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第22話 ガレディア王都シナップの初任務
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王都東門地区の『冒険者ギルド』支部を出た私たちは王都の中心に位置する中央の『冒険者ギルド』本部へ向かうため、馬車の乗り場に向かっている。
ガイアスくんとロデリックくんは重装備を街中に合わせて外したままだ。装備はギルド支部から本部へ配送される。
ふたりとも代わりに鞘に収められた剣を身に付けている。
道すがら「『森』と『犬族の遺跡』の調査依頼は取り下げられていた。まあよほどいやがられたんだな」とガイアスくんが笑いながら言った。
今朝、『冒険者ギルド』東門地区支部を発つ前の精算の時に念のため確認して来てくれたのだ。
魔導考古学組合の人たちにとって、過去を知るための貴重な手がかりを状況次第で破壊する冒険者というのは魔物に次ぐとんでもない脅威の一つなのかもしれない。
「依頼が出し直されたらギルド側から知らせてもらえる」
「もうこちらで気にする必要がなくなったということね」
「そういうことだ」
とはいえ、昨日のイシュタルさんやルイジさんの様子から考えると、近いうちにもう一度依頼が出される可能性は高そうに思える。
「確認だが、調査依頼を受ければ、森の異変や犬族の遺跡の魔生物が『何者か』と関連しているかどうか調べる機会にもなる。出し直されたら引き受けるが、それでかまわないか?」
ガイアスくんからの確認に私たち全員が頷いた。
乗り合い馬車の乗り場に着くと、ちょうどいい具合に全員がゆったり座れそうな、風避けと雨避けの屋根付き快速荷馬車の出発時間に間に合った。
速い代わりに少し割高の8人分の料金、白銅貨40枚を支払って乗り込む。割高といっても個人で借りたりすることを考えればこれでもずいぶん格安だ。
他の乗客はいなくて、長時間お客が座れるように工夫された荷台は、古めかしいけれどよく手入れされていて、趣がある。
「『本部』へはどのくらいで到着するのだね?お昼ご飯の時間に着かないのはわかってるのだ」
「この馬車だと今日の昼16刻くらいかな。遅くてなっても時刻魔導具の短針が4と5の間くらいには到着出来ると思うんだ」
シナップくんたちが話している間に私たちを乗せた馬車が走り出した。ガイアスくんとロデリックくんの装備はかなり軽装になっている。
人や物を乗せる馬車や魔導車専用に広くとられた主要な王都幹線道路は、薄茶いろの道に同系色で色分けされた線が引かれ、進行方向と走行可能な乗り物の種類をそれぞれ決めて走行する仕組みになっている。
舗装された道に設けられた乗り継ぎ場を私たちを乗せた馬車が停まらずに通りすぎた。
「魔力が動力源の荷車があるのに、どうして馬車を使っているのだね?」シナップくんが不思議そうにした。
「魔導車か。あれはたしか1000年くらい昔に東の大陸で開発されて、一時この大陸でも今より広まったらしいんだが、ガレディアでは主流にならなかった」
「どうして?」
「さあ。どうしてだろうな」
ガイアスくんが自分の考えを言わないでいると、ロデリックくんが
「魔石燃料や金属を大量に必要とするからだろう。魔導車は便利だが、道の舗装も馬車と同じかそれ以上に必要だ。かける費用と手間隙をどこにかけたいか、かけることが可能かで選択は決まる」と言った。
するとジャックくんが
「確かにメルンは馬車より魔導車の方が多い」
と肯定するように言った。東の大国メルンは魔導車等の魔導機械の開発と輸出を積極的に行っている国の一つだ。
大規模な魔石油田の発見があってから、エネルギー資源を他国へ売売り外貨で稼ぐという方針へ転向してしまい、他の技術開発に遅れが出ているようなのだけど、今なお魔導工業大国の地位を欲しいままにしている。
「メルンの周辺には重い荷車を引けるような動物も少ないうえに育てる環境もないだろう。あの国の場合、民を養っていくため必要でそうなっている」
ロデリックくんの話を聞いていたシナップくんが
「この辺りはあちこち草ばかりなのだ」
するとバッシュくんが
「あれ、ほとんどが牛や馬の好きな草なんだって。今よりずっと大昔は雑草扱いで、みんなして雑草を減らそうと、牛と一所懸命引っこ抜いてたらしいよ!今は牛たちのために、わざと増やして呼び方まで『牧草』に変わってるんだ」
と、可笑しそうにした。
「草を育てる水はどうしてるの。東と西に大きな河はあるけど、山もあって遠いのだ?」
「ガレディア王都には2,000年前から渇れていない湖と地下水があって、井戸を掘らなくても水が涌き出る場所もある」
「それに、わりと定期的に雨が降るんだ。それも植物にとって上質の雨なんだって。この辺りは3,000年前ほとんど雨の降らない砂漠だったみたいだけど、たぶん2,000年くらい前から少しずつ気候が変わってるんだね」
「すごい変わりようなのだよ!」
私たちを乗せた馬車が速度を落としながら一番端の道へ滑らかに移動し始める。
「ところでなのだ。ガイアス君」
「ん?」
「ボクはレストルームを所望したいのだが」
「レスト…?なんだそれ」
「トイレに用があるのだ!」
「そ、そういうことは馬車に乗る前に言うんだ!」
「かたじけないのだ…」
シナップくんが少し恥じらうように言った。
◇
「はー、スッキリしたのだよ」
馬車の乗り継ぎ場に設けられた手洗い場から、シナップくんが布で手をふきながら出てきた。
ちょっと離れた場所ではガイアスくんがロデリックくんから説教をされている。
発端は馬車の中で
「ごめんなさい。シナップちゃんにトイレの確認をしてあげなかったのよ」というエレイナさんにガイアスくんが「今度からはしっかり見てやってくれ」というやり取りがあって、それに対して「ガイアス。普段エレイナにばかり面倒を見させて、お前は何を言っている」とロデリックくんが言い出したことだ。
当のエレイナさんが
「ガイアスはいつも荷物を運んだり、シナップちゃんたちを背負ったり面倒を見てるじゃない!」と言ったが聞かない。
ロデリックくんの台詞だけを聞いていると、行きすぎた封建主義のパートナーを持つ世のお母様がたの革命児のように見えなくもない。
私たちが乗ってきた快速馬車は、牽引する馬たちの交代と荷車の点検のために移動している。
次の出発時間まで私たちは乗客の証明である小さな木製の札を持って乗り場で少し休憩だ。
王都の北や南に用のある人はここで乗り換える。
「ちょうど休憩時間になって助かったのだー」
「こっそり塔に戻ってすませたりは出来ないの?」
「帰りの目標が動き回ってると失敗するかも知れないから嫌なのだ。キミたちも止めといた方がいいのだよ」
「失敗することがあるの?!」
「『攻略の証』を使ってなら失敗しても死んじゃったりはしないけど、痛い目には合うかもしれないのだ」
シナップくんがなんだか怖いことを言いだした。
ジャックくんと私は乗り場に設けられたお店で買った飲み物を持って、備え付けられた木の椅子に腰掛けた。
お昼にはまだ早い。
それからも数度の休憩を挟みながら、馬車で進むと途中の休憩場で御者のヒトから私たちに声がかけられた。
「次の乗り継ぎ場では馬車ごと交代しますんで、荷物など忘れ物の無いようにお願いします」
◇
ほどなくして、次の乗り継ぎ場に到着した私たちは、馬車の中で食べることの出来る、持ち帰り用の携帯食『お弁当』を購入するために、乗り場近くに併設された売場のある建物までやって来た。
規模の大きな乗り継ぎ場には、ほかにも立派そうな建物と待機中の馬車がたくさん置かれていて、近くには宿の看板も出ていた。
お弁当の売場に到着すると、バッシュくんとノアくんとシナップくん3人にガイアスくんが
「どれでも好きなのを頼んでかまわないぞ」と声をかけた。
それを皮切りに私たち全員揃って売場にたくさん並べられた食べ物を見て選び始めた。どれも美味しそうに見える。
「僕はこの『お弁当』と、この『お茶』をお願いします」
「ボクはこっちの『ヤッギーミルクのやわらかチーズ』と『冷めても美味しい野菜オムライス』、それと『お茶』にします」
「ボクは『ふかふか山羊チーズパン』と、茹でたコッコのたまご2個、それから、この『カレディア王都きのこ入り特製スープ』というのをお願いするのだ」
「私はこの『弁当セット』をもらおう。エレイナはどれがいい」
「コッコのゆで玉子1つと、私も山羊チーズパンが食べたいわ。それと『焼鳥弁当』を1つ」
「俺たち3人はこっちの大きい方の『焼鳥弁当』とお茶も大きい方を頼む」
私たちが注文を言い終えると、店番のお姉さんが
「かしこまりました。それではご注文を確認させていただきます」
「『ふかふか山羊チーズパン』が2つ、ゆで玉子3つ、焼鳥弁当がおひとつ、焼鳥弁当(大)が3つ、お弁当セットが1つにこちらのお弁当がおひとつ、普通サイズのお茶がおふたつに、大きいお茶が3つ。カレディア王都きのこ入り特製スープがおひとつ、山羊ミルクのやわらかチーズが1つ、冷めても美味しい野菜オムライスがおひとつですね?」
「え?」
「失礼いたしました。復唱いたします」
『ふかふか山羊チーズパン』が2つ、ゆで玉子3つ、焼鳥弁当がおひとつ、焼鳥弁当(大)が3つ、こちらのお弁当がおひとつと、こちらのお弁当セットが1つ、普通サイズのお茶がおふたつに、大きいお茶が3つ。カレディア王都きのこ入り特製スープがおひとつ、山羊ミルクのやわらかチーズが1つ、冷めても美味しい野菜オムライスがおひとつ、ですよね?」
「……」
「失礼いたしました!も、もう一度ご注文をおきき…」「いい、大丈夫だ、合ってるよ」「ありがとうございます!」
お姉さんは自分が間違えているせいで私たちがなにも言わないのだと勘違いしたようだ。速すぎて頭が追い付かなかっただけなんだけど。
それにしても記憶力も大したものだ。
購入した食料を手に乗り場へ戻ると、新しく用意された馬車で御者さんが待っていて「出発の時間までまだ時間がありますが、もう乗って大丈夫ですよ」と言ってくれた。
準備が整っているのがわかったので遠慮せずに乗り込む。
馬車でお弁当を食べてかまわないかどうかだけガイアスくんが聞くと「構いませんよ!先はまだ長いですからね。飲み物だけ気をつけて。道は舗装されてても、揺れることはありますから」と答えてくれるのが聞こえてきた。
それで私たちは購入したばかりの飲み物を、馬車が走り出さないうちに、付属の木製カップに注いで飲んだ。
バッシュくんがお弁当の箱の蓋をパカッと開けるのをみて、シナップくんとノアくんも自分の包み紙と容れ物の中を覗いている。
エレイナさんが言った。
「それじゃあ、そろそろお昼にしましょう」
私たちが昼食を開始して間もなくすると馬車が走り出した。
◇
シナップくんが『ふかふか山羊チーズパン』と『ガレディア王都きのこ入り特製スープ』を交互に食べながら幸せそうにしている。「どう特製かわからないけど、このスープ美味しいのだ」
「ガレディア王都きのこが旨いんだ」
話しているうちにも馬車は道を進んで景色が流れてゆく。
『王都』は私の故郷の『島』と違い、建物も人の数も多い。
何よりとても広い。
「ここまで来ると、この馬車なら本部のある中央区まであと少しだ」ガイアスくんが街中にも築かれた城壁を見ながら言った。
