上 下
49 / 66
異世界へ

無自覚な想い

しおりを挟む
    ……そうじゃないかとは、薄々思ってたけどね。
   「――やはり、政府機関を探る必要がありそうですね」
   「うわ、この人数だけで?」
   「後方支援なしの隠密か。……難しいな」
   「しかし、やらなければ我らの仕事は全て水の泡、元の木阿弥になりますぞ」
   「……取り敢えず王都まで行こっか。それからまた情報収集……かな」
    と、まずはそれだけ決めたら今晩はもう寝ることにした。
    まだ得られた情報は少ないし、これ以上議論する議題も無い。
    「一応、念のため廊下側の寝台は俺と嶺仙、窓側に幸守と影家。お前は真ん中な。どっちに寝るかは好きにしろ」
    ……案内された部屋は六人部屋だから、寝台は一つ余る。
    和貴と幸守、嶺仙と影家とで別れた寝台の、私は和貴と幸守と並ぶ側のベッドを選んで寝転がった。
    ……ベッドは当然それぞれ独立してはいるけど、寝起きに綺麗過ぎる嶺仙の顔や影家の顔を見るよりはまだこちらの方が精神的負担が少ない気がするから。
    血を四人分も吸わせたからか、それともやっぱり必要以上に気を張っていたのか、横になった体は一気に重くなり、もうそこから離れたくなくなって。
    そのまま意識は眠りの中へと落ちていった。
    「……おいおい、即寝かよ。こいつ男が嫌いと言いながら無防備過ぎねぇか?」
    「疲れていたのでしょう。今日は確かに彼女の助けがなければこうも順調に事は運ばなかったはずです」
    「それに。それだけ信頼してくれるようになったって事でしょ?    良い事じゃない」
   「良い意味で異性として意識されなくなったのではないかな?」
   「……それもそれで何か複雑だ」
   「そう?    ずっと警戒されてたからちょっと嬉しいけどな」
   「私達と彼女の関係はあくまで勇者とその守役です。もう少し踏み込むなら戦友でしょう。男女の関係は必要無いのですから、我々が自制すれば良いのです」
   「ねぇ、和貴。さっきの血の吸い方にも思ったんだけど……。もしかしてアオイを女の子として見てない?」
   「は、はぁ!?」
    影家の問いの含みに気付いた和貴は思わず声をあげた。
   「いやいやいや、そりゃ最初の頃に比べりゃ可愛くもなったが、さっきだって俺達を嬉々として見世物にしやがった奴だぞ?」
    と、慌てて反論するが、言いながらその言い訳にまず自分が納得しきれていないのに気付いて更に慌てる。
   「は……。まさか、俺が……?」
    確かに自分で言った通り、出会った当初よりは好感度も上がっていたとは思うが。
    それでも恋愛対象として見ていたつもりは全く無い。
    ……が、その一方で大勢居る部下と言う名の戦友――勿論女隊員も居る――と同じに思えるか、と言われれば違うと答えるしかない。
    「……う、嘘だろ?」
    和貴はぽろりと弱りきった様に小さく呟いた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

人質姫と忘れんぼ王子

雪野 結莉
恋愛
何故か、同じ親から生まれた姉妹のはずなのに、第二王女の私は冷遇され、第一王女のお姉様ばかりが可愛がられる。 やりたいことすらやらせてもらえず、諦めた人生を送っていたが、戦争に負けてお金の為に私は売られることとなった。 お姉様は悠々と今まで通りの生活を送るのに…。 初めて投稿します。 書きたいシーンがあり、そのために書き始めました。 初めての投稿のため、何度も改稿するかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。 小説家になろう様にも掲載しております。 読んでくださった方が、表紙を作ってくださいました。 新○文庫風に作ったそうです。 気に入っています(╹◡╹)

