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異世界へ
お約束には注意しましょう。
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旅はあまりに平和で順調だった。
ごくたまに狼や猪みたいな獣が出るけど、そんなの和貴達にとっては敵のうちに入らない。
あの世界での旅路が過酷だったせいで、私もその程度じゃ動じなくなっていた。
何しろ魔物が出ない。商隊の者の雑談を聞く限り、猛獣や害獣、賊の噂は次々出てくるけれど、魔物らしい特徴を持ったものの話は一向に出てこない。
そしてこの世界の者は、和貴達の世界ではあり得ない便利な道具を色々持って使っていた。
その筆頭は例の三輪バイクだけど、火をつけるのに使うライターみたいなのとか、火を使わないライトとか。……日本を筆頭に私の世界じゃ似たような道具はあるから珍しいとは思わないけど、科学とは明らかに違う原理で動いているそれらを動かすエネルギーを、彼らはマナと呼ぶ。
地球で一番多く使われているエネルギーは電気だろうが、それを作るのに使われるエネルギーは石油燃料だったり自然エネルギーだったりするし、乗り物を動かすのに主に使われるのも石油燃料。他にもガスとか石炭とか様々な種類のエネルギーがある私の世界と違って、この世界のエネルギーはほぼ全てマナで賄われていた。
そして、和貴達とちがって自らマナを操り魔法を使える者は居ないらしい。
代わりに、私の世界にあるような道具やその仕組みをマナを利用した魔法で再現したみたいな道具が沢山あった。
道具の開発・販売は民間企業がそれぞれ競合しながらやってるようだけど、肝心のマナエネルギーは完全に国家権力が握っていて、普段は高騰を抑え定価で売るなどメリットがあると思っていたら、突然のエネルギー不足に混乱して、今はどこでも混乱中か混乱寸前状態らしい。
その影響が及んでいるせいかはまだ定かではないけれど、各地で獣の害も増えているらしい。
マナ不足の動物への影響。
「……魔物、出るかもしれないね」
「ああ。獣しか出ねぇと安易に油断してると痛い目に遭いそうだな」
「けど、気を付けてね? 下手に力使うと色々面倒な事になりかねないから」
「ああ……」
――なんて、そんな会話をしたせいでフラグを立ててしまったんだろうか。
明日には王都、という所で宿をとった。
雇い主の商人の主人は一人部屋、下っぱは大部屋。
私達は荷物番として馬車で寝る事になった。
……うん。まあそれこそ今更だよね。
って事で見張り番の順番を決めてさっさと眠りについたのに。
深夜、事件は起きた。
「起きてください、何か様子が変です!」
声を上げたのはその時見張り番に就いてた嶺仙だった。和貴達は即座に飛び起き、私もまだ眠い目を擦りながらふらふらと車から顔を出した。
街灯の灯りこそあるけれど、家の灯りは消えて暗い街の中、見る限りは異変など何もない。
だが気のせいだろうか?
微かにキチキチキチキチと聞こえてくるのは。
これ、アレに似てる。一時期土産物屋なんかでみた、笑うマスコットキャラのついたペン。バネ仕掛けのスイッチを押し下げると、キャラキャラキチキチ笑うアレ。イルカもシャチもオットセイも皆同じ笑い声を発する、アレ。
あの声に似たキチキチいう音が何重にも重なって聞こえる。
……暗闇で何も見えないのにキチキチ聞こえてくるのって、もうコレ完全にホラーでしょ!?
けど。それは程なくして正体を現した。
ずんぐりむっくりした短足凶悪面のカピバラ擬き。
それが道いっぱい埋め尽くすほどの数がうじゃうじゃと迫ってくる様は、ホラーから一転、パニック映画の様相を呈する。
人目が無いのを確認し、まず影家が茨で凪ぎ払う。
――これまで幾度か戦ってきたこの世界の獣は、ごく当たり前に遺体を残して事切れ、故に戦闘後はそれなりに後始末をする必要があった……はずだが。
それはドロリと見覚えのあるタールを撒き散らした。
「……本当に出たか、魔物が」
ああ。何て事。さぁて、どうするべきかね?
