不思議な帽子

いわみね夜風

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不思議な帽子

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 王様の住んでいる国からずっとずっと南に、羊人と兎人が住んでいる街がありました。

 街の西側には小さな林があって、東側には畑、その先に草原があるだけの、のどかで小さな街には、住民の家と、噴水、道具屋、小さな服屋と、飲食店、食べ物を売ってくれるお店くらいしかありませんでしたが、皆仲良く暮らしていました。

 中でも特に仲良しなのが兎人の女の子まりぃと、羊人の女の子ミサの2人です。

 今日は2人で草原にピクニックにでかける約束をして、街の東門前で待ち合わせです。
「お待たせー」まりぃがそう言うとミサが「今ついたところだよ」と笑顔で返します。

 2人は各々背中にお弁当の入ったリュック、手には水筒を持って草原に向かって歩き始めました。

 すると、途中の道の脇に、石に腰掛けている不思議な形の帽子をかぶった羊人のおばあさんがいるのが見えてきました。

 おばあさんは2人に気がつくと「おや、3人目」と呟きました。2人は「こんにちは」と挨拶して「3人目ってなんのことですか?」と聞いてみましたが、おばあさんには聞こえなかったのか穏やかな表情で2人を見返しただけで、立ち上がってどこかへ行ってしまいました。

 またしばらく歩くと、不思議な形の帽子をかぶった兎人のおじいさんが立っていました。
 おじいさんは2人に気がつくと「4人目」と言いました。

 ミサとまりぃは何のことか聞こうとしましたが、おじいさんはそのまま街のほうへ向かって歩いて行ってしまいました。

 その姿を見送りながら、まりぃが言いました「何が3人目で4人目なんだろうね」
 ミサが「そうだね。わたしたちは2人だから、おじいさんとおばあさんを合わせると4人ってことかなー」と言いました。

 まりぃがミサの言葉を聞いて少し納得したような顔をしましたが、言った本人のミサが納得していない顔で首を傾げました。

 またしばらく歩いて草原までたどり着くと2人は早速、地面にシートを敷いて、背中からリュックをおろし、中からお弁当を取り出して食事の準備を始めました。

 街から草原までは歩いている時はあまりわからないくらいの緩やかな傾斜があって、街が少しだけ下のほうに位置していて、草原に着くと、草原の緑、花、畑、街の順に見える景色が2人のお気に入りの景観なのでした。

 水筒からコップにお茶を注いでごくごくと飲み干すと、2人が互いに顔を見合わせました。

 お弁当を食べ終えると空のお弁当箱をリュックにしまって草原に横になって2人で機嫌良くコロコロと転がって遊び始めました。来る途中のおばあさんとおじいさんのことがまりぃ達の頭からすっかり消えかけていたとき、ミサが小さく悲鳴をあげました。

「ミサちゃん!?」

 ミサの悲鳴でまりぃが慌てて見ると、ミサの視線の先に、不思議な形の帽子が1つ落ちています。

 ミサが呟きました。「よ、4人目?」

 するとちょうど見計らったように一陣の風がビュウッっと吹きました。

 帽子の持ち主はどこへ行ったのでしょうか。
「びっくりした。きっと誰かの忘れ物だね。後で取りに来るかもしれないね」
「うん」
 まりぃとミサは急に寒くなった気がして、すぐさま2人で帰り支度を始め、手を繋いで急いで街に帰ったのでした。

 その頃、街の喫茶店では、年配の人達に流行中の不思議な形の帽子をかぶってお洒落をしたおじいさんとおばあさんが楽しく談話をしていました。

「今日は可愛らしい二人連れを見かけたよ。」
「久しぶりに草原に行って買ったばかりの帽子を落としてきたみたいじゃあ」
「おや、ゲノさんも今日草原に行ってたのかい?私は途中の道の石に座ってしばらく休んでたんだが、会わなかったから、てっきり3人かと」「朝早くに出掛けて帰りは少しだけ回り道をして帰ったから会わなかったんじゃな。」
「ワシはゲノさんもサラさんも可愛らしいのにも会ったがの」

 おじいさん達が賑やかに今日あった出来事を言い合っています。
 そこへ羊人の中でも少しずんぐりとした若い羊人のウエイターが慣れたようすでトレイに芳ばしい香りの飲み物を乗せて運んできました。

 トレイには飲み物以外に1つだけ小さなケーキが乗っていて、
ウエイターの羊人が給仕するより早く、ゲノと呼ばれたおじいさんがケーキに手を伸ばし、ご機嫌です。

おしまい
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