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卒業
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ガヤガヤと五月蝿い人混み。
いつもなら不快感を覚え、思わず顔を顰めるのだろうけど、今日ばかりは特別だ。
今日は高校の卒業式。さすがに泣かなかったが、危うく涙を流してしまいそうになったことは式中に多々あった。
小中と合わせこれが3度目の卒業。慣れているとはいえ、やはり寂しいものは寂しい。
友達と、恩師と、後輩と……
私達は別れ、就職にしろ進学にしろ、新しい環境で頑張らねばならない。そこで新しく友人と呼べる人もできるだろう。だからこそ、今ここで、別れを惜しむのだ。
そういえば、あの子ともさらに離れるのか……
あの子とは言っても1つ下の男子だが。
彼のことは中学で初めて知った。学園祭の係が一緒だったのだ。別に大した活躍をした訳ではない。かなりのイケメンという訳でもない。
ただ、準備期間中に数回喋った程度だった。それだけ。本当にそれだけで私は落ちてしまった。それからは彼の姿を見る度に頬が緩むのを必死に我慢した。勿論、中学の卒業式でもこんな思考をした。
だから、高校2年目の入学式で彼の名前が呼ばれた時は、聞き間違いではないかとも思った。
また彼と一緒の学校に通える。そう思うと、2年前にこの高校にした自分を、思いっきり褒めてあげたかった。
けれども、私は彼に一切話しかけたりはしなかった。彼からもそんな素振りはなかった。当たり前だろう。ほとんど面識なんてないのだから。
あ、彼だ。玄関前に他の男子生徒とスタンバイしている。部活の先輩に渡す物でもあるのだろうか。
ともかく、これっきり彼を見られることは無いだろう。しっかりと目に焼き付けておこう……
「あ、ねえ!あれってあんたのお気に入りの子じゃない?」
「ホントだ!ねえ!告白しちゃいなよ!」
「じょ、冗談でしょ?いくらなんでも唐突過ぎ」
「でも、もうチャンスないよ?」
「そうそう!どうせ卒業だしさ!」
「でも……」
考えなかった訳では無い。けど、どうやって話しかけるかも、なんて告白するかも、全く考えつかなかった。
「あたしたちがキッカケつくったげるからさ!」
「任せんさいな」
「……じゃあ、最後のワガママ、聞いてくれる?」
「「もちろん」」
「ねえキミ~写真撮ってくれないかな?」
「僕ですか?」
「そうそう!」
「ここをバックに、3人でとりたいんだけど、いいかな?」
「はい。いいですよ」
少々強引ではあるけど、快く了承してくれた。
その後写真を2、3枚ほど撮ると、彼は写真を見せに近寄ってきた。
「こんなカンジなんですけど……」
「……うん、ありがとう」
2人に確認をしようとすると、既に2人の姿はなくなっていた。
私が慌てていると、
「あれ?2人はどこに行ったんですかね……」
彼も気づいたようで、頻りに辺りを見回しながらあれ~?と言っている。
私は漸く覚悟を決め、
「あの、さ」
彼に打ち明ける
「私ね、ずっと」
顔が真っ赤になっているのがわかる
「中学から、ずっと」
それでも
「キミのことが」
「好きでした」
漫画において、告白シーンのことごとくがイベントの最中、または直後なのかがわかった。この一言を云う為に、イベントの力を借りようとしているのだ。または、そのように告白して、成功させた偉大な先輩達の力を……
果たして、どれだけ待っただろう。私が顔を向けると、彼は驚いたような顔で固まっていたが、徐々に表情はそのままに、色だけが赤に変わっていった。
そうして紡がれた答えに
「僕も、中学から、ずっと先輩が好きでした」
卒業式でも流さなかった涙を流すほど、嬉しいものだった。
「ホント…に?」
「は、はい。というか、先輩が僕のことを覚えていたなんて、びっくりでしたよ」
「そ、それは…お互い様だよ」
「ふふっ…そうですね」
私は今日卒業した。高校からも、片想いだった自分からも。