ごくたまに狼や猪みたいな獣が出るけど、そんなの和貴達にとっては敵のうちに入らない。
あの世界での旅路が過酷だったせいで、私もその程度じゃ動じなくなっていた。
何しろ魔物が出ない。商隊の者の雑談を聞く限り、猛獣や害獣、賊の噂は次々出てくるけれど、魔物らしい特徴を持ったものの話は一向に出てこない。
そしてこの世界の者は、和貴達の世界ではあり得ない便利な道具を色々持って使っていた。
その筆頭は例の三輪バイクだけど、火をつけるのに使うライターみたいなのとか、火を使わないライトとか。……日本を筆頭に私の世界じゃ似たような道具はあるから珍しいとは思わないけど、科学とは明らかに違う原理で動いているそれらを動かすエネルギーを、彼らはマナと呼ぶ。
地球で一番多く使われているエネルギーは電気だろうが、それを作るのに使われるエネルギーは石油燃料だったり自然エネルギーだったりするし、乗り物を動かすのに主に使われるのも石油燃料。他にもガスとか石炭とか様々な種類のエネルギーがある私の世界と違って、この世界のエネルギーはほぼ全てマナで賄われていた。
そして、和貴達とちがって自らマナを操り魔法を使える者は居ないらしい。
代わりに、私の世界にあるような道具やその仕組みをマナを利用した魔法で再現したみたいな道具が沢山あった。
道具の開発・販売は民間企業がそれぞれ競合しながらやってるようだけど、肝心のマナエネルギーは完全に国家権力が握っていて、普段は高騰を抑え定価で売るなどメリットがあると思っていたら、突然のエネルギー不足に混乱して、今はどこでも混乱中か混乱寸前状態らしい。
その影響が及んでいるせいかはまだ定かではないけれど、各地で獣の害も増えているらしい。
マナ不足の動物への影響。
「……魔物、出るかもしれないね」
「ああ。獣しか出ねぇと安易に油断してると痛い目に遭いそうだな」
「けど、気を付けてね? 下手に力使うと色々面倒な事になりかねないから」
「ああ……」
――なんて、そんな会話をしたせいでフラグを立ててしまったんだろうか。
明日には王都、という所で宿をとった。
雇い主の商人の主人は一人部屋、下っぱは大部屋。
私達は荷物番として馬車で寝る事になった。
……うん。まあそれこそ今更だよね。
って事で見張り番の順番を決めてさっさと眠りについたのに。
深夜、事件は起きた。
「起きてください、何か様子が変です!」
声を上げたのはその時見張り番に就いてた嶺仙だった。和貴達は即座に飛び起き、私もまだ眠い目を擦りながらふらふらと車から顔を出した。
街灯の灯りこそあるけれど、家の灯りは消えて暗い街の中、見る限りは異変など何もない。
だが気のせいだろうか?
微かにキチキチキチキチと聞こえてくるのは。
これ、アレに似てる。一時期土産物屋なんかでみた、笑うマスコットキャラのついたペン。バネ仕掛けのスイッチを押し下げると、キャラキャラキチキチ笑うアレ。イルカもシャチもオットセイも皆同じ笑い声を発する、アレ。
あの声に似たキチキチいう音が何重にも重なって聞こえる。
……暗闇で何も見えないのにキチキチ聞こえてくるのって、もうコレ完全にホラーでしょ!?
けど。それは程なくして正体を現した。
ずんぐりむっくりした短足凶悪面のカピバラ擬き。
それが道いっぱい埋め尽くすほどの数がうじゃうじゃと迫ってくる様は、ホラーから一転、パニック映画の様相を呈する。
人目が無いのを確認し、まず影家が茨で凪ぎ払う。
――これまで幾度か戦ってきたこの世界の獣は、ごく当たり前に遺体を残して事切れ、故に戦闘後はそれなりに後始末をする必要があった……はずだが。
それはドロリと見覚えのあるタールを撒き散らした。
「……本当に出たか、魔物が」
ああ。何て事。さぁて、どうするべきかね?
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