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第二章 ひとりぼっちのシュークリーム
ぜいたくな溜息【2】
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ゆっくりと目を開けて、大地を自らの瞳に映して、微笑んだ。
「私も……大地が好き」
「まい、さん……?」
びっくりしたように、大地が見返してくる。私はそんな大地の背に腕を回し、ぎゅっとしがみついてみせた。
なんで驚くの?
私が、好きでもない奴と、寝るとでも思ってるの?
思い浮かんだ意地悪な言葉は、大地に届いたのだろうか。心の声を、口にだしたのかどうかは分からない。
ただ私は、抱えた心を伝えるように身体を寄せて、そうして、大地を身の内に受け入れていたから。
「……ねぇ、もう一回……言ってよ」
「何よ、もう……!」
突き上げられる情熱の塊に身体を震わせて、快感に身もだえながら、大地の耳にささやく。
「好き……もっと、して……」
「───ごめん。聞かなきゃ、良かった……っ……イカせる前に、イキそう……」
艶っぽいあえぎ声が、渇いた笑いを漏らす。言うわりに、余裕そうな表情が、小憎らしい。
「……じゃあ、もう二度と……言わな───」
「……冗談だから。つれないこと……言わないで、ね?」
皆まで言わせずに私の唇をふさいで、大地は片目をつむる。私は大地の片頬をつねって、それで許してやることにした。
*****
コンドームをティッシュにくるんで、くず箱に捨てる。
横目で大地の動きを追っていた私は、早めにポリバケツに中身をあけ替えなきゃと思った。
……何かの弾みで父さんに見つかったら、シャレになんないし。
リビングのソファーを背にして、大地と二人、互いの身体を支え合うようにして寄り添っていた。
どちらともなく伸ばされた指先が、絡み合う。大地の体温は心地よく、離れがたかった。
振りきるように、口を開く。
「……のど、渇かない? 飲み物とってくるから」
「んー……まいさんが口移しでくれるなら、僕の分は、いいよ」
立ち上がっても、大地はなごり惜しそうに、私の手をつかんだままで。ゆっくりと指をほどいて、ようやく手を離してくれた。
二人分の飲み物を持ってきて、ふたたび腰を下ろす。
「はい」
「……けち」
「何がよ、バカ」
二人で一本ならともかく、一人一本のどこがケチか、と、内心どつく。
大地は差し出したペットボトルを受け取らずに、私の手首を握った。引き寄せられて、大地の腕に包まれる。
深く息を吸いこんで、吐きだす。その息遣いに、大地を振りあおいだ。
「どうしたの?」
私の疑問に、いつものように大地は、ふふっと笑って答えた。
「贅沢な溜息、だよ───こんな風に」
私の身体を抱きしめて、もう一度、深呼吸する。
「好きな人を自分の腕のなかに抱いて、その匂いを記憶しているんだ」
「記憶、ねぇ……?」
「───明日……もう今日か。お父さんが帰ってきたら、当分は、こうやって二人で過ごすのも、難しそうだしね。一人寝も、寂しくないように」
「そっか」
複雑な思いで、うなずく。
大地じゃないけど、父さん、また出張に行ってくれないかな、と、考えてしまった。
我ながら、あらゆる意味で親不孝だな……。
「あ、でも、前に言ったことは、有効だから。気にしないで、呼んで?」
「前に……何?」
「アイスキャンディ」
意味ありげにウィンクされて、全身が朱に染まる思いがした。
もう、ヤダ……早く忘れて欲しいのに……!!
「それ、ホント見なかったことにしてよ……。恥ずかしくて、死にそうになるから……」
「なんで? 男でも女でも、相手がいなくてエッチな気分になったら、自分でするんじゃないの?
……まぁ確かに、アレ見て全然驚かなかったって言ったら、嘘になるけど……」
「でしょう!?
一般的に女って、性欲なんてあんまり無いって思われてるじゃんか。アダルトビデオじゃあるまいし、みたいな?
私の周りだって、そういうコトしてる人の話、聞かないし。みんな、そういう欲求とは無縁そうな感じでさー。
だから、自分だけ、なんでこうなの? って、我に返ると恥ずかしくなるっていうか……。
それでも最近は割り切ってはいたけど、でも、やっぱりちょっとね……」
「あの……まいさん?
男と違って、女の人は、口にしないだけだと思うよ? それこそ、恥ずかしいって気持ちがあるからだと思うけど」
「そうなのかなー? そうだといいけど……」
納得いかないでいる私の額にかかった髪を、大地の指がかきあげた。
「……まいさんって、ホント可愛いね。僕よりずっと年上なのに、すれてないっていうか……時々、びっくりするよ」
「あんた、何言ってんの? これでも私、十年以上世間で揉まれて、自分でもヤんなるくらい汚れてるんだからね!
そうでなきゃ、接客なんて、やってられないんだから」
「うん。解ってるよ。
……僕が言ってるのは、そういう部分じゃないんだけどね。まぁ、でも……それはおいといて。
僕にとってラッキーだったのは、まいさんが今、誰とも付き合ってなかったってコトかな? おかげで、隙をつけたし」
大地の言葉に、大きな溜息をついた。
「今思うと、スキだらけだった気がするけど……」
「あはは。……ホント、ラッキー」
心底嬉しそうに言って、大地が私を抱き寄せた。ぬくもりが、たまらなく心地いい。
私も大地に倣い、好きな人の匂いを、記憶する───。
「私も……大地が好き」
「まい、さん……?」
びっくりしたように、大地が見返してくる。私はそんな大地の背に腕を回し、ぎゅっとしがみついてみせた。
なんで驚くの?