3月は出会いと別れの季節と、誰かがいった。ただしそれは、自分との『出会い』と『別れ』でもあるらしい。
いつもなら不快感を覚え、思わず顔を顰めるのだろうけど、今日ばかりは特別だ。
今日は高校の卒業式。さすがに泣かなかったが、危うく涙を流してしまいそうになったことは式中に多々あった。
小中と合わせこれが3度目の卒業。慣れているとはいえ、やはり寂しいものは寂しい。
友達と、恩師と、後輩と……
私達は別れ、就職にしろ進学にしろ、新しい環境で頑張らねばならない。そこで新しく友人と呼べる人もできるだろう。だからこそ、今ここで、別れを惜しむのだ。
そういえば、あの子ともさらに離れるのか……
あの子とは言っても1つ下の男子だが。
彼のことは中学で初めて知った。学園祭の係が一緒だったのだ。別に大した活躍をした訳ではない。かなりのイケメンという訳でもない。
ただ、準備期間中に数回喋った程度だった。それだけ。本当にそれだけで私は落ちてしまった。それからは彼の姿を見る度に頬が緩むのを必死に我慢した。勿論、中学の卒業式でもこんな思考をした。
だから、高校2年目の入学式で彼の名前が呼ばれた時は、聞き間違いではないかとも思った。
また彼と一緒の学校に通える。そう思うと、2年前にこの高校にした自分を、思いっきり褒めてあげたかった。
けれども、私は彼に一切話しかけたりはしなかった。彼からもそんな素振りはなかった。当たり前だろう。ほとんど面識なんてないのだから。
あ、彼だ。玄関前に他の男子生徒とスタンバイしている。部活の先輩に渡す物でもあるのだろうか。
ともかく、これっきり彼を見られることは無いだろう。しっかりと目に焼き付けておこう……
「あ、ねえ!あれってあんたのお気に入りの子じゃない?」
「ホントだ!ねえ!告白しちゃいなよ!」
「じょ、冗談でしょ?いくらなんでも唐突過ぎ」
「でも、もうチャンスないよ?」
「そうそう!どうせ卒業だしさ!」
「でも……」
考えなかった訳では無い。けど、どうやって話しかけるかも、なんて告白するかも、全く考えつかなかった。
「あたしたちがキッカケつくったげるからさ!」
「任せんさいな」
「……じゃあ、最後のワガママ、聞いてくれる?」
「「もちろん」」
「ねえキミ~写真撮ってくれないかな?」
「僕ですか?」
「そうそう!」
「ここをバックに、3人でとりたいんだけど、いいかな?」
「はい。いいですよ」
少々強引ではあるけど、快く了承してくれた。
その後写真を2、3枚ほど撮ると、彼は写真を見せに近寄ってきた。
「こんなカンジなんですけど……」
「……うん、ありがとう」
2人に確認をしようとすると、既に2人の姿はなくなっていた。
私が慌てていると、
「あれ?2人はどこに行ったんですかね……」
彼も気づいたようで、頻りに辺りを見回しながらあれ~?と言っている。
私は漸く覚悟を決め、
「あの、さ」
彼に打ち明ける
「私ね、ずっと」
顔が真っ赤になっているのがわかる
「中学から、ずっと」
それでも
「キミのことが」
「好きでした」
漫画において、告白シーンのことごとくがイベントの最中、または直後なのかがわかった。この一言を云う為に、イベントの力を借りようとしているのだ。または、そのように告白して、成功させた偉大な先輩達の力を……
果たして、どれだけ待っただろう。私が顔を向けると、彼は驚いたような顔で固まっていたが、徐々に表情はそのままに、色だけが赤に変わっていった。
そうして紡がれた答えに
「僕も、中学から、ずっと先輩が好きでした」
卒業式でも流さなかった涙を流すほど、嬉しいものだった。
「ホント…に?」
「は、はい。というか、先輩が僕のことを覚えていたなんて、びっくりでしたよ」
「そ、それは…お互い様だよ」
「ふふっ…そうですね」
私は今日卒業した。高校からも、片想いだった自分からも。
3月は出会いと別れの季節と、誰かがいった。ただしそれは、自分との『出会い』と『別れ』でもあるらしい。
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