ガレディア王国領、ガレディア王都は城を中心に城壁が築かれて出来た巨大な要塞都市だ。
その多くの城壁部分が、現在までの都市の発展と人口の増加に伴い、取り払われてはいるが、これまでに城を直接囲んだ塀まで含めると六重の城壁が築かれて来た。
今なおその名残を残し、有事には機能するように魔導設計が施されている。
さらに城壁から出れば、北西に城郭都市ワルゴ、北東に迷宮都市カルディナをはじめとした多くの都市を内包する巨大国家としての姿を現す。
「第三城壁内に入った」ジャックくんが言った。
どうやら中央区に到着したようだ。
王都冒険者ギルド本部は中央区内の南に位置している。
使用されている建物は、歴史の中で何度か完全な建て替えが行われた比較的新しい建物だが、王直属の騎士団と兵団の使う建物と屋敷同様、特別に大きな移転はしていない。
それは発足初期に城及び、城下町を護るように建設されてきたことに由来しており、現在では各冒険者ギルド支部の『司令塔』としての役割を担う重要な『拠点』だ。
また、有事の際には第三城壁の内側が住民の最大の避難先となる。
『第三城壁正門跡』に近い乗り継ぎ場はすぐそこだ。
私たちは予定通りの場所で馬車を降りることにして、ガイアスくんが御者のヒトにそれを伝えるベルを鳴らした。
◇
馬車を降りると、すぐそばに王国騎士団と王国兵師団が使う兵舎と見張り台があって、それが現在の中央区で城壁と城門のような役割を果たしている。
「ガイアス、ジャック!」
手をふりながら鎧に身を包んだ衛兵のヒトが1人、小走りで向かってきた。
「フランツ、久しぶりだなー。無事だったか?」
「それはこっちの台詞だよ!無事で良かった」
「ああ、この通りだ」
「これから本部へ戻って報告かい?それとも支部で報告済み?」「報告済みだ」「なら、しばらくゆっくり出来そうか」
明るい表情で一頻り話すと、フランツと名乗った青年は持ち場に戻っていった。
礼儀正しい好青年だったな。
ロデリックくんが一緒にいることに何か思うところがあるようだったけれど、ガイアスくんとジャックくんたちが彼の『お目付け役』になったという認識を抱いたみたいだ。
5階建ての冒険者ギルド本部がすぐそこに見えている。
「あと一息だぞ」
ガイアスくんが言うと、シナップくんが
「あれが『本部』なのだよ?」と聞いた。
「そうだ」ガイアスくんが答えると
「ボクの塔には敵わないけれど、なかなか立派な佇まいなのだ!」
「『食堂』も泊まれるところも付いてるぞ」
「ホント!美味しい甘食やご飯もあるのかね!」
「ある」
ガイアスくんが答えるとシナップくんが嬉しそうになった。
たっぷりと砂糖やバターを使ったお菓子や柔らかいパンは、シナップくんにとって、贅沢なことのようらしい。
その上さらに美味しく研究された料理は、相当な贅沢感を味わえるものらしくご満悦だ。
それにしても。
シナップくんが受け継いだ塔には、沢山の宝物がある。
いつか食べ物のために全部使い果たさないかだけ私は少しだけ心配になった。
◇
「ではこれがシナップさんの新しい『冒険者カード』です」
「うん、ありがとうございますなのだよ」
シナップくんがギルドの受付のヒトから冒険者カードを受け取ってお礼を言った。
ピョン、と踏み台から飛び下りて、私たちに新しい『冒険者カード』を見せてくれる。
『見習い』から標準の『植物級』に昇級している。
「カードと一緒にこういうのを貰ったのだよ」
「ギルド専用のスタンプカードだな。依頼を達成して報酬を受け取ったり、素材やアイテムをギルドを通して売却すると、金額によって判子が押してもらえるんだ。説明があっただろ?」
「判子が一杯になると、『ギルド内通貨』と交換出来るって言ってたのだよ」
「こういうやつだ」
ガイアスくんが1枚の丸みを帯びた銀色のコインをシナップくんに見せた。
「これ1枚で1泊分分くらいのサービスがギルド限定で受けられる」
「ちなみにどれくらい頑張れば1枚もらえるのだね」
「たしか褐色大銅貨4,000枚」
「10枚もくれたのはそれでなのだ……」
「白銅貨なら400枚、黄銅貨なら40枚、こまめに依頼を受けて報酬を受け取ったり、不要な素材を換金してもらえば、案外簡単に貯まる。あまり知られていないが、コインは王都認定のギルドなら魔導ギルドや商人ギルドからももらえるし、使える。ただ、スタンプカードだけ共有が出来ない」
シナップくんがちょっと渋い顔をしたのを見てガイアスくんが笑いながら言った。
「食材や素材は買い取りをしてる商店や、販売の専門家集団の商人ギルドや加工技術がある魔導ギルドやなんかに直接売った方が少し高く売れる。仕入れの依頼は商人ギルドや魔導ギルドで直に受ければ交渉次第で報酬の割りも良いし、判子もそっちで押して貰えるぞ。冒険者ギルドへの依頼は急ぎのものが多い。そうでもない依頼もギルド毎に常時あるんだ」
「それと、価値がよくわからない物の売却は鑑定してからの方がいい。量が多いときは自分で買い手を見つけて売るのは大変だ。どんどん利用するといい」
「なるほど。わかったのだ!」
「よし、なら今日の部屋もとれているし、そろそろ食堂へ移動するか」
◇
食堂へ行くと広い食堂内は多くの人で賑わっている。
「晩飯時には早いのに混んでるな」
受付のヒトに人数を伝えると2ヶ所、離れてしか空いている席はないというので、ひとまず席が空くまで私たちは待つことにした。私たちのあとから来た人が先に案内される。
「エレイナと私、シナップ、バッシュ、ノア、残りのお前たち6人で一緒にいればいいだろう」とロデリックくんが言うのに対して「ロデリック、悪いがお前をその組み合わせで放置するのは少々勇気がいる」とガイアスくんが返した。
「待ってる間に注文を決めるのだ」
「これとか美味しそうだよ」
「美味しそう!」
バッシュくんたちが見ているのは『太陽と大地の恵み!野菜スムゥジィ』という野菜入りの飲み物のようだ。
品書きの板に貼られた紙に、イラストで美味しそうな野菜ドリンクが描かれていて、どんな野菜が使われているかが文字で描きこまれている。アイスクリンや果物などで大分甘くされているらしい。
気がつくとエレイナさんとジャックくんも加わって見ている。
食堂の案内の人が気がついて品書きの板をもうひとつ持ってきてくれた。
「今日はずいぶんと混んでるみたいだけど何かあるんですか」
前に来たときはこんなに混みあっていなかったと思うんだけどな。
少し興味が湧いて聞いてみた。逆に私が来たときがたまたま人が少なかっただけで『本部』とのはこういうものなのだろうか。
「いえー、特別なことはないんですけど。なんででしょう」
食堂のヒトにもよくわからない理由で混んでいるらしい。
私たちへの対応を済ませると、係のヒトは忙しそうに厨房のある方へ戻っていった。
◇
空いた席が出来たと案内されて用意された席につくと、先に注文しておいた料理が時間を開けずに次々とテーブルに並べられていく。それをバッシュくんたちが嬉しそうに眺めている。
時刻魔導具を見ると夜を知らせて小さな魔石が青く光っている。
「よし、そろそろ食べようか」
各々の食べたいものが出揃った辺りでガイアスくんが声をかけてくれた。
「いただきます」「いただきます」「いただきますなのだ」
しばらく食事が進むと、ガイアスくんがシナップくんに
「明日お前の名前で依頼を受けててみるか?」と提案した。
するとシナップくんが
「うん!」と答えたので、ガイアスくんがシナップくんが受けられる依頼について説明を始めた。
「ギルド登録するときに少し説明があったと思うが、初級の『植物ランク』で受けられる依頼はあまり多くない。特にシナップ、お前はまだ子供だから、受ける依頼のランクが高いと格上の大人が1人以上付くのがガレディア領での一応、決まりだ」
ガイアスくんの説明にシナップくんがうなずきながら
「けど、それだと全然儲からないのではないのかね??」
とガイアスくんに聞いた。
ガイアスくんの説明だと、格上の大人は同行者扱いで実費以上に報酬が受け取れない。
「実際には依頼によるが、俺たちが自分で受けるより儲かりにくいのは本当だな。だが今回はシナップ自身がこの生業をやっていくための練習みたいなもんだ。国としても、パーティメンバーとしても将来への投資だと考えれば問題ない」
ガイアスくんはそう言うと、ご飯と肉料理を美味しそうに食べて水を飲んだ。
ガレディアではさまざまな子供の事情を鑑みて子供の労働を禁止していないが、労働させる側に対して12歳以下の子供には銅級以上の大人が付くことや十分な休息と食事の提供を義務付けている。こうした労働の条件を実現するのは、雇う側に余力が無くては難しいため、小さな商会で自分の子供以外を雇いいれる事業者は殆ど無い。
その受け皿となっているのが各地に展開された『ギルド』という組織だ。
ガレディアの『ギルド制度』では『冒険者ギルド』に限らず、ガレディア王都で認定を受けたギルドは5歳以上から無償で登録を受付る代わりに、どんなに強くても6歳以上になるまで見習いから昇級させない決まりがある。
非常に多数の現実の人材と費用と人件費が必要になるが、これを支えるのが国からの支援だ。
国から一定の支援を受ける代わりに、『ギルド』は教育機関や職業訓練所のような役割を与えられている。
ガレディア王国からするとギルドへの登録というのは住民登録のようなものなのだ。
「仕事はギルドを通さないといけないのだ?」
「そんなことはないが、自分で金になる仕事を見つけるのは大変だぞ。特に商人だと手続き関連の取り決めがややこしいな。その点ギルドを通せばその手の専門家が山ほど働いている」
「なるほどなのだ」
「他に質問はあるか?」
「今のところ無いのだ!」
シナップくんが機嫌良さげに運ばれてきた『野菜スムゥジィ』を堪能し始めた。
そして満足そうに食事を終えると「ボク、王さまにも負けないお金持ちだと思ってたけど、この国の王さまや、キミたちほどでは無かったのだよ」と言ったのだった。
◇
翌朝、冒険者ギルドの玄関口ロビーに行くと、朝食を済ませて準備を整えたシナップくんがエレイナさんたちと待っていた。
もうめぼしい依頼を見つけているように見える。
「おはようなのだ!」「おはよう」
「何か良い依頼が見つかったか?」
「これなのだ」
シナップくんが魔導掲示板に映し出された依頼を指差して言った。
“依頼ランク星2つ:屋敷の怪の調査、空き家になった屋敷の様子をちょこっと調べるだけの簡単なお仕事です。推奨人数3人以上、詳しくは受付まで。報酬G45”
「……却下だ」
「なぜなのだ」
「この報酬、45ゴッズじゃなくて、45ゴールドの方だ」
「わかってるのだ。黄銅貨のわりと良い報酬なのだ」
「だから駄目だ」
「だからなぜなのだ」
「こんなの初級の1回の依頼につける報酬じゃないんだよ。絶対に危ない予感しかしない。シナップ、お前も魔物だけが危険と限らないのはわかってるだろう」
屋敷の怪とか書いてるしね……。
強盗とか窃盗団が住み着いてる屋敷ならとても危険な調査になってしまう。
「キミたちが一緒なら大丈夫なのだ」
「エレイナも止めろ。どう考えても危ないのがわかってて出された依頼だ」
「危険は承知なのだ!決めるのはボクなのだ。1人でも受けるのだー」
「ダメだといったらダメだ!危ないんだ」
