ざまぁ系ヒロインに転生したけど、悪役令嬢と仲良くなったので、隣国に亡命して健全生活目指します！

乙女ゲームからエスケープ！ 留学します！

体験授業【商学基礎】

　「はぁ、エライ目に合った……」
　あの、某魔法学校に通う子達がやるほうきに乗ってやるスポーツ、あれを楽しめる神経がマジ分からなくなる程、ワイバーンでの空の旅は恐ろしかった。

　私とて飛行機に乗った経験くらいある。

　けど、頑丈な鉄の壁に守られた安全で暖かな部屋の中でのんびり座って旅するのと、気球に下げられた籠みたいな装備で戦闘機のアクロバット飛行を経験するのとではやはり訳が違うと思うんだ。

　絶叫マシンみたいな安全ベルト的な物もなく振り回されるんだから、恥も外聞もなく手すりにしがみついたよね。

　地上に降りた時には涙と鼻水でとても人に見せられない顔だったと思うけど、大半は似たりよったりの状態だったのでお互いなかった事にしようと暗黙の了解が広がった。

　一部、
　「楽しかった。これは是非自分でもやりたい」
　とキラキラしている人も居たけどさ……。

　とにかく、次だ。
　次のために酷い顔面を何とか洗い流し、気を取り直す。

　「次は……商学基礎だね」

　これは、経営学や経済学を学びたいなら一年次に選んで修了しておかなければいけない授業。
　一応日本でも簿記とか勉強してたけど、一応この世界のやり方もしっかり学んでおかないとね。

　やっぱりいつかは自分の店を持ちたい。そう思えば是非習得しておきたいスキルだからね。

　「わぁ、フィリーネさんもこの授業選択するつもりなんだ!?　一緒に頑張ろうね！」
　ニコニコと笑うのはヘレナさん。
　彼女は、大手の商家の娘さんだもんね、そりゃこの授業は彼女に取ったら必須だろう。

　「ようこそ、商いの世界へ。インゴ＝ザイデルだ、よろしく頼むよ」
　ニコニコと愛想笑いを浮かべた、良く言えば人当たりの良さそうな人ではあるが、悪く言えば掴み所のない人。
　それが彼の第一印象で、商人らしい人物がこの授業の担当教師だった。

　「商売人は常々胡散臭いと思われやすい職業です。
　しかし、商人があまりに分かり易い人物であれば商売などとても続けてはいけないでしょう。
　しかし、本当にいい加減な人物では信用第一の商人などやっていけない。
　れっきとした知識と信頼、そして匙加減のセンス。
　ある一定は才能に頼る事の多い職業ですが、ある程度は学び、磨くことで得られるスキルもある。
　そして商売というのは規模も様々ありましてね。
　大きな商いならば、自らの得意不得意をカバーし合えるパートナーとともに商えば良い。
　人の縁は商売に於いて最も重要なものです。
　そこを忘れずに、日々の授業に取り組んで下さい」

　との自己紹介の後、行われたのは――

　「え、体験樹授業なのにさっそくなの!?
　私は実家である程度慣れているとはいえ……」

　「うう、計算、計算、また計算……。
　字が細かくて目が滑る……」

　そう、山と積まれた計算問題。

　「これ、数学の授業じゃないはずだよね？」

　「なに、商売人に算盤術は必須スキルです。

　無くて困る事は山とありますが、あって困ることはまずありえませんから。
　コツコツと下積みから、皆さん頑張りましょうね？」

　うん、まぁ……それは分かるよ？
　一応私も雇われ店長として働いた記憶のある身だ。
　何か特殊スキルが必要な訳じゃないけど、最低限のコミュニケーション能力や、調整能力は必須だし、勿論帳簿とかの机仕事も必要。

　当時の日本じゃ自動のレジでボタンを押せれば誰でも使える便利な物があったりもしたけど、機械である以上は故障もするし、停電でもすれば使えなくなるからやっぱり計算能力は必要。

　でも……、目の前の問題用紙の山は……。
　見ていてうんざりしちゃうのは……仕方ないよね？