イロトリドリ

宝。

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if童話

もしも桃太郎が……陸

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悪戯っぽく歪められた口許から飛び出した言葉の真意を問う前に、彼女はこっちだとだけ言って脇目も振らずに歩いてゆく。こちらとしては他に頼るものもないので、黙って後に続く。
歩く度に揺れる髪の尾が右に左にと幾度もその先を変え、何故か光溢れる洞窟の奥へ奥へと進んで行く。
その後ろ姿に、えもいわれぬ懐かしさを感じた。
そんなはずはない。だが、この胸を強烈に締めつけるなにかがあるのもまた事実。思わず直垂ひたたれの上から自分の胸を押さえてしまっていた。
直後、眼前の鬼が振り返り
「見えてきたぞ、あれが……」
私の家だと続くハズだったそれは、しかし途中で途切れてしまった。代わりに気遣わしげに
「大丈夫か……?」
と続いた言葉に
「あ、ああ……何も無い、気にしないでくれ」
「そうか?」
未だ心配なのだろう。しかし、今も着いてきている私の子分たちは全く気づかなかったというのに、どれほど心の機微に敏感なのだろうか。
「それよりも、見えてきたとは?」
「ああ、あれが私の家─頭領府・主客しゅかく─だ」
なるほど確かに他の家々よりも遥かに大きく、豪奢なつくりだ。
再び歩きだした椿についてその丹塗にぬりの門を潜る。門番の鬼に止められるかと思いきや、半分は値踏み、もう半分は冷やかしの視線を送られただけだった。
果たしてここが本当にあの恐ろしい鬼、それもその頂点の棲む所なのかと、どこへ目を向けても立派な造りの建物─頭領府・主客─が何度も何度も疑わせる。その度にすれ違う鬼達やその鬼達に頭を下げられる椿─正確にはその角─をみては自分達の今置かれている状況を再認識した。
この様子だと椿はかなり位が高いらしい……まあここに住んでいると言っていたしな。
「ここだ」
急に立ち止まり、1つの部屋を指す椿
「ここが、なんだ?」
「ここに頭領府、ひいては鬼ヶ島全てを統治する''頭領''がいる」
続く言葉には流石に絶句してしまった。
「紹介しよう、私の父だ」
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