「怪現象は魔力が引き起こす『夢幻象』かも知れない。普通の人には解決できないから此方に出されたのかも。それにガイアス、シナップちゃんは強いし、普通の依頼だと……」
「これは大人の『植物ランク』に出された依頼だ」
エレイナさんとガイアスくんたちが言い合ってると、後ろから遅れて来たジャックくんが不意に言った。
「その依頼、オレたちみたいな冒険者に出されたものじゃないのか?」
◇
「どういう意味だ」
ガイアスくんが言ったのに対して答えたのはロデリックくんだ。
「決まりにあるだろう。12歳以下の任務には銅級以上が必ず1人以上付くんだ。銅級以上に出す報酬ならば内容次第では良い報酬とは言えないな。12歳以下の『植物級』3人パーティなら銅級以上が3人はついてくる」
ロデリックくんはさらに続けた。
「この額の報酬なら付いた銅級が無償人材でなかったとしても植物級は報酬を受け取れる。ギルドからすればこの報酬で銅級が3人集まればそれでよし。大人の『植物級』しか集まらず手に負えなかったとしても、依頼はあくまでも調査だ。大人なら撤退の判断くらいする」
「なら余計に始末の悪い依頼だ!ちょっと文句を言ってくる。世の中シナップやバッシュたちみたいな子供ばかりじゃない」
そう言うとガイアスくんは受付まで走っていった。
「ボクに依頼を受けるように勧めたのはガイアス君なのに。ガイアス君の言うことを聞いてたらボク、冒険者になれないんじゃ…」
「時々過保護な父親みたいなんだよな。あいつは」
「どちらにしろ受付で依頼内容の詳細を聞かないことには……」
「あ」
「戻ってきたわ」
「早いな」
手に用紙を持っている。
「文句を言ってくるつもりだったんだが……」
戻ってきたガイアスくんが私たちに受付で受け取ってきた紙を渡してくれた。
手渡された紙は節約のためか質のよくないざらざらとした安価に手に入る物が使われていて、1枚の紙に沢山書き込まれている。
中身は依頼の詳細が記された覚え書きだ。
「依頼は『夢幻象』が起きている屋敷の調査だった。命に関わるような危険は無さそうだが、それ以外は大体ジャックやロデリックの予想通りだ」
子供が来たら来たで、対応できる大人が付くことを前提にした依頼だったのだ。保護の観点から見ると褒められた感じはしないけど、経験は積めそうではある。
「ガイアス君、ボクは『冒険者』だから、危険は覚悟の上なのだ。だからこの依頼は受けないのだ。折角紙をもらってきてくれたのに悪いのだけど、危険じゃないなら別のにするのだ…」
シナップくんの言葉に今度は私たち全員が驚いた。
「危険そうなのをわざと選んだのか」
「未だ見ぬ冒険の臭いがしたのだ」
◇
「それでは此方に識別サインをお願いします」
シナップくんが依頼書に固有魔力を通した識別インクでサインをした。
「手に負えないと判断した時点で無理せず屋敷内から避難してください。どのような現象が起きて避難に至るか、その事実の報告までが任務となります。調査依頼ですから解決できなくても報酬は支払われますので安心して下さい」
「わかったのだ。ありがとうなのだよ」
受付の男性から報酬について説明を受けるとシナップくんはお礼を言って踏み台から降りた。
他に食指が動く依頼が見つからず、シナップくんは結局最初に選んだ屋敷の依頼を受けることにしたのだ。
「キミたちが言ってる『夢幻象』というのは、初期の『魔力澱』のことなのだ。それならボクも対応できるのだよ」
ガイアスくんがまだ険しい表情なのを気にしてか、シナップくんが言った。
「シナップちゃんは魔導や魔物に詳しいものね」
エレイナさんが屈んでノアくんの衣装の衿を直してから、シナップくんの方を見て言った。
考えてみると私たちにとって幻の技術ともいえる空間魔術や転送魔術をシナップくんは使えるくらいなのだから、対応できるのは当たり前なのかもしれない。
それどころか簡単過ぎて興味を失いかけた可能性すらあるのではないか。
私がそんな風に思っていると、シナップくんが自分のアイテムバッグの中から魔導具をひとつ取り出した。
「『夢幻象』が『魔力澱』なら、これを使えばその現象はすぐに解消されるのだよ」
驚いたバッシュくんとノアくんがシナップくんの手に持たれた魔導具を見た。黄銅によく似た色合いの平たい円筒形の魔導具だ。
「魔力は互いに結び付く箇所をいくつももっているから、くっつけるのも容易いけど離れるのも容易い。この魔導具はその離れるのを手伝って変質してしまった魔力をもとの状態に還すのだ」
「もとの状態……?」
「ひょっとして、魔力の属性も解消してしまうの?自在に?」
「その使い方は思い付かなかったのだ。もう一手間かければ出来るのだよ」
「シナップ!それ、魔導ギルドで僕らが取り組んでる研究中の課題だよ!」バッシュくんとノアくんが驚きでプルプル震えている。
それに構わずシナップくんが「でも書いてある依頼の内容を読むと、ギルドの人が求めてるのは魔力澱の解消ではないのだ。どういう仕組みで『魔力澱』が起きるのかを知りたがってるのだ」と続けた。
確かに、依頼内容は『調査』で、調査が中断しても中断に至る経緯の詳細を報告すれば報酬が満額支払われる内容になっている。調査の期間も最大3日間と締切がある。
つまり『原因』を突き止めてどうにかせよというものではなく、『原因』を突き止めた、突き止められなかったまでの経緯を『報告』するのが任務なのだ。
さらに決定的なのは、結果的に原因となる物の破壊や現象の解除に至った場合についての責任は問わないような書かれようだ。出来れば破壊も解除も行うなという意味で間違いなさそう。
その意図するところはシナップくんのいう通り、『夢幻象』の仕組みの解明が調査の目的だからというのが妥当に思う。
「それじゃあシナップ、これからどうする?」
ガイアスくんがシナップくんに聞いた。
するとシナップくんがきょとんとした表情で首をかしげた。
「この依頼はシナップが受けた依頼だから、依頼達成のためにどうするかお前が決めて良いんだ。もちろん俺たちに意見を求めてもかまわない」
ガイアスくんに言われて、シナップくんが私たちに確認するように見回した。
全員がうなずいたのを見てシナップくんもうなずいた。
「じゃあ早速任務遂行のため『打ち合わせ室』へ行くのだ!」
◇
『冒険者ギルド本部』東棟1階奥『打ち合わせ室1ー5』
扉には『使用中』と書かれた木の板がかかっている。
先ほどシナップくんがギルドから借りた1室だ。
料理を並べるような広さはないものの、8人で座って話せるくらいの広さは十分にある。
シナップくんが部屋に着くとシナップくんが、先に私たちに座るよう促して、バッシュくんとノアくんと一緒にいそいそと魔石ポットのお湯と備え付けのカップと網目の袋に小分けされた茶葉を使って飲み物を用意してくれた。
細かな網目が大きな茶葉を通さないから、お湯を注ぐだけで手軽にお茶が淹れられる。後始末も簡単だ。
気づいてみれば単純だけど、長い期間誰もしなかったことを考案して、実現していくヒトはすごいよね。
お茶が行き渡ってバッシュくんとノアくんも座ったのを確認すると、少し緊張した面持ちで
「それでは『打ち合わせ』を始めるのだ」
そう言って時刻魔導具をテーブルの端に置くと、最後にシナップくん自身も席についた。
「ゴホン、ではまず、屋敷の場所を確認するのだ。場所は中央区第三城壁内北A1地区、カルカル通りに面したお屋敷なのだ。目印は赤い屋根と黒い門、それと隣の敷地が衛兵の人達の待機場なのだ」
私たちは各々が持っている紙で確認する。
「では次に、依頼内容の確認なのだ。依頼は1年前から空き家になっているお屋敷の様子を見てきてほしいというものなのだ。依頼人は魔導ギルドのホッペンさん。指揮の統括は冒険者ギルドになってるのだ」
シナップくんが続けた。
「依頼書によると、最近屋敷内で奇妙な怪現象がご近所の人に目撃されていて、通報を受けた衛兵の人が屋敷のなかに入って調べたところ『夢幻象』と思われる怪現象に遭遇したとあるのだ。それで屋敷内で起きている『夢幻象』を『調査』してきてほしいという依頼なのだ」
そう言うと顔を上げて
「具体的な様子としては何度も同じ廊下を行ったり来たりさせられたり、奇妙な物音があちこちから聞こえてきたとか、屋敷のなかを光る何かが飛んでいたとかそんなのだね。これだけで『夢幻象』や『魔力澱』と断定は出来ないし、普通の建物では魔力は外の空気に混ざって拡散するから滅多にそうはならないのだ」と言った。
エレイナさんたちが依頼書の写し紙を見ながらうなずく。
「魔術が使えれば簡単に出来るね。それでもギルド側は『夢幻象』だと思ってる」
バッシュくんが言った。
『夢幻象』というのは打ち捨てられた通気の悪い坑道や建物や洞窟なんかで起きる奇妙な現象の呼び名で、魔力が引き起こすということ以外はあまりよくわかっていない。
バッシュくんたちによると、魔力濃度が高いとか、魔物がいるからと言って『夢幻象』が起きるわけではないそうで、仕組みがが解明出来ていないそうだ。
『夢幻象』だと思って調べると、実際はヒトが仕掛けたイタズラであることも多くて『本物の夢幻象』の仕組みまで解明出来るほどの情報や証拠となるような資料は乏しいという。
ただ少ない報告の中で共通していることは『夢幻象』が起きる場所は通常均一な空気中の魔力濃度が、近接する範囲内で不安定になっていることが多いということ。
その原因が魔物だったり魔力の高い生き物だったり、魔導具だったりさまざまなのだけど、シナップくんのいう通り現象自体は閉鎖された場所以外であまり見られていない。
「おそらくこの屋敷の調査依頼は、今回がはじめてではないのだろう。何度か調査に入ってヒトが関わっていない現象と結論付けたのだ」ロデリックくんが推測して言った。
ガイアスくんとジャックくん、ノアくんがそれにうなずいた。
そこでエレイナさんが
「それならどうして今回も依頼を屋敷の『夢幻象』を調査だけでかまわないような内容にしているのかしら。あまり放っておくと街中で“魔物もどき”が生まれるかも知れないのに」
「僕もそう思う」バッシュくんがエレイナさんに続いて言った。
「確かにそうだが“魔物もどき”は滅多には現れない上、生まれた場所を離れられないし、大抵弱い」
ガイアスくんが言うとロデリックくんが「その辺りの方針は依頼人に直接聞かねばわからんだろうな。だが私たちにそれを詮索する権利は無いぞ」と締めくくった。
“魔物もどき”
私は遭遇したことが無いけれど、たしか本や物に変質した魔力が宿って動き出した物を“魔物もどき”と呼ぶと聞いたことがある。飛んできたり、ぶつかったりされると実態のある分痛いが原動力となる魔力保有量は少なく、壊したり衝撃を加えるだけで簡単に元の物体に戻せるという話だ。
するとお茶を飲んでいたシナップくんが、湯呑茶碗を置いて「依頼内容については一応確認が済んだと思うのだ!では続いて、調査の開始日なのだけど、今日でかまわないのだ?期間は調査開始日を含む3日間で報告期日は調査終了日の翌日中なのだ」と話を進めた。
ガイアスくんや私たちからの返答に間が空いたのでシナップくんが少し不安げに「えーと、違ったのかな」と依頼書を読み返し始めてしまった。
ガイアスくんがあわてて「そうじゃない、思ったよりちゃんとした打ち合わせになってるから驚いたんだ」
「失敬なのだ!!」「悪い、悪い。すまなかった。調査の間の食料は乾パンや長期保存用の食糧ならまだ十分ある。栄養面を考えると肉と野菜の買い足しは必要だが、準備にそれほど時間は要らないだろう」
