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第一章 生暖かいアイスキャンディー

ストーカーか、こいつ【3】

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映画館を出ると、23時を軽く過ぎていた。
私の車が置いてある従業員の駐車場は、映画館の位置からだと歩いて2、3分の距離にあった。

「───こんな所、通るの?
物騒じゃない? 女性が一人で歩くには」

大地が眉を寄せたのは、片側二車線の国道の下を通るトンネル内に入った時だった。
トンネルなので、電灯がついていても薄暗いし、当然ながら見通しも悪い。

トンネルを抜けたところに暴漢がひそんでいたら……なんてことも、あり得なくない。

「まぁ、確かにちょっと怖いけど、慣れちゃったっていうか。……別に今は、普通に通ってるけど?」

改めて言われると、否定のしようがない。
従業員の噂話のなかで、露出狂に遭遇した、という話を何度か聞いたことがあるし。

実際、私も何度か怖い思いをしていた。
結果的には何事もなくて、気の回しすぎだったんだけど。

「僕、まいさんの仕事が終わる頃、迎えに来ようか? 通学用のバスの定期があるから、不経済にもならないし」
「は? いいって。何言ってんの、あんた」
「だって、心配だよ。何かあったらと思うと。……うん、明日からそうするね」

あきれる私を完全に無視して、大地は一人で納得したように、うなずいた。

「他の従業員も通ってるし……十年以上平気だったんだから、大丈夫よ」

トンネルを抜け、緩い坂道を上がると、自転車道路にぶつかる。
少し行くと、右手側に従業員駐車場───第8駐車場と呼ばれる従業員専用の駐車場があった。

白線で区切られナンバーがふられたそこは有料で、うちの店なんかはオーナーが負担してくれてるけど、個人に借りさせているテナントもあるようだ。

「何を根拠に『大丈夫』なのか、僕にはさっぱり解らないよ。
僕が知らないだけで、実はまいさん、空手とか合気道の達人だったりするの?」

広い駐車場に残されていたのは、セダンとワゴン、それからコンパクトカーの3台だけだった。

電灯を浴びて光っているラベンダー色のコンパクトカーが、二年前に買い替えた、私の愛車だ。

通勤以外はほぼ乗ることもないので、小回りが利くのと、全体的に丸いフォルムが気に入って、新車で買ったものだった。

「……そんなわけ、ないじゃん」
「だよね。
じゃ、僕、明日から迎えに来るから。必要ないって言われても、来るからね?」

横から私をのぞきこんで、大地は楽しそうに笑う。
……ストーカーか、こいつ。

突っ込みながらも、どうせそのうち飽きるだろうという思いから、私はそれ以上、大地の申し出を拒まなかった。



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