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私、ざまぁ系ヒロインに転生してしまったかも……!?

ブートキャンプが……、始まりませんでした。

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 「初めまして――ではありませんが、こうして正式にご挨拶するのは初めてですので、改めて……、私は現フライハイト王国大使のグリム伯爵家の養子で、ミヒャエル=グリムと申します」

 そして、翌日。
 私がよく知るはずのミヒャエルは、貴族の装いがとても良く似合う綺麗な微笑みを浮かべて、侯爵家の玄関へと現れた。

 その微笑みに、義母と義姉は複雑な表情のまま愛想笑いを貼り付けている。
 まぁ、なにせ建前上最低限の国交はあるとはいえ、仮想敵国の貴族。
 しかも彼の外見から明らかに純血の人族ではない。

 男尊女卑思想の他に、人族至上主義思考の者が多いセイントランド聖国。その程度の差こそあれ差別がはびこるこの国で、よりによって仮想敵国の国籍を持つ混血と言う、悪条件を重ねた相手。
 しかし大使の子息とあれば、それが養子だとて建前上は大人の対応をしなければ国際問題になりかねない。

 が、だ。
 例のお茶会の席にはその大人の対応が出来そうにないお子ちゃま婚約者達が参加予定、と。

 うん、トラブルの予感しかしないよね?

 「せ、先生は既にお越しです。まずは顔合わせを、サロンでお茶でも飲みながら……」

 お義母様は使用人に二階の音楽室とホールの支度を命じながら、ミヒャエルを玄関に程近いサロンへ誘った。
 サロンでは、既にカルラ女史がソファでお茶を楽しんでいる。
 教師として来ているだけあって、その様子はとてもきっちりしている。

 私達に気付くと立ち上がり、軽く頭を下げた。
 「奥様、ご無沙汰しております」

 うん、さっき挨拶に出て先生をこの部屋へ案内したのは私とお義姉様だったからね。
 ミヒャエルも本当はそのつもりだったけど、お義母様がミヒャエルの顔がみてみたいと言って一緒に居たんだ。

 「こちらこそ、娘の教育を任せっぱなしで申し訳ないですわ。今回も急な話で無理を言ってしまって……。その分お礼ははずませてもらうわ。よろしくお願い致しますわね」

 「はい、奥様。かしこまりましてございますわ」

 体罰上等の先生も、屋敷の女主相手にはしおらしい。
 「では、そちらの殿方が……?」
 しかし、ミヒャエルに向ける視線にはほのかに侮蔑の色が混じっている。

 これに関してはこの先生が、と言うよりこの国の人間のデフォルト的リアクションだろう。

 「初めてお目にかかります、ミヒャエル=グリムと申します。本日はフィリーネ嬢共々よろしくお願いします」

 そして侍女の淹れたお茶を一杯飲んで、私達は階段を上がったすぐ目の前にあるホールへと移動する。
 隣の音楽室にはグランドピアノが置かれていて、既にうちのお抱えのピアニストが準備万端で待機している。

 ちなみにお義姉様の相手はお義姉様専属の執事だ。
 彼はこの侯爵家に代々仕える執事の家系の子爵令息だそうで、一応貴族の嗜みは一通り身に付けている。

 「では、早速。まずは現状の出来栄えを確認させて下さいませ。では、音楽を!」

 「では、フィリーネ嬢、お手をどうぞ」
 「……足を思いっ切り踏み付けても文句いわないでよ」
 「ふふ、踏めるものなら踏んでごらん?」
 「言ったわね……?」

 こそこそ話していると、ぽろろん、と軽快なワルツが流れ始める。
 「はい、ワン・ツー・スリー、ワン・ツー・スリー!」
 それに合わせて先生が手拍子で三拍子を刻み出す。
 タイミングを見計らったようにスッとミヒャエルにリードされ、自然とステップを踏み出していた。

 いつもは先生の足を踏んでしまわないよう、しかしあまりちらちらと下ばかり気にしていてもそれはそれで叱られるし、その傍ら聞こえてくる音楽に遅れないよう気をつけなくてはいけなくて、ただただ気疲れする。
 それがフィリーネにとっての社交ダンスだったはずなのだけど。

 「あれ、嘘、私踊れてる……?」
 「だから言ったでしょ、ダンスなんてパートナーの腕前次第だって」

 覚えたステップを間違えない様必死になぞる必要もなく、自然に足が動く。
 いつもあれだけ長く感じる一曲が、気づけばあっと言う間に終わっていて。

 「……良いでしょう、もう二、三曲続けて踊ってみなさい」

 先生は少し面白くなさそうではあったけど。
 ……私もちょっと悔しかったけど。
 ま、ブートキャンプの予定が消えてなくなった代償と思えば……まぁ安いものか。
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