「それじゃあ開始日は『今日』の日付で、受付してもらったら出発なのだ」
シナップくんはそう言うと、テーブルに置いていた時刻魔導具で時間を確認した。
「そろそろ『打ち合わせ室』を使える時間が終わるのだ」
「ならもう出るか?」「うん」
調査の日程も決まり、シナップくんが部屋を出るというので私たちも一緒に席を立った。
ガイアスくんが“魔物もどき”を弱いと言った時、シナップくんが何か言おうとしたように見えたけれど、私の気のせいだったみたいだね。
ガイアスくんたちと一緒に前を歩くシナップくんの後ろ姿を見ながら、私はそう思った。
◇
ギルド正面玄関のロビーまで戻った私たちは、シナップくんが調査開始日を受付のヒトに伝えると直ぐに『冒険者ギルド』から出て屋敷のあるカルカル通りへ向かうために馬車乗り場へ向かった。
「あの馬車なら今から2刻もあれば屋敷へ着く」
「2刻もかかるのだよ?!」
「俺たちが昨日乗ってきた馬車の速度なら1刻くらいで着くんだが、中央区に入ると一部の幹線道路を除いて馬車も魔導車も許可を得た物以外、一定の速度以上での移動が制限されている。特に道幅の狭い道はヒトが歩いていなくても、ゆっくり走る決まりだ」
ガイアスくんが言ったあとに「外側と比べて第三城壁内の道は幅が少し狭いんだよ」とジャックくんの頭の上からバッシュくんが補足した。
それを聞くとシナップくんが納得した表情になった。
白銅貨4枚を支払って馬車に乗り込むと、ノアくんがシナップくんに「昔のシナップたちは馬車以外の乗り物を使ったりしてたの?」と尋ねた。
「乗り物は沢山あったのだ。馬車は沢山荷物を運ぶのには使っていたのだよ。でも荷車を引っ張れる生き物は少なかったから馬車も少なかったのだ」
「乗り物には風属性の魔石を使うの?」
「そういうのもあったけど、重力に逆らう魔石を作って、色々な物に取り付けて走らせていたのだよ」
「え?」ノアくんの動きがピタリと止まった。
私も緊張する。
バッシュくんがややぎこちなく呟いた。
「それってひょっとして、反重力……」
「なんだそれ?すごいのか?」
「すごいのではないか?私はそんな魔石も乗り物も見たことがない」
「そういえばそうだな!」
ロデリックくんとガイアスくんが軽い感じでスゴイなーと感心しているのと対照的に、バッシュくんとノアくんは固まったような状態で驚愕のためなのか小さな体を震わせていた。
その様を愛らしく感じるのか、エレイナさんが愛おしげにバッシュくんとノアくんをじぃっと見つめているという馬車の中の光景は、何処と無く混沌とした有り様だった。
そうしてしばらく馬車が走ったところで「そういえば『夢幻象』のせいで屋敷の中で迷って離ればなれになる可能性があるのだね」そう言うとシナップくんがアイテムバッグから小さな珠を取り出した。
「キミたちが塔型迷宮で使ってたこの魔導具、ボクももらったのだ。これを使えばお互いの位置確認が出来るのだよ。持ってる?」
「ああ、まだ持ってるぞ」「ちゃんと持ってるわ」
「私も持っているよ」「大丈夫だ」
「私も今日受け取ったな。なかなか便利な魔導具のようだ。エレイナがどこにいるかすぐにわかる」
「ロデリック君だけはこの依頼が終わったら、それ返して」
「どうして」
「どうして、じゃないわ!返すのよ」
「嫌だ。もうもらったのだからこれは私のものだ。エレイナであっても私から奪うことはさせない」
「あげてないよ貸してるだけ!」
「何をいまさら」
「返してくれたら代わりに違う魔導具をあげる。それにその珠、小さすぎるから、もう少し使いやすい大きさの装置にして機能も改良したいんだ。君のをその素材として転用する」
バッシュくんがそう言うと、ロデリックくんが
「より高みを目指すというのか……仕方ない、返却に応じよう。代わりの魔導具も必要ない。良いものをつくりたまえ!」と応えた。
「ありがとうロデリック君!」
バッシュくんが力強くお礼を言った。
エレイナさんがほっとした表情になった。
ただ私の方は─珠があろうと無かろうと、ロデリックくんはエレイナさんを探し出せるんだよね。
そんな風に思った。
◇
「着いたのだ!」
馬車を降り、カルカル通りを歩いてしばらく行くと、隣が赤い屋根のお屋敷になっている、柵に囲まれた建物が見えてきた。
屋敷の大きさは大邸宅とは言えないくらいの規模だけれど、一般的な住居としては十分に大きく、塀の内側には庭もある。
お屋敷と比べてしまうと、小さな建物の門には衛兵のヒトが2人。
建物に掲げられた大きな木の板には『北A1地区巡回衛兵待機所』と書かれている。
依頼書にあった目印、衛兵の人達のために設けられた待機場で間違いない。
シナップくんがお屋敷の前まで走って、依頼書にある建物の外観と一致しているのを確認して私たちのところまで戻ってくると言った。
「調査するお屋敷の場所も確認できたのだよ。受付した調査開始時間は昼3刻からなのだ。それで、本格的な調査に入る前に、最終の準備を行いたいと思うのだ」
ガイアスくんたちがそれにうなずいて
「そうだな。屋敷内に入るまえに出来ることをすませておこう」
「私は衛兵に話を聞いてくるとしよう」
「私たちは近くのヒトに話を聞きに行くわ」
時刻魔導具を見るとお昼をだいぶ過ぎているけれど、調査開始予定時間まではもうすこし余裕がある。
私たちは手分けをして屋敷の近くのヒトに話を聞いてみることにした。
調査の予定時間のすこしまえにふたたび屋敷の前で落ち合い各々で聞いてきたことを報告した。
「衛兵の話だと私たちで3度目の調査だ。特別に新しい話はなかった」ロデリックくんが言った。
「見かけないヒトが屋敷を出入りするのを見た、というのは様子から考えて調査に来たヒトね。それなら私たちの方も特に新しい話はなかったわ」
「屋敷のことを聞いて回るヒトというのも調査だな」
「今回衛兵たちにはギルドから調査で屋敷にヒトが入ると事前に連絡があるらしい。依頼書の写しと身分証も見せずに話を聞くことが容易だった。無用心すぎるくらいだ」
ロデリックくんが予想していたように、これまでにも調査は行われていたようだ。
「話を聞くついでに日持ちする食料も買ってきた。乗り継ぎ場で買った食料と残っている保存食があればもう十分だろう」
「屋敷の厨房や寝室も使って良いことになっているから、これで準備は整ったのだ?」
「そうだね、あとのことはお屋敷に入ってから考えよう」
「それでは調査開始なのだ!」
預かった鍵でシナップくんがお屋敷の扉を開けた。
◇
屋敷の中に入ると高めの天井の玄関口から奥へ続く廊下になっていた。すこし薄暗いのでガイアスくんが灯り用の魔石で前を照らした。
「光がうまく届かないな」
廊下に靄のようなものがかかっていて、さほど長くないはずの廊下の向こうが見えにくい。
「見取り図では一番奥が厨房で一番手前の部屋が応接室になっているのだ」
「衛兵が奥へ進もうとすると、廊下を行ったり来たりさせられたらしい。壁に手を置いて伝いながら歩いてなんとか厨房にたどり着いたと言う話だ」
部屋を確認するだけでちょっと時間がかかりそうだ。
「光る物体のようなものが目撃されたのは応接室なのだ。先に見てみるのだ」
シナップくんはそう言うと、扉の取っ手を魔術で動かして重そうな扉を開けようとした。
「あれ?開かないのだ」
すぐにジャックくんが取っ手を持って扉を押す。
カチャッという短い音がして扉が動いた。
「開けたぞ」
「押す扉だったのだ。ありがとうなのだ」
お礼を言われたジャックくんが
「結界内の王都では考えにくいが『夢幻象』の原因が魔物の可能性は残っている。王都の結界は一切の魔物も阻むという構造じゃないからな。念のため前衛のオレとロデリックで先に行く。シナップたち後衛はガイアスと一緒に続いてくれ」
「了解なのだ!」「了解」「了解!」
シナップくんたちの声が廊下に響いたのと同時に応接室の扉が開かれた。
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□共有アイテム□
◇主な食料の在庫
内訳(長期保存食料198食分) 追加食料:お弁当8個 味付き肉 パン お茶 野菜 肉
◇嗜好品お菓子(魔導系回復あり)、各種調味料、未調理穀物6日分
◇魔力回復ポーション(EX102本、超回復74本、大153本、中647本、小970本)
◇治癒ポーション(治癒薬EX107本、超回復69本、大885本、中2,072本、小4,588本)、薬草(治癒1,060袋)1,060袋、他
□各自アイテムバッグ
ガイアス (魔力回復薬小3本)(治癒薬EX2本、超回復4本、大10本)薬草(治癒5袋、解毒5袋)麻痺解除薬5本
ジャック (魔力回復薬小4本)(治癒薬EX2本、超回復4本、大10本)薬草(治癒5袋、解毒5袋)麻痺解除薬1本)
エレイナ (魔力回復薬EX1本、超回復1本、大6本、中1本、小3本)(治癒薬EX3本、超回復3本、小10本)薬草(治癒5袋、解毒10袋)麻痺解除薬1本)
マクス (魔力回復薬EX3本、超回復5本、大5本、中5本、小10本)(治癒薬超回復5本、大5本、中10本、小20本)薬草(治癒18袋、解毒10袋)麻痺解除薬1本)
バッシュ (魔力回復薬EX1本、超回復1本、大2本)(治癒薬EX1本、超回復1本)薬草(治癒1袋、解毒10袋)麻痺解除薬1本)
ノア (魔力回復薬EX1本、超回復1本、大2本)(治癒薬EX1本、超回復1本)薬草(治癒1袋、解毒10袋)麻痺解除薬1本)
シナップ 『塔にあるもの全部』
ロデリック『私物とお菓子』
□背負袋
ガイアス 『共有アイテム』『バッシュとノアの本』『エレイナ、バッシュ、ノア、シナップの荷物』『食糧』
ジャック (魔力回復薬EX11本、超回復10本、大50本、中210本、小140本)(治癒薬EX1本、超回復85本、大35本、中80本、小120本)薬草(治癒10袋、解毒10袋)麻痺解除薬2本)『もしもの時の燻製肉』
エレイナ (魔力回復薬EX3本、超回復10本、大20本、中50本、小100本)(治癒薬EX5本、超回復25本、大30本、中50本、小50本)薬草(治癒60袋、解毒20袋)麻痺解除薬2本、万能薬3つ)『お菓子』
マクス (魔力回復薬大10本、中100本、小100本)(治癒薬超回復50本、大100本、中200本、小200本)薬草(治癒1,000袋、解毒30袋)麻痺解除薬4本、石化解除薬4つ、万能薬4つ)『草』
バッシュ (魔力回復薬EX5本、超回復5本)(治癒薬EX5本、超回復5本)薬草(治癒25袋、解毒5袋)麻痺解除薬5本、石化解除薬1つ、万能薬5つ)『カリカリフード』
ノア (魔力回復薬EX5本、超回復5本)(治癒薬EX5本、超回復5本)薬草(治癒25袋、解毒5袋)麻痺解除薬4本、石化解除薬2つ、万能薬5つ)『カリカリフード』
シナップ 『塔にあるもの全部』
ロデリック『私物とお菓子』
ガイアスくんとロデリックくんは重装備を街中に合わせて外したままだ。装備はギルド支部から本部へ配送される。
ふたりとも代わりに鞘に収められた剣を身に付けている。
道すがら「『森』と『犬族の遺跡』の調査依頼は取り下げられていた。まあよほどいやがられたんだな」とガイアスくんが笑いながら言った。
今朝、『冒険者ギルド』東門地区支部を発つ前の精算の時に念のため確認して来てくれたのだ。
