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一章 彼氏が浮気している件
①
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翌日が土曜日だったので、仕事がないことが幸いだと思った。でなければ藤本と会社でどう顔を合わせてよいかわからなかったからだ。
自宅マンションの傍に着くと、共用玄関に人影を認める。短く刈り上げた髪に体格のいい身体つき、それが尚樹だとわかり、沙耶は何も返せていないスマホに気づいた。慌ててスマホを操作しようとしたところで、尚樹がこちらに目を向ける。バッチリと目が合い、沙耶は戸惑ってその場から足が動かなくなった。
「沙耶! いままでどこ行ってたんだよ!」
尚樹は駆け足で沙耶のもとにやってくる。彼は寝ていないのか、ほのかに目元が赤い。そして明らかに怒っていた。
「心配したんだぞ!」
けれど沙耶はその言葉を素直に受け取れなかった。憮然として、尚樹に詰め寄る。
「……何に?」
「はあ?」
眉をひそめる尚樹を、沙耶はキッとにらみつけた。
「田辺美保子はどうしたわけ?」
するとこれまで強気だった尚樹が初めてたじろぐ。
「だから美保子とは――」
「美保子だなんて気安く呼ばないでよ!」
沙耶の悲鳴じみた声に、尚樹は初めて事の重大さを意識したらしい。沙耶を抱き締めた。
「ごめんっ……そのことは、本当に悪かったと思ってる! でもオレは沙耶が一番だから――!」
尚樹は沙耶の肩に顔をうずめ、後悔の念を吐き出す。
けれど沙耶は尚樹の腕の中で、何も言えずにいた。
(一番って……じゃあ二番もいるってこと……?)
尚樹のことは確かに好きなのはずなのに、彼の言葉が何も響かない。
尚樹の独白は続く。
「だからお前が飲み会からいなくなって心配でっ……夜中からずっとここで待ってたんだ!」
「……飲み会」
「え?」
ぽつりとつぶやいたら、尚樹がようやく沙耶を離した。
沙耶はいまにも泣きそうな顔で、尚樹に問う。
「どうして田辺美保子の隣にいたの? あの場に私がいるの、知ってたでしょう?」
「あ、それは……」
おもむろに尚樹が挙動不審になった。キョロキョロと視線をさまよわせる。
「だ、だから、美保――彼女に諦めてもらうために、説得してたんだって」
「そう」
沙耶は冷めた目で尚樹を見つめた。
尚樹は必死にすがってくる。
「だから許してほしい!」
「……わからないよ」
「沙耶っ」
「ごめん。今日はひとりにして」
「沙耶……!」
なおもすがってくる尚樹を退け、沙耶はひとり自宅マンション内に入っていった。いますぐ別れを切り出せなかった自分を、そしていまだに好意を持つ尚樹を突き放せない自分に怒りさえ感じていた。
しかしオートロックを解除したところで、尚樹がドアの隙間をすり抜けて一緒に入ってきてしまう。
「ちょっ……尚樹!? ひとりにしてって言ったじゃない!」
「いやだ。いま話したい」
沙耶は大きく溜息をつき、仕方がないので尚樹を部屋に入れることに決めた。
自宅マンションの傍に着くと、共用玄関に人影を認める。短く刈り上げた髪に体格のいい身体つき、それが尚樹だとわかり、沙耶は何も返せていないスマホに気づいた。慌ててスマホを操作しようとしたところで、尚樹がこちらに目を向ける。バッチリと目が合い、沙耶は戸惑ってその場から足が動かなくなった。
「沙耶! いままでどこ行ってたんだよ!」
尚樹は駆け足で沙耶のもとにやってくる。彼は寝ていないのか、ほのかに目元が赤い。そして明らかに怒っていた。
「心配したんだぞ!」
けれど沙耶はその言葉を素直に受け取れなかった。憮然として、尚樹に詰め寄る。
「……何に?」
「はあ?」
眉をひそめる尚樹を、沙耶はキッとにらみつけた。
「田辺美保子はどうしたわけ?」
するとこれまで強気だった尚樹が初めてたじろぐ。
「だから美保子とは――」
「美保子だなんて気安く呼ばないでよ!」
沙耶の悲鳴じみた声に、尚樹は初めて事の重大さを意識したらしい。沙耶を抱き締めた。
「ごめんっ……そのことは、本当に悪かったと思ってる! でもオレは沙耶が一番だから――!」
尚樹は沙耶の肩に顔をうずめ、後悔の念を吐き出す。
けれど沙耶は尚樹の腕の中で、何も言えずにいた。
(一番って……じゃあ二番もいるってこと……?)
尚樹のことは確かに好きなのはずなのに、彼の言葉が何も響かない。
尚樹の独白は続く。
「だからお前が飲み会からいなくなって心配でっ……夜中からずっとここで待ってたんだ!」
「……飲み会」
「え?」
ぽつりとつぶやいたら、尚樹がようやく沙耶を離した。
沙耶はいまにも泣きそうな顔で、尚樹に問う。
「どうして田辺美保子の隣にいたの? あの場に私がいるの、知ってたでしょう?」
「あ、それは……」
おもむろに尚樹が挙動不審になった。キョロキョロと視線をさまよわせる。
「だ、だから、美保――彼女に諦めてもらうために、説得してたんだって」
「そう」
沙耶は冷めた目で尚樹を見つめた。
尚樹は必死にすがってくる。
「だから許してほしい!」
「……わからないよ」
「沙耶っ」
「ごめん。今日はひとりにして」
「沙耶……!」
なおもすがってくる尚樹を退け、沙耶はひとり自宅マンション内に入っていった。いますぐ別れを切り出せなかった自分を、そしていまだに好意を持つ尚樹を突き放せない自分に怒りさえ感じていた。
しかしオートロックを解除したところで、尚樹がドアの隙間をすり抜けて一緒に入ってきてしまう。
「ちょっ……尚樹!? ひとりにしてって言ったじゃない!」
「いやだ。いま話したい」
沙耶は大きく溜息をつき、仕方がないので尚樹を部屋に入れることに決めた。
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