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三章 三角関係の件
①
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週末の土曜日、沙耶は親友の亜希子とオシャレな店でランチに興じていた。沙耶はこれまであったことを洗いざらい亜希子に打ち明け、まるで沙汰を待つかのようにジッと彼女の言葉に耳を傾ける。
クリームの多さで有名なパンケーキを頬張りながら、亜希子は沙耶に言った。
「それってさ、俗に言う三角関係ってヤツじゃない?」
「さ、三角関係……!?」
人生でもっとも縁のないと思っていた単語に、沙耶は目を白黒させる。
「で、でも私、藤本課長とは付き合ってないし!」
「だからと言って、尚樹くんと付き合ってるとも言えない状態なんでしょう?」
ウッと返答に詰まり、沙耶はうつむいた。せっかく写真映えするパンケーキなのに、気づけば普通に切り分けていた自分にもがっかりしている。
「尚樹とは……わからない、わからないよ。だって、私、どうしても許せないんだよ」
「田辺美保子との浮気のこと?」
「うん」
沙耶が首肯すると、亜希子がフォークを置いて、今度はタピオカ入りのミルクティーをひとくち飲んだ。この店はSNSで流行っているからと、亜希子が見つけてきたところである。沙耶の親友は世の中の変化に敏感で、すぐさま馴染むことも得意なのだ。
そんな親友の勧めで頼んだパンケーキもタピオカ入りミルクティーも、沙耶のほうはたいして減っていない。
「尚樹が変わらなければ、いまごろ何事もなく幸せだったのに」
「沙耶……」
ポツリとこぼす沙耶に、亜希子は同情の視線を向けた。
「ねえ、考え方を変えたらどう?」
「考え方って?」
質問を質問で返すと、亜希子が人差し指を立てる。
「沙耶はいまモテ期だっていうふうにさ!」
「は、はあ!?」
そんなポジティブな思考、残念ながら沙耶は持ち合わせていなかった。
けれど亜希子のほうは本気らしい。
「せっかくふたりの男に追われてるんだから、どちらか選べる立場だと思わないと!」
「そ、そんなあ~」
無茶ぶりにもほどがあると、沙耶は混乱してしまう。
「無理言わないでよ……ただでさえ困ってるのに」
「いま尚樹くんと話すのは無理そうなんでしょう?」
その問いには、沙耶は即座にうなずいた。
「うん。いま顔を合わせたら、別れ話になるだけなのは目に見えてるから」
「ふうん……別れたくない、かあ」
亜希子が天井を仰ぐ。
「五年って、ひとを縛りつけるんだね。長いもんなあ」
「でも……」
「でも?」
沙耶の前置きに、亜希子がキョトンと首を傾げた。
「別れたくないわけでもないと思ってるの。たとえそうなったとしても、仕方ないって。頭ではわかってるのに、心が、身体が、ついていかないみたいで……」
「なるほど」
亜希子は腕組みして、「う~ん」とうなる。
「なら、とことんふたりと向き合ってみなさいよ」
「尚樹と、課長と?」
「そう!」
ビシッと指差して、亜希子は続けた。
「五年の情か、大人の包容力か、見極めてみたらいいんじゃない?」
「そ、そんなこと、私にできるかなあ?」
眉を下げて亜希子にすがりつくと、彼女は大きくうなずいて請け合う。
「できなかったら、またいつでも相談してよ!」
「うん……ありがとう、亜希子」
頼りになる親友を前に、沙耶はようやく落ち着いてパンケーキを口に運ぶことができた。
クリームの多さで有名なパンケーキを頬張りながら、亜希子は沙耶に言った。
「それってさ、俗に言う三角関係ってヤツじゃない?」
「さ、三角関係……!?」
人生でもっとも縁のないと思っていた単語に、沙耶は目を白黒させる。
「で、でも私、藤本課長とは付き合ってないし!」
「だからと言って、尚樹くんと付き合ってるとも言えない状態なんでしょう?」
ウッと返答に詰まり、沙耶はうつむいた。せっかく写真映えするパンケーキなのに、気づけば普通に切り分けていた自分にもがっかりしている。
「尚樹とは……わからない、わからないよ。だって、私、どうしても許せないんだよ」
「田辺美保子との浮気のこと?」
「うん」
沙耶が首肯すると、亜希子がフォークを置いて、今度はタピオカ入りのミルクティーをひとくち飲んだ。この店はSNSで流行っているからと、亜希子が見つけてきたところである。沙耶の親友は世の中の変化に敏感で、すぐさま馴染むことも得意なのだ。
そんな親友の勧めで頼んだパンケーキもタピオカ入りミルクティーも、沙耶のほうはたいして減っていない。
「尚樹が変わらなければ、いまごろ何事もなく幸せだったのに」
「沙耶……」
ポツリとこぼす沙耶に、亜希子は同情の視線を向けた。
「ねえ、考え方を変えたらどう?」
「考え方って?」
質問を質問で返すと、亜希子が人差し指を立てる。
「沙耶はいまモテ期だっていうふうにさ!」
「は、はあ!?」
そんなポジティブな思考、残念ながら沙耶は持ち合わせていなかった。
けれど亜希子のほうは本気らしい。
「せっかくふたりの男に追われてるんだから、どちらか選べる立場だと思わないと!」
「そ、そんなあ~」
無茶ぶりにもほどがあると、沙耶は混乱してしまう。
「無理言わないでよ……ただでさえ困ってるのに」
「いま尚樹くんと話すのは無理そうなんでしょう?」
その問いには、沙耶は即座にうなずいた。
「うん。いま顔を合わせたら、別れ話になるだけなのは目に見えてるから」
「ふうん……別れたくない、かあ」
亜希子が天井を仰ぐ。
「五年って、ひとを縛りつけるんだね。長いもんなあ」
「でも……」
「でも?」
沙耶の前置きに、亜希子がキョトンと首を傾げた。
「別れたくないわけでもないと思ってるの。たとえそうなったとしても、仕方ないって。頭ではわかってるのに、心が、身体が、ついていかないみたいで……」
「なるほど」
亜希子は腕組みして、「う~ん」とうなる。
「なら、とことんふたりと向き合ってみなさいよ」
「尚樹と、課長と?」
「そう!」
ビシッと指差して、亜希子は続けた。
「五年の情か、大人の包容力か、見極めてみたらいいんじゃない?」
「そ、そんなこと、私にできるかなあ?」
眉を下げて亜希子にすがりつくと、彼女は大きくうなずいて請け合う。
「できなかったら、またいつでも相談してよ!」
「うん……ありがとう、亜希子」
頼りになる親友を前に、沙耶はようやく落ち着いてパンケーキを口に運ぶことができた。
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