魔導考古学組合の人たちにとって、過去を知るための貴重な手がかりを状況次第で破壊する冒険者というのは魔物に次ぐとんでもない脅威の一つなのかもしれない。
「依頼が出し直されたらギルド側から知らせてもらえる」
「もうこちらで気にする必要がなくなったということね」
「そういうことだ」
とはいえ、昨日のイシュタルさんやルイジさんの様子から考えると、近いうちにもう一度依頼が出される可能性は高そうに思える。
「確認だが、調査依頼を受ければ、森の異変や犬族の遺跡の魔生物が『何者か』と関連しているかどうか調べる機会にもなる。出し直されたら引き受けるが、それでかまわないか?」
ガイアスくんからの確認に私たち全員が頷いた。
乗り合い馬車の乗り場に着くと、ちょうどいい具合に全員がゆったり座れそうな、風避けと雨避けの屋根付き快速荷馬車の出発時間に間に合った。
速い代わりに少し割高の8人分の料金、白銅貨40枚を支払って乗り込む。割高といっても個人で借りたりすることを考えればこれでもずいぶん格安だ。
他の乗客はいなくて、長時間お客が座れるように工夫された荷台は、古めかしいけれどよく手入れされていて、趣がある。
「『本部』へはどのくらいで到着するのだね?お昼ご飯の時間に着かないのはわかってるのだ」
「この馬車だと今日の昼16刻くらいかな。遅くてなっても時刻魔導具の短針が4と5の間くらいには到着出来ると思うんだ」
シナップくんたちが話している間に私たちを乗せた馬車が走り出した。ガイアスくんとロデリックくんの装備はかなり軽装になっている。
人や物を乗せる馬車や魔導車専用に広くとられた主要な王都幹線道路は、薄茶いろの道に同系色で色分けされた線が引かれ、進行方向と走行可能な乗り物の種類をそれぞれ決めて走行する仕組みになっている。
舗装された道に設けられた乗り継ぎ場を私たちを乗せた馬車が停まらずに通りすぎた。
「魔力が動力源の荷車があるのに、どうして馬車を使っているのだね?」シナップくんが不思議そうにした。
「魔導車か。あれはたしか1000年くらい昔に東の大陸で開発されて、一時この大陸でも今より広まったらしいんだが、ガレディアでは主流にならなかった」
「どうして?」
「さあ。どうしてだろうな」
ガイアスくんが自分の考えを言わないでいると、ロデリックくんが
「魔石燃料や金属を大量に必要とするからだろう。魔導車は便利だが、道の舗装も馬車と同じかそれ以上に必要だ。かける費用と手間隙をどこにかけたいか、かけることが可能かで選択は決まる」と言った。
するとジャックくんが
「確かにメルンは馬車より魔導車の方が多い」
と肯定するように言った。東の大国メルンは魔導車等の魔導機械の開発と輸出を積極的に行っている国の一つだ。
大規模な魔石油田の発見があってから、エネルギー資源を他国へ売売り外貨で稼ぐという方針へ転向してしまい、他の技術開発に遅れが出ているようなのだけど、今なお魔導工業大国の地位を欲しいままにしている。
「メルンの周辺には重い荷車を引けるような動物も少ないうえに育てる環境もないだろう。あの国の場合、民を養っていくため必要でそうなっている」
ロデリックくんの話を聞いていたシナップくんが
「この辺りはあちこち草ばかりなのだ」
するとバッシュくんが
「あれ、ほとんどが牛や馬の好きな草なんだって。今よりずっと大昔は雑草扱いで、みんなして雑草を減らそうと、牛と一所懸命引っこ抜いてたらしいよ!今は牛たちのために、わざと増やして呼び方まで『牧草』に変わってるんだ」
と、可笑しそうにした。
「草を育てる水はどうしてるの。東と西に大きな河はあるけど、山もあって遠いのだ?」
「ガレディア王都には2,000年前から渇れていない湖と地下水があって、井戸を掘らなくても水が涌き出る場所もある」
「それに、わりと定期的に雨が降るんだ。それも植物にとって上質の雨なんだって。この辺りは3,000年前ほとんど雨の降らない砂漠だったみたいだけど、たぶん2,000年くらい前から少しずつ気候が変わってるんだね」
「すごい変わりようなのだよ!」
私たちを乗せた馬車が速度を落としながら一番端の道へ滑らかに移動し始める。
「ところでなのだ。ガイアス君」
「ん?」
「ボクはレストルームを所望したいのだが」
「レスト…?なんだそれ」
「トイレに用があるのだ!」
「そ、そういうことは馬車に乗る前に言うんだ!」
「かたじけないのだ…」
シナップくんが少し恥じらうように言った。
◇
「はー、スッキリしたのだよ」
馬車の乗り継ぎ場に設けられた手洗い場から、シナップくんが布で手をふきながら出てきた。
ちょっと離れた場所ではガイアスくんがロデリックくんから説教をされている。
発端は馬車の中で
「ごめんなさい。シナップちゃんにトイレの確認をしてあげなかったのよ」というエレイナさんにガイアスくんが「今度からはしっかり見てやってくれ」というやり取りがあって、それに対して「ガイアス。普段エレイナにばかり面倒を見させて、お前は何を言っている」とロデリックくんが言い出したことだ。
当のエレイナさんが
「ガイアスはいつも荷物を運んだり、シナップちゃんたちを背負ったり面倒を見てるじゃない!」と言ったが聞かない。
ロデリックくんの台詞だけを聞いていると、行きすぎた封建主義のパートナーを持つ世のお母様がたの革命児のように見えなくもない。
私たちが乗ってきた快速馬車は、牽引する馬たちの交代と荷車の点検のために移動している。
次の出発時間まで私たちは乗客の証明である小さな木製の札を持って乗り場で少し休憩だ。
王都の北や南に用のある人はここで乗り換える。
「ちょうど休憩時間になって助かったのだー」
「こっそり塔に戻ってすませたりは出来ないの?」
「帰りの目標が動き回ってると失敗するかも知れないから嫌なのだ。キミたちも止めといた方がいいのだよ」
「失敗することがあるの?!」
「『攻略の証』を使ってなら失敗しても死んじゃったりはしないけど、痛い目には合うかもしれないのだ」
シナップくんがなんだか怖いことを言いだした。
ジャックくんと私は乗り場に設けられたお店で買った飲み物を持って、備え付けられた木の椅子に腰掛けた。
お昼にはまだ早い。
それからも数度の休憩を挟みながら、馬車で進むと途中の休憩場で御者のヒトから私たちに声がかけられた。
「次の乗り継ぎ場では馬車ごと交代しますんで、荷物など忘れ物の無いようにお願いします」
◇
ほどなくして、次の乗り継ぎ場に到着した私たちは、馬車の中で食べることの出来る、持ち帰り用の携帯食『お弁当』を購入するために、乗り場近くに併設された売場のある建物までやって来た。
規模の大きな乗り継ぎ場には、ほかにも立派そうな建物と待機中の馬車がたくさん置かれていて、近くには宿の看板も出ていた。
お弁当の売場に到着すると、バッシュくんとノアくんとシナップくん3人にガイアスくんが
「どれでも好きなのを頼んでかまわないぞ」と声をかけた。
それを皮切りに私たち全員揃って売場にたくさん並べられた食べ物を見て選び始めた。どれも美味しそうに見える。
「僕はこの『お弁当』と、この『お茶』をお願いします」
「ボクはこっちの『ヤッギーミルクのやわらかチーズ』と『冷めても美味しい野菜オムライス』、それと『お茶』にします」
「ボクは『ふかふか山羊チーズパン』と、茹でたコッコのたまご2個、それから、この『カレディア王都きのこ入り特製スープ』というのをお願いするのだ」
「私はこの『弁当セット』をもらおう。エレイナはどれがいい」
「コッコのゆで玉子1つと、私も山羊チーズパンが食べたいわ。それと『焼鳥弁当』を1つ」
「俺たち3人はこっちの大きい方の『焼鳥弁当』とお茶も大きい方を頼む」
私たちが注文を言い終えると、店番のお姉さんが
「かしこまりました。それではご注文を確認させていただきます」
「『ふかふか山羊チーズパン』が2つ、ゆで玉子3つ、焼鳥弁当がおひとつ、焼鳥弁当(大)が3つ、お弁当セットが1つにこちらのお弁当がおひとつ、普通サイズのお茶がおふたつに、大きいお茶が3つ。カレディア王都きのこ入り特製スープがおひとつ、山羊ミルクのやわらかチーズが1つ、冷めても美味しい野菜オムライスがおひとつですね?」
「え?」
「失礼いたしました。復唱いたします」
『ふかふか山羊チーズパン』が2つ、ゆで玉子3つ、焼鳥弁当がおひとつ、焼鳥弁当(大)が3つ、こちらのお弁当がおひとつと、こちらのお弁当セットが1つ、普通サイズのお茶がおふたつに、大きいお茶が3つ。カレディア王都きのこ入り特製スープがおひとつ、山羊ミルクのやわらかチーズが1つ、冷めても美味しい野菜オムライスがおひとつ、ですよね?」
「……」
「失礼いたしました!も、もう一度ご注文をおきき…」「いい、大丈夫だ、合ってるよ」「ありがとうございます!」
お姉さんは自分が間違えているせいで私たちがなにも言わないのだと勘違いしたようだ。速すぎて頭が追い付かなかっただけなんだけど。
それにしても記憶力も大したものだ。
購入した食料を手に乗り場へ戻ると、新しく用意された馬車で御者さんが待っていて「出発の時間までまだ時間がありますが、もう乗って大丈夫ですよ」と言ってくれた。
準備が整っているのがわかったので遠慮せずに乗り込む。
馬車でお弁当を食べてかまわないかどうかだけガイアスくんが聞くと「構いませんよ!先はまだ長いですからね。飲み物だけ気をつけて。道は舗装されてても、揺れることはありますから」と答えてくれるのが聞こえてきた。
それで私たちは購入したばかりの飲み物を、馬車が走り出さないうちに、付属の木製カップに注いで飲んだ。
バッシュくんがお弁当の箱の蓋をパカッと開けるのをみて、シナップくんとノアくんも自分の包み紙と容れ物の中を覗いている。
エレイナさんが言った。
「それじゃあ、そろそろお昼にしましょう」
私たちが昼食を開始して間もなくすると馬車が走り出した。
◇
シナップくんが『ふかふか山羊チーズパン』と『ガレディア王都きのこ入り特製スープ』を交互に食べながら幸せそうにしている。「どう特製かわからないけど、このスープ美味しいのだ」
「ガレディア王都きのこが旨いんだ」
話しているうちにも馬車は道を進んで景色が流れてゆく。
『王都』は私の故郷の『島』と違い、建物も人の数も多い。
何よりとても広い。
「ここまで来ると、この馬車なら本部のある中央区まであと少しだ」ガイアスくんが街中にも築かれた城壁を見ながら言った。
ガレディア王国領、ガレディア王都は城を中心に城壁が築かれて出来た巨大な要塞都市だ。
その多くの城壁部分が、現在までの都市の発展と人口の増加に伴い、取り払われてはいるが、これまでに城を直接囲んだ塀まで含めると六重の城壁が築かれて来た。
今なおその名残を残し、有事には機能するように魔導設計が施されている。
さらに城壁から出れば、北西に城郭都市ワルゴ、北東に迷宮都市カルディナをはじめとした多くの都市を内包する巨大国家としての姿を現す。
「第三城壁内に入った」ジャックくんが言った。
どうやら中央区に到着したようだ。
王都冒険者ギルド本部は中央区内の南に位置している。
使用されている建物は、歴史の中で何度か完全な建て替えが行われた比較的新しい建物だが、王直属の騎士団と兵団の使う建物と屋敷同様、特別に大きな移転はしていない。
