせるから……」
透明なはずの声音が、熱にうなされたように、かすれる。
相変わらずの艶っぽいささやきに、心も身体も感じてしまう。
……こいつは、いつもそうだ。
私のなかの、常識や倫理や節度といった固定観念を、容易にくつがえしていく。
そんなものは、胸に宿った熱情や、肉体を翻弄する情欲の前では、無意味で愚かでしかないのだと、身をもって体現するように。
「……ばか。もうっ……、そのうち私に飽きるわよ……? その時に、あんた……どう責任とってくれるのよ……」
本気で本気の問いだった。
私は自分に、それほど魅力があるだなんて、思っていない。
なぜ大地が、こんなにも私に夢中なのか、不思議で仕方なかった。
ソファーの上に押し倒されて、答えを求め、じっと大地を見上げる。
優しく目を細めた大地が、苦笑した。
「解ってないなぁ……」
言った大地の唇が、うなじを伝っていく。
「……まいさんは僕にとって、特別な人、なんだよ? 飽きるわけ、ないよ……」
やわらかな声音が息遣いと共に、肌を通して染み入るように響いた。
「そんなのっ……解んないわよっ……!」
悔しまぎれにつぶやくと、大地が忍び笑いを漏らした。
「何度でも、解ってくれるまで……それこそ、まいさんが飽きるまで、僕は繰り返すよ。
この想いと、情熱の行く手には、あなたしか、いないんだって……」
身体に刻みつけられていく、大地の唇の軌跡。感覚器官のすべてが、悦びを訴える。
「……本当に……飽きちゃわないでね……?」
口をついてでた本音。
大地は、一瞬、目を見開いたものの、すぐに幸せそうに微笑んだ。
私の願いに応えるように、その指先で唇で、感情を描いていく───。
受話器の向こう側で、父さんが苦笑いしたのが分かった。
「お前のそういうところ、ホント、つくづく母さんに似たんだなぁ……」
聡子伯母さんに啖呵切っちゃったから、父さんも承知しといてね、と、外出先の父さんへ電話したのだった。
父さんのしみじみとした物言いに、眉を寄せる。
「伯母さんに文句言われたからって、いまさら大地をどうこうするつもりはないでしょう!? 私、間違ったことしたなんて、思ってないからね!」
「解ってるよ。……ありがとう、舞美」
優しく穏やかな感謝。なんだか急に、背中がムズ痒くなって、ぶっきらぼうに言った。
「じゃ、帰りの運転、気をつけてね。あ、変なお土産ならいらないからね!」
「分かった分かった。……ところで、大地くんは、どうしてる?」
「いま、お風呂に入ってるところ」
「そうか……。まぁ、彼とは、帰ってからゆっくり話そう」
「うん。そうしてあげて。じゃあね」
電話を切って、息をつく。
今日の出来事は、大地もショックが大きかったのだろう。
伯母さんが帰ったあと、いつも通りをよそおっていたけど……時折、沈んだ顔をしていた。
私に気づかれたと分かると、わざとおどけたりして。その姿が、よけいに痛々しかった。
ふわり、と、ボディシャンプーの香りが、鼻腔をくすぐった。
ソファーに腰をかけていた私に、大地が後ろから腕をまわし、寄りかかってきた。深い溜息と共に言う。
「……僕たちのことが伯母さんにバレたら、僕、伯母さんに殺されちゃうかなぁ……?」
「───その前に伯母さんショック死するだろうから、無駄な心配、しなくていいわよ」
「あはは……まいさん、ホント、毒を吐く人だね」
私をあお向かせ、大地は私の唇に指を這わせた。愛おしむように、指先が唇をなぞっていく。
「……こんなに、可愛い唇なのにね……」
「───あんたのお母さんのこと、悪く言って、ごめん」
「え? ……あぁ。ホントのことだから、気にしないで」
いまようやく思いだしたというように、なんでもない素振りで大地は言った。
それでも私は、ソファーから立ち上がり、大地に向き直った。
「真実そうであっても、口にだして良いことと、悪いことはあると思うわ。だから……ごめんなさい」
頭を下げる。大地の手が、私の肩口に置かれた。
「謝らないで。まいさんが僕を、伯母さんから守ってくれたこと、僕、すごく嬉しかったんだよ? ほら、もう顔を上げて?」
「───大地……」
ゆっくりと身を起こして、大地を見た。
ふふっと笑って、大地はソファーを回りこみ、私の側へと寄ってきた。こちらをのぞきこむ。
「ねぇ、まいさん? 僕、あまりにもまいさんのことを好きになりすぎて、おかしくなりそうだよ……」
言った唇が私の唇を奪い、サマーニットの上からブラのホックを外された。
すかさず裾から入りこむ指先を片手で押さえ、もう一方の手でデコピンを見舞ってやる。
「いたッ」
「おバカッ。父さんがもうじき帰って来るのに、何考えてんの、あんたは! あんたの頭んなか、ソレしかないわけ?」
弾かれた額を押さえて、大地は一瞬、真顔になる。それから、押さえられた方の指先でもって、私の指を握り返した。
そのまま自らの唇に引き寄せると、私の指先にキスをする。
「……僕も、自分がこんなに、年中ソレしかない人間だとは、思わなかったよ。きっと……まいさんが、いけないんだ」
頬を傾け、ふたたび唇を、私の唇に割りこませてきた。私の髪に手を入れて、深く強く、私を求めてくる。
「……まいさんが……僕の理性を狂わせるから……」
透明なはずの声音が、熱にうなされたように、かすれる。
相変わらずの艶っぽいささやきに、心も身体も感じてしまう。
……こいつは、いつもそうだ。
私のなかの、常識や倫理や節度といった固定観念を、容易にくつがえしていく。
そんなものは、胸に宿った熱情や、肉体を翻弄する情欲の前では、無意味で愚かでしかないのだと、身をもって体現するように。
「……ばか。もうっ……、そのうち私に飽きるわよ……? その時に、あんた……どう責任とってくれるのよ……」
本気で本気の問いだった。
私は自分に、それほど魅力があるだなんて、思っていない。
なぜ大地が、こんなにも私に夢中なのか、不思議で仕方なかった。
ソファーの上に押し倒されて、答えを求め、じっと大地を見上げる。
優しく目を細めた大地が、苦笑した。
「解ってないなぁ……」
言った大地の唇が、うなじを伝っていく。
「……まいさんは僕にとって、特別な人、なんだよ? 飽きるわけ、ないよ……」
やわらかな声音が息遣いと共に、肌を通して染み入るように響いた。
「そんなのっ……解んないわよっ……!」
悔しまぎれにつぶやくと、大地が忍び笑いを漏らした。
「何度でも、解ってくれるまで……それこそ、まいさんが飽きるまで、僕は繰り返すよ。
この想いと、情熱の行く手には、あなたしか、いないんだって……」
身体に刻みつけられていく、大地の唇の軌跡。感覚器官のすべてが、悦びを訴える。
「……本当に……飽きちゃわないでね……?」
口をついてでた本音。
大地は、一瞬、目を見開いたものの、すぐに幸せそうに微笑んだ。
私の願いに応えるように、その指先で唇で、感情を描いていく───。
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