私が、好きでもない奴と、寝るとでも思ってるの?
思い浮かんだ意地悪な言葉は、大地に届いたのだろうか。心の声を、口にだしたのかどうかは分からない。
ただ私は、抱えた心を伝えるように身体を寄せて、そうして、大地を身の内に受け入れていたから。
「……ねぇ、もう一回……言ってよ」
「何よ、もう……!」
突き上げられる情熱の塊に身体を震わせて、快感に身もだえながら、大地の耳にささやく。
「好き……もっと、して……」
「───ごめん。聞かなきゃ、良かった……っ……イカせる前に、イキそう……」
艶っぽいあえぎ声が、渇いた笑いを漏らす。言うわりに、余裕そうな表情が、小憎らしい。
「……じゃあ、もう二度と……言わな───」
「……冗談だから。つれないこと……言わないで、ね?」
皆まで言わせずに私の唇をふさいで、大地は片目をつむる。私は大地の片頬をつねって、それで許してやることにした。
*****
コンドームをティッシュにくるんで、くず箱に捨てる。
横目で大地の動きを追っていた私は、早めにポリバケツに中身をあけ替えなきゃと思った。
……何かの弾みで父さんに見つかったら、シャレになんないし。
リビングのソファーを背にして、大地と二人、互いの身体を支え合うようにして寄り添っていた。
どちらともなく伸ばされた指先が、絡み合う。大地の体温は心地よく、離れがたかった。
振りきるように、口を開く。
「……のど、渇かない? 飲み物とってくるから」
「んー……まいさんが口移しでくれるなら、僕の分は、いいよ」
立ち上がっても、大地はなごり惜しそうに、私の手をつかんだままで。ゆっくりと指をほどいて、ようやく手を離してくれた。
二人分の飲み物を持ってきて、ふたたび腰を下ろす。
「はい」
「……けち」
「何がよ、バカ」
二人で一本ならともかく、一人一本のどこがケチか、と、内心どつく。
大地は差し出したペットボトルを受け取らずに、私の手首を握った。引き寄せられて、大地の腕に包まれる。
深く息を吸いこんで、吐きだす。その息遣いに、大地を振りあおいだ。
「どうしたの?」
私の疑問に、いつものように大地は、ふふっと笑って答えた。
「贅沢な溜息、だよ───こんな風に」
私の身体を抱きしめて、もう一度、深呼吸する。
「好きな人を自分の腕のなかに抱いて、その匂いを記憶しているんだ」
「記憶、ねぇ……?」
「───明日……もう今日か。お父さんが帰ってきたら、当分は、こうやって二人で過ごすのも、難しそうだしね。一人寝も、寂しくないように」
「そっか」
複雑な思いで、うなずく。
大地じゃないけど、父さん、また出張に行ってくれないかな、と、考えてしまった。
我ながら、あらゆる意味で親不孝だな……。
「あ、でも、前に言ったことは、有効だから。気にしないで、呼んで?」
「前に……何?」
「アイスキャンディ」
意味ありげにウィンクされて、全身が朱に染まる思いがした。
もう、ヤダ……早く忘れて欲しいのに……!!
「それ、ホント見なかったことにしてよ……。恥ずかしくて、死にそうになるから……」
「なんで? 男でも女でも、相手がいなくてエッチな気分になったら、自分でするんじゃないの?
……まぁ確かに、アレ見て全然驚かなかったって言ったら、嘘になるけど……」
「でしょう!?
一般的に女って、性欲なんてあんまり無いって思われてるじゃんか。アダルトビデオじゃあるまいし、みたいな?
私の周りだって、そういうコトしてる人の話、聞かないし。みんな、そういう欲求とは無縁そうな感じでさー。
だから、自分だけ、なんでこうなの? って、我に返ると恥ずかしくなるっていうか……。
それでも最近は割り切ってはいたけど、でも、やっぱりちょっとね……」
「あの……まいさん?
男と違って、女の人は、口にしないだけだと思うよ? それこそ、恥ずかしいって気持ちがあるからだと思うけど」
「そうなのかなー? そうだといいけど……」
納得いかないでいる私の額にかかった髪を、大地の指がかきあげた。
「……まいさんって、ホント可愛いね。僕よりずっと年上なのに、すれてないっていうか……時々、びっくりするよ」
「あんた、何言ってんの? これでも私、十年以上世間で揉まれて、自分でもヤんなるくらい汚れてるんだからね!
そうでなきゃ、接客なんて、やってられないんだから」
「うん。解ってるよ。
……僕が言ってるのは、そういう部分じゃないんだけどね。まぁ、でも……それはおいといて。
僕にとってラッキーだったのは、まいさんが今、誰とも付き合ってなかったってコトかな? おかげで、隙をつけたし」
大地の言葉に、大きな溜息をついた。
「今思うと、スキだらけだった気がするけど……」
「あはは。……ホント、ラッキー」
心底嬉しそうに言って、大地が私を抱き寄せた。ぬくもりが、たまらなく心地いい。
私も大地に倣い、好きな人の匂いを、記憶する───。
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