それは発足初期に城及び、城下町を護るように建設されてきたことに由来しており、現在では各冒険者ギルド支部の『司令塔』としての役割を担う重要な『拠点』だ。
また、有事の際には第三城壁の内側が住民の最大の避難先となる。
『第三城壁正門跡』に近い乗り継ぎ場はすぐそこだ。
私たちは予定通りの場所で馬車を降りることにして、ガイアスくんが御者のヒトにそれを伝えるベルを鳴らした。
◇
馬車を降りると、すぐそばに王国騎士団と王国兵師団が使う兵舎と見張り台があって、それが現在の中央区で城壁と城門のような役割を果たしている。
「ガイアス、ジャック!」
手をふりながら鎧に身を包んだ衛兵のヒトが1人、小走りで向かってきた。
「フランツ、久しぶりだなー。無事だったか?」
「それはこっちの台詞だよ!無事で良かった」
「ああ、この通りだ」
「これから本部へ戻って報告かい?それとも支部で報告済み?」「報告済みだ」「なら、しばらくゆっくり出来そうか」
明るい表情で一頻り話すと、フランツと名乗った青年は持ち場に戻っていった。
礼儀正しい好青年だったな。
ロデリックくんが一緒にいることに何か思うところがあるようだったけれど、ガイアスくんとジャックくんたちが彼の『お目付け役』になったという認識を抱いたみたいだ。
5階建ての冒険者ギルド本部がすぐそこに見えている。
「あと一息だぞ」
ガイアスくんが言うと、シナップくんが
「あれが『本部』なのだよ?」と聞いた。
「そうだ」ガイアスくんが答えると
「ボクの塔には敵わないけれど、なかなか立派な佇まいなのだ!」
「『食堂』も泊まれるところも付いてるぞ」
「ホント!美味しい甘食やご飯もあるのかね!」
「ある」
ガイアスくんが答えるとシナップくんが嬉しそうになった。
たっぷりと砂糖やバターを使ったお菓子や柔らかいパンは、シナップくんにとって、贅沢なことのようらしい。
その上さらに美味しく研究された料理は、相当な贅沢感を味わえるものらしくご満悦だ。
それにしても。
シナップくんが受け継いだ塔には、沢山の宝物がある。
いつか食べ物のために全部使い果たさないかだけ私は少しだけ心配になった。
◇
「ではこれがシナップさんの新しい『冒険者カード』です」
「うん、ありがとうございますなのだよ」
シナップくんがギルドの受付のヒトから冒険者カードを受け取ってお礼を言った。
ピョン、と踏み台から飛び下りて、私たちに新しい『冒険者カード』を見せてくれる。
『見習い』から標準の『植物級』に昇級している。
「カードと一緒にこういうのを貰ったのだよ」
「ギルド専用のスタンプカードだな。依頼を達成して報酬を受け取ったり、素材やアイテムをギルドを通して売却すると、金額によって判子が押してもらえるんだ。説明があっただろ?」
「判子が一杯になると、『ギルド内通貨』と交換出来るって言ってたのだよ」
「こういうやつだ」
ガイアスくんが1枚の丸みを帯びた銀色のコインをシナップくんに見せた。
「これ1枚で1泊分分くらいのサービスがギルド限定で受けられる」
「ちなみにどれくらい頑張れば1枚もらえるのだね」
「たしか褐色大銅貨4,000枚」
「10枚もくれたのはそれでなのだ……」
「白銅貨なら400枚、黄銅貨なら40枚、こまめに依頼を受けて報酬を受け取ったり、不要な素材を換金してもらえば、案外簡単に貯まる。あまり知られていないが、コインは王都認定のギルドなら魔導ギルドや商人ギルドからももらえるし、使える。ただ、スタンプカードだけ共有が出来ない」
シナップくんがちょっと渋い顔をしたのを見てガイアスくんが笑いながら言った。
「食材や素材は買い取りをしてる商店や、販売の専門家集団の商人ギルドや加工技術がある魔導ギルドやなんかに直接売った方が少し高く売れる。仕入れの依頼は商人ギルドや魔導ギルドで直に受ければ交渉次第で報酬の割りも良いし、判子もそっちで押して貰えるぞ。冒険者ギルドへの依頼は急ぎのものが多い。そうでもない依頼もギルド毎に常時あるんだ」
「それと、価値がよくわからない物の売却は鑑定してからの方がいい。量が多いときは自分で買い手を見つけて売るのは大変だ。どんどん利用するといい」
「なるほど。わかったのだ!」
「よし、なら今日の部屋もとれているし、そろそろ食堂へ移動するか」
◇
食堂へ行くと広い食堂内は多くの人で賑わっている。
「晩飯時には早いのに混んでるな」
受付のヒトに人数を伝えると2ヶ所、離れてしか空いている席はないというので、ひとまず席が空くまで私たちは待つことにした。私たちのあとから来た人が先に案内される。
「エレイナと私、シナップ、バッシュ、ノア、残りのお前たち6人で一緒にいればいいだろう」とロデリックくんが言うのに対して「ロデリック、悪いがお前をその組み合わせで放置するのは少々勇気がいる」とガイアスくんが返した。
「待ってる間に注文を決めるのだ」
「これとか美味しそうだよ」
「美味しそう!」
バッシュくんたちが見ているのは『太陽と大地の恵み!野菜スムゥジィ』という野菜入りの飲み物のようだ。
品書きの板に貼られた紙に、イラストで美味しそうな野菜ドリンクが描かれていて、どんな野菜が使われているかが文字で描きこまれている。アイスクリンや果物などで大分甘くされているらしい。
気がつくとエレイナさんとジャックくんも加わって見ている。
食堂の案内の人が気がついて品書きの板をもうひとつ持ってきてくれた。
「今日はずいぶんと混んでるみたいだけど何かあるんですか」
前に来たときはこんなに混みあっていなかったと思うんだけどな。
少し興味が湧いて聞いてみた。逆に私が来たときがたまたま人が少なかっただけで『本部』とのはこういうものなのだろうか。
「いえー、特別なことはないんですけど。なんででしょう」
食堂のヒトにもよくわからない理由で混んでいるらしい。
私たちへの対応を済ませると、係のヒトは忙しそうに厨房のある方へ戻っていった。
◇
空いた席が出来たと案内されて用意された席につくと、先に注文しておいた料理が時間を開けずに次々とテーブルに並べられていく。それをバッシュくんたちが嬉しそうに眺めている。
時刻魔導具を見ると夜を知らせて小さな魔石が青く光っている。
「よし、そろそろ食べようか」
各々の食べたいものが出揃った辺りでガイアスくんが声をかけてくれた。
「いただきます」「いただきます」「いただきますなのだ」
しばらく食事が進むと、ガイアスくんがシナップくんに
「明日お前の名前で依頼を受けててみるか?」と提案した。
するとシナップくんが
「うん!」と答えたので、ガイアスくんがシナップくんが受けられる依頼について説明を始めた。
「ギルド登録するときに少し説明があったと思うが、初級の『植物ランク』で受けられる依頼はあまり多くない。特にシナップ、お前はまだ子供だから、受ける依頼のランクが高いと格上の大人が1人以上付くのがガレディア領での一応、決まりだ」
ガイアスくんの説明にシナップくんがうなずきながら
「けど、それだと全然儲からないのではないのかね??」
とガイアスくんに聞いた。
ガイアスくんの説明だと、格上の大人は同行者扱いで実費以上に報酬が受け取れない。
「実際には依頼によるが、俺たちが自分で受けるより儲かりにくいのは本当だな。だが今回はシナップ自身がこの生業をやっていくための練習みたいなもんだ。国としても、パーティメンバーとしても将来への投資だと考えれば問題ない」
ガイアスくんはそう言うと、ご飯と肉料理を美味しそうに食べて水を飲んだ。
ガレディアではさまざまな子供の事情を鑑みて子供の労働を禁止していないが、労働させる側に対して12歳以下の子供には銅級以上の大人が付くことや十分な休息と食事の提供を義務付けている。こうした労働の条件を実現するのは、雇う側に余力が無くては難しいため、小さな商会で自分の子供以外を雇いいれる事業者は殆ど無い。
その受け皿となっているのが各地に展開された『ギルド』という組織だ。
ガレディアの『ギルド制度』では『冒険者ギルド』に限らず、ガレディア王都で認定を受けたギルドは5歳以上から無償で登録を受付る代わりに、どんなに強くても6歳以上になるまで見習いから昇級させない決まりがある。
非常に多数の現実の人材と費用と人件費が必要になるが、これを支えるのが国からの支援だ。
国から一定の支援を受ける代わりに、『ギルド』は教育機関や職業訓練所のような役割を与えられている。
ガレディア王国からするとギルドへの登録というのは住民登録のようなものなのだ。
「仕事はギルドを通さないといけないのだ?」
「そんなことはないが、自分で金になる仕事を見つけるのは大変だぞ。特に商人だと手続き関連の取り決めがややこしいな。その点ギルドを通せばその手の専門家が山ほど働いている」
「なるほどなのだ」
「他に質問はあるか?」
「今のところ無いのだ!」
シナップくんが機嫌良さげに運ばれてきた『野菜スムゥジィ』を堪能し始めた。
そして満足そうに食事を終えると「ボク、王さまにも負けないお金持ちだと思ってたけど、この国の王さまや、キミたちほどでは無かったのだよ」と言ったのだった。
◇
翌朝、冒険者ギルドの玄関口ロビーに行くと、朝食を済ませて準備を整えたシナップくんがエレイナさんたちと待っていた。
もうめぼしい依頼を見つけているように見える。
「おはようなのだ!」「おはよう」
「何か良い依頼が見つかったか?」
「これなのだ」
シナップくんが魔導掲示板に映し出された依頼を指差して言った。
“依頼ランク星2つ:屋敷の怪の調査、空き家になった屋敷の様子をちょこっと調べるだけの簡単なお仕事です。推奨人数3人以上、詳しくは受付まで。報酬G45”
「……却下だ」
「なぜなのだ」
「この報酬、45ゴッズじゃなくて、45ゴールドの方だ」
「わかってるのだ。黄銅貨のわりと良い報酬なのだ」
「だから駄目だ」
「だからなぜなのだ」
「こんなの初級の1回の依頼につける報酬じゃないんだよ。絶対に危ない予感しかしない。シナップ、お前も魔物だけが危険と限らないのはわかってるだろう」
屋敷の怪とか書いてるしね……。
強盗とか窃盗団が住み着いてる屋敷ならとても危険な調査になってしまう。
「キミたちが一緒なら大丈夫なのだ」
「エレイナも止めろ。どう考えても危ないのがわかってて出された依頼だ」
「危険は承知なのだ!決めるのはボクなのだ。1人でも受けるのだー」
「ダメだといったらダメだ!危ないんだ」
「怪現象は魔力が引き起こす『夢幻象』かも知れない。普通の人には解決できないから此方に出されたのかも。それにガイアス、シナップちゃんは強いし、普通の依頼だと……」
「これは大人の『植物ランク』に出された依頼だ」
エレイナさんとガイアスくんたちが言い合ってると、後ろから遅れて来たジャックくんが不意に言った。
「その依頼、オレたちみたいな冒険者に出されたものじゃないのか?」
◇
「どういう意味だ」
ガイアスくんが言ったのに対して答えたのはロデリックくんだ。
「決まりにあるだろう。12歳以下の任務には銅級以上が必ず1人以上付くんだ。銅級以上に出す報酬ならば内容次第では良い報酬とは言えないな。12歳以下の『植物級』3人パーティなら銅級以上が3人はついてくる」
ロデリックくんはさらに続けた。