果たされなかった約束

家紋武範
恋愛
 子爵家の次男と伯爵の妾の娘の恋。貴族の血筋と言えども不遇な二人は将来を誓い合う。  しかし、ヒロインの妹は伯爵の正妻の子であり、伯爵のご令嗣さま。その妹は優しき主人公に密かに心奪われており、結婚したいと思っていた。  このままでは結婚させられてしまうと主人公はヒロインに他領に逃げようと言うのだが、ヒロインは妹を裏切れないから妹と結婚して欲しいと身を引く。  怒った主人公は、この姉妹に復讐を誓うのであった。 ※サディスティックな内容が含まれます。苦手なかたはご注意ください。

脅迫して意中の相手と一夜を共にしたところ、逆にとっ捕まった挙げ句に逃げられなくなりました。

石河 翠
恋愛
失恋した女騎士のミリセントは、不眠症に陥っていた。 ある日彼女は、お気に入りの毛布によく似た大型犬を見かけ、偶然隠れ家的酒場を発見する。お目当てのわんこには出会えないものの、話の合う店長との時間は、彼女の心を少しずつ癒していく。 そんなある日、ミリセントは酒場からの帰り道、元カレから復縁を求められる。きっぱりと断るものの、引き下がらない元カレ。大好きな店長さんを巻き込むわけにはいかないと、ミリセントは覚悟を決める。実は店長さんにはとある秘密があって……。 真っ直ぐでちょっと思い込みの激しいヒロインと、わんこ系と見せかけて実は用意周到で腹黒なヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:4274932)をお借りしております。

大好きだけど、結婚はできません!〜強面彼氏に強引に溺愛されて、困っています〜

楠結衣
恋愛
冷たい川に落ちてしまったリス獣人のミーナは、薄れゆく意識の中、水中を飛ぶような速さで泳いできた一人の青年に助け出される。 ミーナを助けてくれた鍛冶屋のリュークは、鋭く睨むワイルドな人で。思わず身をすくませたけど、見た目と違って優しいリュークに次第に心惹かれていく。 さらに結婚を前提の告白をされてしまうのだけど、リュークの夢は故郷で鍛冶屋をひらくことだと告げられて。 (リュークのことは好きだけど、彼が住むのは北にある氷の国。寒すぎると冬眠してしまう私には無理!) と断ったのに、なぜか諦めないリュークと期限付きでお試しの恋人に?! 「泊まっていい?」 「今日、泊まってけ」 「俺の故郷で結婚してほしい!」 あまく溺愛してくるリュークに、ミーナの好きの気持ちは加速していく。 やっぱり、氷の国に一緒に行きたい!寒さに慣れると決意したミーナはある行動に出る……。 ミーナの一途な想いの行方は?二人の恋の結末は?! 健気でかわいいリス獣人と、見た目が怖いのに甘々なペンギン獣人の恋物語。 一途で溺愛なハッピーエンドストーリーです。 *小説家になろう様でも掲載しています

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

海の国の物語~その国は人情家の性悪魔女と腹黒出奔王族により再興する~

志野まつこ
恋愛
航路の要所たる母国オーシアンを追われ一度は海のなんでも屋である半商半賊に属した男と、地味顔を世界中の娼婦の化粧技術で絶世の佳人『海の国の黒真珠』と言わしめるほどに彩り波も風も味方に破天荒でえげつない策を弄する魔女のような性悪女による海の国再興譚。 ※ 「船を降りるなら嫁に来い」などと言い出した海の国の王に半商半賊の長の養女で海に関し天賦の才を持つかつての相棒は答える。「よし一年ほど婚約しよう。会食3万、夜会5万、式典10万。功績に応じて臨時手当も支給しろ」 明敏な頭脳に人材、容姿にまで恵まれ後に希代の名君と称される男は絶望的なまでに女の趣味が悪かった。 他サイトにて「わだつみの娘と海の国の物語」のタイトルで公開していますがこちらは時間軸を読みやすく整えた改訂版となります。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

処理中です...