ざまぁ系ヒロインに転生したけど、悪役令嬢と仲良くなったので、隣国に亡命して健全生活目指します！

乙女ゲームからエスケープ！ 留学します！

ダイエット講座【準備】

　この学校、必修科目でも選択科目でもそれぞれＨＲとは別の教室で行われるため、教室の数はある。
　そのため、毎時間全ての教室が埋まる……という事もなく。

　故に、その時間に使われず空きとなっている教室については、事前申請をしそれが通れば誰もが好きに使える。
　無論周囲の教室で行われる授業に支障をきたさない範囲内で、次にその教室で行われる授業にも影響の無いもの、という前提条件はあるが。

　ましてや通常授業のない週末なら、大半の教室が空いているので申請も通りやすい。

　だからフィリーネも最初は小教室を借りるつもりで申請書を作成していたのだが。
　口コミウワサが広まり、あれよあれよという間に参加希望者が殺到、小教室の席数では足りなくなり、やむを得ず中教室での講義をする羽目になった。

　……こうなると、少教室でなら要らなかった配慮が必要になってくる。

　黒板の内容を後ろの席でも見易い様に板書も工夫する必要があるし、資料もそれに合わせて複数作成しなければならない。

　幸いなのが、セイントランド聖国には存在しなかったコピー機が、このフライハイト王国には魔導具としてその類似品が存在する事。
　流石にパソコンでパワポ……なんてのは無理だけど、全て手書きで作らねばならない悪夢は免れた。

　フィリーネの前世は飲食店の雇われ店長であって、営業職のやるようなプレゼン経験などはない。
　が、一応大学時代のレポートや論文作成の経験はある。

　そして今回の講義内容はフィリーネにとって……いや、前世の井の頭桜にとっての十八番。
　今回限りという話だし、深くまでは掘り下げず、掴みの部分だけ、ならなんとかなる……かな？
　誤解を与える情報だけには気をつけないと。

　たまに居るのよ、「健康に良い」と聞いて馬鹿の一つ覚えにそれを盲信しちゃう人。
　過ぎたるは及ばざるが如しって言葉を徹底的に周知しないとね。

　「それはそうと……、ごめんミヒャエル、貴重な放課後に手伝いなんかさせて」

　資料の量産はコピー機がやってくれるとはいえ、それらを纏めてホチキス止めの作業は人力だ。
　山と積まれた紙をひたすらひたすら、淡々とホチキス止めをしていくだけの極々単調な作業の繰り返し……

　前世ならBGM代わりにテレビをつけたり、代わりと言わずBGMを流したり、ながら作業向きの娯楽があったけど、流石にフライハイト王国といえどテレビは存在せず。
　BGMも基本は楽団や芸人を呼んで演奏して貰うもの。
　よって、静寂の中をただ黙々と……

　と、なれば動かす手以外は暇を持て余すわけだ。

　「それにしても。フィリーネの料理の腕は知っていたけど、こんな知識があったなんて知らなかったよ」

　そんな中で、ミヒャエルが資料を眺めて言った。

　「まぁ、ね。フィリーネとしての知識じゃないからね」

　いや、この世界特有の文化や文明に落とし込むのにこの世界の知識も使ってはいる。
　主に食材やら調理道具とか、ね。
　魔導具が存在する世界とはいえ、オーブンはあっても流石に電子レンジは無い、とか。
　そんな事は当たり前にある訳で。

　でもやっぱり主な知識は前世のもの。

　「これが、君の前世とやらの知識、か……」

　「これが桜の專門だったから。他にも色々技術の発達した世界ではあったけど、專門外の事はほぼ分からないからね？
　私のムラッ気チートぶりからもそれは分かるでしょ？」

　「かもしれないけど。
　これは……化けるかもしれないよ？」