「この額の報酬なら付いた銅級が無償人材でなかったとしても植物級は報酬を受け取れる。ギルドからすればこの報酬で銅級が3人集まればそれでよし。大人の『植物級』しか集まらず手に負えなかったとしても、依頼はあくまでも調査だ。大人なら撤退の判断くらいする」
「なら余計に始末の悪い依頼だ!ちょっと文句を言ってくる。世の中シナップやバッシュたちみたいな子供ばかりじゃない」
そう言うとガイアスくんは受付まで走っていった。
「ボクに依頼を受けるように勧めたのはガイアス君なのに。ガイアス君の言うことを聞いてたらボク、冒険者になれないんじゃ…」
「時々過保護な父親みたいなんだよな。あいつは」
「どちらにしろ受付で依頼内容の詳細を聞かないことには……」
「あ」
「戻ってきたわ」
「早いな」
手に用紙を持っている。
「文句を言ってくるつもりだったんだが……」
戻ってきたガイアスくんが私たちに受付で受け取ってきた紙を渡してくれた。
手渡された紙は節約のためか質のよくないざらざらとした安価に手に入る物が使われていて、1枚の紙に沢山書き込まれている。
中身は依頼の詳細が記された覚え書きだ。
「依頼は『夢幻象』が起きている屋敷の調査だった。命に関わるような危険は無さそうだが、それ以外は大体ジャックやロデリックの予想通りだ」
子供が来たら来たで、対応できる大人が付くことを前提にした依頼だったのだ。保護の観点から見ると褒められた感じはしないけど、経験は積めそうではある。
「ガイアス君、ボクは『冒険者』だから、危険は覚悟の上なのだ。だからこの依頼は受けないのだ。折角紙をもらってきてくれたのに悪いのだけど、危険じゃないなら別のにするのだ…」
シナップくんの言葉に今度は私たち全員が驚いた。
「危険そうなのをわざと選んだのか」
「未だ見ぬ冒険の臭いがしたのだ」
◇
「それでは此方に識別サインをお願いします」
シナップくんが依頼書に固有魔力を通した識別インクでサインをした。
「手に負えないと判断した時点で無理せず屋敷内から避難してください。どのような現象が起きて避難に至るか、その事実の報告までが任務となります。調査依頼ですから解決できなくても報酬は支払われますので安心して下さい」
「わかったのだ。ありがとうなのだよ」
受付の男性から報酬について説明を受けるとシナップくんはお礼を言って踏み台から降りた。
他に食指が動く依頼が見つからず、シナップくんは結局最初に選んだ屋敷の依頼を受けることにしたのだ。
「キミたちが言ってる『夢幻象』というのは、初期の『魔力澱』のことなのだ。それならボクも対応できるのだよ」
ガイアスくんがまだ険しい表情なのを気にしてか、シナップくんが言った。
「シナップちゃんは魔導や魔物に詳しいものね」
エレイナさんが屈んでノアくんの衣装の衿を直してから、シナップくんの方を見て言った。
考えてみると私たちにとって幻の技術ともいえる空間魔術や転送魔術をシナップくんは使えるくらいなのだから、対応できるのは当たり前なのかもしれない。
それどころか簡単過ぎて興味を失いかけた可能性すらあるのではないか。
私がそんな風に思っていると、シナップくんが自分のアイテムバッグの中から魔導具をひとつ取り出した。
「『夢幻象』が『魔力澱』なら、これを使えばその現象はすぐに解消されるのだよ」
驚いたバッシュくんとノアくんがシナップくんの手に持たれた魔導具を見た。黄銅によく似た色合いの平たい円筒形の魔導具だ。
「魔力は互いに結び付く箇所をいくつももっているから、くっつけるのも容易いけど離れるのも容易い。この魔導具はその離れるのを手伝って変質してしまった魔力をもとの状態に還すのだ」
「もとの状態……?」
「ひょっとして、魔力の属性も解消してしまうの?自在に?」
「その使い方は思い付かなかったのだ。もう一手間かければ出来るのだよ」
「シナップ!それ、魔導ギルドで僕らが取り組んでる研究中の課題だよ!」バッシュくんとノアくんが驚きでプルプル震えている。
それに構わずシナップくんが「でも書いてある依頼の内容を読むと、ギルドの人が求めてるのは魔力澱の解消ではないのだ。どういう仕組みで『魔力澱』が起きるのかを知りたがってるのだ」と続けた。
確かに、依頼内容は『調査』で、調査が中断しても中断に至る経緯の詳細を報告すれば報酬が満額支払われる内容になっている。調査の期間も最大3日間と締切がある。
つまり『原因』を突き止めてどうにかせよというものではなく、『原因』を突き止めた、突き止められなかったまでの経緯を『報告』するのが任務なのだ。
さらに決定的なのは、結果的に原因となる物の破壊や現象の解除に至った場合についての責任は問わないような書かれようだ。出来れば破壊も解除も行うなという意味で間違いなさそう。
その意図するところはシナップくんのいう通り、『夢幻象』の仕組みの解明が調査の目的だからというのが妥当に思う。
「それじゃあシナップ、これからどうする?」
ガイアスくんがシナップくんに聞いた。
するとシナップくんがきょとんとした表情で首をかしげた。
「この依頼はシナップが受けた依頼だから、依頼達成のためにどうするかお前が決めて良いんだ。もちろん俺たちに意見を求めてもかまわない」
ガイアスくんに言われて、シナップくんが私たちに確認するように見回した。
全員がうなずいたのを見てシナップくんもうなずいた。
「じゃあ早速任務遂行のため『打ち合わせ室』へ行くのだ!」
◇
『冒険者ギルド本部』東棟1階奥『打ち合わせ室1ー5』
扉には『使用中』と書かれた木の板がかかっている。
先ほどシナップくんがギルドから借りた1室だ。
料理を並べるような広さはないものの、8人で座って話せるくらいの広さは十分にある。
シナップくんが部屋に着くとシナップくんが、先に私たちに座るよう促して、バッシュくんとノアくんと一緒にいそいそと魔石ポットのお湯と備え付けのカップと網目の袋に小分けされた茶葉を使って飲み物を用意してくれた。
細かな網目が大きな茶葉を通さないから、お湯を注ぐだけで手軽にお茶が淹れられる。後始末も簡単だ。
気づいてみれば単純だけど、長い期間誰もしなかったことを考案して、実現していくヒトはすごいよね。
お茶が行き渡ってバッシュくんとノアくんも座ったのを確認すると、少し緊張した面持ちで
「それでは『打ち合わせ』を始めるのだ」
そう言って時刻魔導具をテーブルの端に置くと、最後にシナップくん自身も席についた。
「ゴホン、ではまず、屋敷の場所を確認するのだ。場所は中央区第三城壁内北A1地区、カルカル通りに面したお屋敷なのだ。目印は赤い屋根と黒い門、それと隣の敷地が衛兵の人達の待機場なのだ」
私たちは各々が持っている紙で確認する。
「では次に、依頼内容の確認なのだ。依頼は1年前から空き家になっているお屋敷の様子を見てきてほしいというものなのだ。依頼人は魔導ギルドのホッペンさん。指揮の統括は冒険者ギルドになってるのだ」
シナップくんが続けた。
「依頼書によると、最近屋敷内で奇妙な怪現象がご近所の人に目撃されていて、通報を受けた衛兵の人が屋敷のなかに入って調べたところ『夢幻象』と思われる怪現象に遭遇したとあるのだ。それで屋敷内で起きている『夢幻象』を『調査』してきてほしいという依頼なのだ」
そう言うと顔を上げて
「具体的な様子としては何度も同じ廊下を行ったり来たりさせられたり、奇妙な物音があちこちから聞こえてきたとか、屋敷のなかを光る何かが飛んでいたとかそんなのだね。これだけで『夢幻象』や『魔力澱』と断定は出来ないし、普通の建物では魔力は外の空気に混ざって拡散するから滅多にそうはならないのだ」と言った。
エレイナさんたちが依頼書の写し紙を見ながらうなずく。
「魔術が使えれば簡単に出来るね。それでもギルド側は『夢幻象』だと思ってる」
バッシュくんが言った。
『夢幻象』というのは打ち捨てられた通気の悪い坑道や建物や洞窟なんかで起きる奇妙な現象の呼び名で、魔力が引き起こすということ以外はあまりよくわかっていない。
バッシュくんたちによると、魔力濃度が高いとか、魔物がいるからと言って『夢幻象』が起きるわけではないそうで、仕組みがが解明出来ていないそうだ。
『夢幻象』だと思って調べると、実際はヒトが仕掛けたイタズラであることも多くて『本物の夢幻象』の仕組みまで解明出来るほどの情報や証拠となるような資料は乏しいという。
ただ少ない報告の中で共通していることは『夢幻象』が起きる場所は通常均一な空気中の魔力濃度が、近接する範囲内で不安定になっていることが多いということ。
その原因が魔物だったり魔力の高い生き物だったり、魔導具だったりさまざまなのだけど、シナップくんのいう通り現象自体は閉鎖された場所以外であまり見られていない。
「おそらくこの屋敷の調査依頼は、今回がはじめてではないのだろう。何度か調査に入ってヒトが関わっていない現象と結論付けたのだ」ロデリックくんが推測して言った。
ガイアスくんとジャックくん、ノアくんがそれにうなずいた。
そこでエレイナさんが
「それならどうして今回も依頼を屋敷の『夢幻象』を調査だけでかまわないような内容にしているのかしら。あまり放っておくと街中で“魔物もどき”が生まれるかも知れないのに」
「僕もそう思う」バッシュくんがエレイナさんに続いて言った。
「確かにそうだが“魔物もどき”は滅多には現れない上、生まれた場所を離れられないし、大抵弱い」
ガイアスくんが言うとロデリックくんが「その辺りの方針は依頼人に直接聞かねばわからんだろうな。だが私たちにそれを詮索する権利は無いぞ」と締めくくった。
“魔物もどき”
私は遭遇したことが無いけれど、たしか本や物に変質した魔力が宿って動き出した物を“魔物もどき”と呼ぶと聞いたことがある。飛んできたり、ぶつかったりされると実態のある分痛いが原動力となる魔力保有量は少なく、壊したり衝撃を加えるだけで簡単に元の物体に戻せるという話だ。
するとお茶を飲んでいたシナップくんが、湯呑茶碗を置いて「依頼内容については一応確認が済んだと思うのだ!では続いて、調査の開始日なのだけど、今日でかまわないのだ?期間は調査開始日を含む3日間で報告期日は調査終了日の翌日中なのだ」と話を進めた。
ガイアスくんや私たちからの返答に間が空いたのでシナップくんが少し不安げに「えーと、違ったのかな」と依頼書を読み返し始めてしまった。
ガイアスくんがあわてて「そうじゃない、思ったよりちゃんとした打ち合わせになってるから驚いたんだ」
「失敬なのだ!!」「悪い、悪い。すまなかった。調査の間の食料は乾パンや長期保存用の食糧ならまだ十分ある。栄養面を考えると肉と野菜の買い足しは必要だが、準備にそれほど時間は要らないだろう」
「それじゃあ開始日は『今日』の日付で、受付してもらったら出発なのだ」
シナップくんはそう言うと、テーブルに置いていた時刻魔導具で時間を確認した。
「そろそろ『打ち合わせ室』を使える時間が終わるのだ」
「ならもう出るか?」「うん」
調査の日程も決まり、シナップくんが部屋を出るというので私たちも一緒に席を立った。
ガイアスくんが“魔物もどき”を弱いと言った時、シナップくんが何か言おうとしたように見えたけれど、私の気のせいだったみたいだね。
ガイアスくんたちと一緒に前を歩くシナップくんの後ろ姿を見ながら、私はそう思った。
◇
ギルド正面玄関のロビーまで戻った私たちは、シナップくんが調査開始日を受付のヒトに伝えると直ぐに『冒険者ギルド』から出て屋敷のあるカルカル通りへ向かうために馬車乗り場へ向かった。
