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異世界へ

トラウマの原点

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    それを確信したとき、私は記憶の底に封じていた悪夢が甦るのを止めることができなかった。
    父の暴力や暴言。それを庇うどころか自分がそうされないように生け贄として差し出した母の、『なんでお前は女として生まれてきたんだ、男なら良かったのに』と罵る言葉。そんな両親に倣い私を虐げる弟。……歳の差故の体格差でやり返せば私だけが怒鳴られ殴られ、弟は無罪放免。……弟が増長し、より酷い仕打ちを受けるようになっても、両親はむしろ喜んで『もっとやれ』と囃し立てた。
    だから私は高校卒業と同時に逃げるように家を出て、それきり一度も実家には帰らなかった。
    ――当時は学校でも大変だった事もあって、この家に良い思い出なんか一つもない。
    それを振り切るために一生懸命バイトで小金を稼いで必死に勉強して資格を取って働いて。悪夢から逃れたつもりだったのに、どうしてまた私の前にこんな形で立ちふさがるんだろう。
    ……寒くもないのに、身体が小刻みに震える。
    だけど、こんな風に弱ってる暇はないんだ。この家の事は、この三人の中で私が一番良く知ってるんだ。
    「――家捜ししましょう、何かもっと手掛かりが掴めるかもしれない」
    電気ガス水道は死んでるし、時間の経過で劣化している感じはするけど、特に荒らされた様子はないから、私達の前に家捜ししようとした輩も居なかったんじゃなかろうか。
    私はまずは母親が良く通帳などを入れていた引き出しを開けてみる。
    ――通帳は、ウチの近所にあったメガバンクの物がそのまま入ってた。
    六桁後半の数字が印字されている。最後の取引の印字の日付は、私が異世界召喚されたあの酉の市の日から五年前の三月二十五日。名目は父親の勤める会社からの給与振り込みだ。
    それまでは一月に公共料金の引き落としや振り込みなどの取引記録が印字されているのに、それ以降は真っ白のまま。
    ……あの弟が、こんな詳細に父親の給与額や公共料金の支払い額なんて覚えていない――というか気にすらしてないだろう。これはこの家が記憶の再現的なモノでは無いという証拠でもあった。
    身一つで召喚された私と違って弟はどうやら家ごと飛ばされてきたらしい。
    ここにはそれ以上めぼしい物はなかったので、次に夫婦の寝室に狙いを定め、二階へ戻る。
    「……顔色があまり優れない様ですが、大丈夫ですか?」
    「頑張らなきゃいけないのは確かだけど、無理のし過ぎはダメだよ?   倒れたりとかしたら元も子もないんだからね?」
    「……ありがとう。もう少し頑張るよ」
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