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就活成功させて亡命しよう!

列車の旅

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 ガタン、ゴトン。
 レールの継ぎ目を列車の車輪が通過するたびに響く小気味良いリズムを刻む音。
 そして列車の振動。
 これが合わさると、どうにも眠たくなってくる。

 しかし、流石にミヒャエルと二人旅の今、彼の前で寝顔を無防備に晒すのも躊躇われ。

 「ミヒャエル、おやつ食べる? 列車の中で食べようと思って作ってきたの」
 ……列車の旅には赤いネットに入った冷凍みかん……なんて言ったら元の年齢がバレそうだけど。
 せめて新幹線のカチコチアイスと言うべき?

 いや、私が作ってきたのは列車の中でも気軽に食べられそうな――

 「……これは?」
 箱に詰められているのはレンガ状に敷き詰められた茶色い物体。

 本体は茶、と言うより黒に近い焦げ茶色、その周りに似た色の粉がたっぷりついている。
 それをピックで刺していただく仕様だ。
 魔導具の力で程よく冷えたそのお菓子を不思議そうにミヒャエルが口に運ぶと……

 「何これ、ほろ苦くて甘すぎない……。食感も不思議だ。柔らかくて……口の中で溶けていく感覚が、すぐに次を口に入れたくなる」

 言いながら実際に手にしたピックは既に次の一切れに伸びている。

 「これは生チョコです」

 生クリームを使ってその独特の食感を楽しむお菓子だ。
 ただし……

 「あれ、さっきのと味が違う……?」
 「はい、プレーンのもありますが、いちごとキャラメル、コーヒー、ミルクと幾つか味を変えた中身を仕込みましたから。
 味は食べてみるまで私も分からない仕様です」

 ただこれ、食べていると喉が渇くのよ。
 美味しいんだけどね?
 お茶は必須だと思うのよ。
 だから……

 「こちら、アールグレイのオレンジフレーバーティーです」
 チョコレートにはやっぱり柑橘類が合う。

 ……それにしても。

 陽のあたる列車の窓辺で優雅にお茶を嗜みながら生チョコを味わうイケメン、って。
 流石に見慣れた顔だけあって耐性はついているけど、結構攻撃力高めな眺めである。

 今更ながらだけど、ミヒャエルってちょっとお伽噺の王子様みたいな見た目してるのよね。
 ……一応私もジークリンデ様の婚約者の一応身分は本物王子を見た事あるけど。
 確かにあれも乙女ゲームの攻略対象だけあってルックスは良かったけど、本当に見た目だけが取り柄で他はマイナス部分しかない男だったからなぁ。

 その点ミヒャエルは、荒唐無稽な私の話にも付き合ってくれているんだから。

 「うん、チョコを口に入れた後にこのお茶を飲むとほろ苦さにを酸味が程よく緩和してくれる。その後にまたチョコを口に入れると苦味の中の甘香りが際立つ様な……。
 うん、美味しい。これは本当に手が止まらなくなるな」

 「気に入ってもらえて嬉しいです。
 でも、食べ過ぎには気をつけてくださいね。
 あと、夜に取っておいて寝る前に食べようとはしないで下さいね?
 ニキビの原因になるので」

 男のくせに羨ましいくらいキレイな肌、その美麗なお顔にニキビとか……。
 その原因が私の作ったお菓子とか……。

 うん、罪悪感がヒシヒシと……。

 「うん、分かったよ。
 それに……チョコも気に入ったけど、僕が本当に欲しいと思うのはお菓子じゃなくて、君自身だからね、フィリーネ?」
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