「あの馬車なら今から2刻もあれば屋敷へ着く」
「2刻もかかるのだよ?!」
「俺たちが昨日乗ってきた馬車の速度なら1刻くらいで着くんだが、中央区に入ると一部の幹線道路を除いて馬車も魔導車も許可を得た物以外、一定の速度以上での移動が制限されている。特に道幅の狭い道はヒトが歩いていなくても、ゆっくり走る決まりだ」
ガイアスくんが言ったあとに「外側と比べて第三城壁内の道は幅が少し狭いんだよ」とジャックくんの頭の上からバッシュくんが補足した。
それを聞くとシナップくんが納得した表情になった。
白銅貨4枚を支払って馬車に乗り込むと、ノアくんがシナップくんに「昔のシナップたちは馬車以外の乗り物を使ったりしてたの?」と尋ねた。
「乗り物は沢山あったのだ。馬車は沢山荷物を運ぶのには使っていたのだよ。でも荷車を引っ張れる生き物は少なかったから馬車も少なかったのだ」
「乗り物には風属性の魔石を使うの?」
「そういうのもあったけど、重力に逆らう魔石を作って、色々な物に取り付けて走らせていたのだよ」
「え?」ノアくんの動きがピタリと止まった。
私も緊張する。
バッシュくんがややぎこちなく呟いた。
「それってひょっとして、反重力……」
「なんだそれ?すごいのか?」
「すごいのではないか?私はそんな魔石も乗り物も見たことがない」
「そういえばそうだな!」
ロデリックくんとガイアスくんが軽い感じでスゴイなーと感心しているのと対照的に、バッシュくんとノアくんは固まったような状態で驚愕のためなのか小さな体を震わせていた。
その様を愛らしく感じるのか、エレイナさんが愛おしげにバッシュくんとノアくんをじぃっと見つめているという馬車の中の光景は、何処と無く混沌とした有り様だった。
そうしてしばらく馬車が走ったところで「そういえば『夢幻象』のせいで屋敷の中で迷って離ればなれになる可能性があるのだね」そう言うとシナップくんがアイテムバッグから小さな珠を取り出した。
「キミたちが塔型迷宮で使ってたこの魔導具、ボクももらったのだ。これを使えばお互いの位置確認が出来るのだよ。持ってる?」
「ああ、まだ持ってるぞ」「ちゃんと持ってるわ」
「私も持っているよ」「大丈夫だ」
「私も今日受け取ったな。なかなか便利な魔導具のようだ。エレイナがどこにいるかすぐにわかる」
「ロデリック君だけはこの依頼が終わったら、それ返して」
「どうして」
「どうして、じゃないわ!返すのよ」
「嫌だ。もうもらったのだからこれは私のものだ。エレイナであっても私から奪うことはさせない」
「あげてないよ貸してるだけ!」
「何をいまさら」
「返してくれたら代わりに違う魔導具をあげる。それにその珠、小さすぎるから、もう少し使いやすい大きさの装置にして機能も改良したいんだ。君のをその素材として転用する」
バッシュくんがそう言うと、ロデリックくんが
「より高みを目指すというのか……仕方ない、返却に応じよう。代わりの魔導具も必要ない。良いものをつくりたまえ!」と応えた。
「ありがとうロデリック君!」
バッシュくんが力強くお礼を言った。
エレイナさんがほっとした表情になった。
ただ私の方は─珠があろうと無かろうと、ロデリックくんはエレイナさんを探し出せるんだよね。
そんな風に思った。
◇
「着いたのだ!」
馬車を降り、カルカル通りを歩いてしばらく行くと、隣が赤い屋根のお屋敷になっている、柵に囲まれた建物が見えてきた。
屋敷の大きさは大邸宅とは言えないくらいの規模だけれど、一般的な住居としては十分に大きく、塀の内側には庭もある。
お屋敷と比べてしまうと、小さな建物の門には衛兵のヒトが2人。
建物に掲げられた大きな木の板には『北A1地区巡回衛兵待機所』と書かれている。
依頼書にあった目印、衛兵の人達のために設けられた待機場で間違いない。
シナップくんがお屋敷の前まで走って、依頼書にある建物の外観と一致しているのを確認して私たちのところまで戻ってくると言った。
「調査するお屋敷の場所も確認できたのだよ。受付した調査開始時間は昼3刻からなのだ。それで、本格的な調査に入る前に、最終の準備を行いたいと思うのだ」
ガイアスくんたちがそれにうなずいて
「そうだな。屋敷内に入るまえに出来ることをすませておこう」
「私は衛兵に話を聞いてくるとしよう」
「私たちは近くのヒトに話を聞きに行くわ」
時刻魔導具を見るとお昼をだいぶ過ぎているけれど、調査開始予定時間まではもうすこし余裕がある。
私たちは手分けをして屋敷の近くのヒトに話を聞いてみることにした。
調査の予定時間のすこしまえにふたたび屋敷の前で落ち合い各々で聞いてきたことを報告した。
「衛兵の話だと私たちで3度目の調査だ。特別に新しい話はなかった」ロデリックくんが言った。
「見かけないヒトが屋敷を出入りするのを見た、というのは様子から考えて調査に来たヒトね。それなら私たちの方も特に新しい話はなかったわ」
「屋敷のことを聞いて回るヒトというのも調査だな」
「今回衛兵たちにはギルドから調査で屋敷にヒトが入ると事前に連絡があるらしい。依頼書の写しと身分証も見せずに話を聞くことが容易だった。無用心すぎるくらいだ」
ロデリックくんが予想していたように、これまでにも調査は行われていたようだ。
「話を聞くついでに日持ちする食料も買ってきた。乗り継ぎ場で買った食料と残っている保存食があればもう十分だろう」
「屋敷の厨房や寝室も使って良いことになっているから、これで準備は整ったのだ?」
「そうだね、あとのことはお屋敷に入ってから考えよう」
「それでは調査開始なのだ!」
預かった鍵でシナップくんがお屋敷の扉を開けた。
◇
屋敷の中に入ると高めの天井の玄関口から奥へ続く廊下になっていた。すこし薄暗いのでガイアスくんが灯り用の魔石で前を照らした。
「光がうまく届かないな」
廊下に靄のようなものがかかっていて、さほど長くないはずの廊下の向こうが見えにくい。
「見取り図では一番奥が厨房で一番手前の部屋が応接室になっているのだ」
「衛兵が奥へ進もうとすると、廊下を行ったり来たりさせられたらしい。壁に手を置いて伝いながら歩いてなんとか厨房にたどり着いたと言う話だ」
部屋を確認するだけでちょっと時間がかかりそうだ。
「光る物体のようなものが目撃されたのは応接室なのだ。先に見てみるのだ」
シナップくんはそう言うと、扉の取っ手を魔術で動かして重そうな扉を開けようとした。
「あれ?開かないのだ」
すぐにジャックくんが取っ手を持って扉を押す。
カチャッという短い音がして扉が動いた。
「開けたぞ」
「押す扉だったのだ。ありがとうなのだ」
お礼を言われたジャックくんが
「結界内の王都では考えにくいが『夢幻象』の原因が魔物の可能性は残っている。王都の結界は一切の魔物も阻むという構造じゃないからな。念のため前衛のオレとロデリックで先に行く。シナップたち後衛はガイアスと一緒に続いてくれ」
「了解なのだ!」「了解」「了解!」
シナップくんたちの声が廊下に響いたのと同時に応接室の扉が開かれた。
────────
────────
□共有アイテム□
◇主な食料の在庫
内訳(長期保存食料198食分) 追加食料:お弁当8個 味付き肉 パン お茶 野菜 肉
◇嗜好品お菓子(魔導系回復あり)、各種調味料、未調理穀物6日分
◇魔力回復ポーション(EX102本、超回復74本、大153本、中647本、小970本)
◇治癒ポーション(治癒薬EX107本、超回復69本、大885本、中2,072本、小4,588本)、薬草(治癒1,060袋)1,060袋、他
□各自アイテムバッグ
ガイアス (魔力回復薬小3本)(治癒薬EX2本、超回復4本、大10本)薬草(治癒5袋、解毒5袋)麻痺解除薬5本
ジャック (魔力回復薬小4本)(治癒薬EX2本、超回復4本、大10本)薬草(治癒5袋、解毒5袋)麻痺解除薬1本)
エレイナ (魔力回復薬EX1本、超回復1本、大6本、中1本、小3本)(治癒薬EX3本、超回復3本、小10本)薬草(治癒5袋、解毒10袋)麻痺解除薬1本)
マクス (魔力回復薬EX3本、超回復5本、大5本、中5本、小10本)(治癒薬超回復5本、大5本、中10本、小20本)薬草(治癒18袋、解毒10袋)麻痺解除薬1本)
バッシュ (魔力回復薬EX1本、超回復1本、大2本)(治癒薬EX1本、超回復1本)薬草(治癒1袋、解毒10袋)麻痺解除薬1本)
ノア (魔力回復薬EX1本、超回復1本、大2本)(治癒薬EX1本、超回復1本)薬草(治癒1袋、解毒10袋)麻痺解除薬1本)
シナップ 『塔にあるもの全部』
ロデリック『私物とお菓子』
□背負袋
ガイアス 『共有アイテム』『バッシュとノアの本』『エレイナ、バッシュ、ノア、シナップの荷物』『食糧』
ジャック (魔力回復薬EX11本、超回復10本、大50本、中210本、小140本)(治癒薬EX1本、超回復85本、大35本、中80本、小120本)薬草(治癒10袋、解毒10袋)麻痺解除薬2本)『もしもの時の燻製肉』
エレイナ (魔力回復薬EX3本、超回復10本、大20本、中50本、小100本)(治癒薬EX5本、超回復25本、大30本、中50本、小50本)薬草(治癒60袋、解毒20袋)麻痺解除薬2本、万能薬3つ)『お菓子』
マクス (魔力回復薬大10本、中100本、小100本)(治癒薬超回復50本、大100本、中200本、小200本)薬草(治癒1,000袋、解毒30袋)麻痺解除薬4本、石化解除薬4つ、万能薬4つ)『草』
バッシュ (魔力回復薬EX5本、超回復5本)(治癒薬EX5本、超回復5本)薬草(治癒25袋、解毒5袋)麻痺解除薬5本、石化解除薬1つ、万能薬5つ)『カリカリフード』
ノア (魔力回復薬EX5本、超回復5本)(治癒薬EX5本、超回復5本)薬草(治癒25袋、解毒5袋)麻痺解除薬4本、石化解除薬2つ、万能薬5つ)『カリカリフード』
シナップ 『塔にあるもの全部』
ロデリック『私物とお菓子』
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男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
鑑定能力で恩を返す
KBT
ファンタジー
どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。
彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。
そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。
この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。
帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。
そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。
そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。
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