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異世界へ
異世界サバイバル術
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街の様子は大正・昭和初期のレトロな和なのに、行き交う人々の服は着物や袴でもなければ洋服でもない。
ストンとした貫頭衣をまとい、腰に帯のような物を巻き付けるのが男女共にスタンダードな格好らしく、服や帯の色柄やデザインは様々だけど、服の形は大きく外れる事なくだいたい同じ。
だからか、幸いにも既製の服を売る店はすぐに見つかった。……識字率が低いのだろうか、店の看板はどれも文字でなく絵が描かれている。
服屋はすぐ見つかったけど、装飾品を換金出来そうな店はない。
「……なら、物々交換を狙いますか」
私は辺りを見回し、比較的高価そうな服を扱う店を選んで飛び込んだ。
「あの……!」
あえて世間知らずのお嬢様ぶりながら、店の従業員らしい男を上目遣いに見上げた。
「すみません、この宝石と引き換えに服を売って下さいませんか……?」
両手にそっとそれを乗せて見せる。
「……この街への旅の途中に物取りに捕まってしまったのです。隣の彼は義兄で……姉の旦那様なのですが、とてもお強くていらして、すぐに物取りを捕まえて下さったのですが、隠れていた仲間の数が多くて……。彼らに乱暴を働かれることはありませんでしたが、必死で隠していたコレ以外身ぐるみはがされて、この様などこの田舎のものとも知れぬ服一枚置いて逃げてしまって。……せめて服と食料を手に入れないと。せっかく姉に会いに来てくださった義兄にも申し訳ないですし、姉に余計な心配をかけたくなくて……!」
と、哀れを誘うべく渾身の泣き真似を披露する。
――けど、これでほだされてくれる相手かどうか、内心は緊張しまくりである。
……ついでに嶺仙さん、話を合わせてくれると嬉しいな~!
「――私からもお頼みしたい。妻やまだ見ぬ腹の子にこの様な有り様を見せたくないのだ」
お店の人、ちょっと面倒そうな顔はしてたけど、宝石は魅力的だった様で。
「……確かにそっちの兄さんの肌や髪はそこら辺の女が嫉妬しそうなくらい綺麗だもんな。明らかに服が浮いてて違和感あるし。――いいぜ。これだけ上等な品なら服とちょっとの路銀くらいなら用意してやるよ」
よしっ、交渉成立!
「お兄さんありがとう!」
ここは貰うおまけしてとっときのスマイルをあげよう。
こうしてまずは私達二人の衣服と現金を入手した。
……勿論、手に入れた金額の価値はよく分からない。
だから、しばらくは商店の並ぶ通りをただぶらぶらと歩き回って人々の様子をじっくり観察する。
幸い言語チートで話し言葉は分かるから、「あいよ、100エランだよ!」なんて声を聞いたら即座に注目して、どの硬貨をどれだけ払っているか確かめる。
「リンカの実は80、カルンの蜜は120エランだ! 安いよ~!」
なんて売り口上にも耳を傾け品物と値段をだいたい記憶していく。
それをしばらく続けてから、安い衣料品を扱う店で安い服を男物一着、女物一着買い、着替える。
綺麗な服を売り、その代金で安い服を今度は男物二着買って戻る。
……まどろっこしいやり方ではあるけど、貴重な現金はなるべくとっときたいからね。
取り敢えず衣裳問題は解決したけど、まだ懐具合は寒々しい。
「んじゃ、稼がないとね」
だから、私は男達四人を振り返りにっこり笑って言ってやる。
「頑張ってお仕事するのよ?」
ストンとした貫頭衣をまとい、腰に帯のような物を巻き付けるのが男女共にスタンダードな格好らしく、服や帯の色柄やデザインは様々だけど、服の形は大きく外れる事なくだいたい同じ。
だからか、幸いにも既製の服を売る店はすぐに見つかった。……識字率が低いのだろうか、店の看板はどれも文字でなく絵が描かれている。
服屋はすぐ見つかったけど、装飾品を換金出来そうな店はない。
「……なら、物々交換を狙いますか」
私は辺りを見回し、比較的高価そうな服を扱う店を選んで飛び込んだ。
「あの……!」
あえて世間知らずのお嬢様ぶりながら、店の従業員らしい男を上目遣いに見上げた。
「すみません、この宝石と引き換えに服を売って下さいませんか……?」
両手にそっとそれを乗せて見せる。
「……この街への旅の途中に物取りに捕まってしまったのです。隣の彼は義兄で……姉の旦那様なのですが、とてもお強くていらして、すぐに物取りを捕まえて下さったのですが、隠れていた仲間の数が多くて……。彼らに乱暴を働かれることはありませんでしたが、必死で隠していたコレ以外身ぐるみはがされて、この様などこの田舎のものとも知れぬ服一枚置いて逃げてしまって。……せめて服と食料を手に入れないと。せっかく姉に会いに来てくださった義兄にも申し訳ないですし、姉に余計な心配をかけたくなくて……!」
と、哀れを誘うべく渾身の泣き真似を披露する。
――けど、これでほだされてくれる相手かどうか、内心は緊張しまくりである。
……ついでに嶺仙さん、話を合わせてくれると嬉しいな~!
「――私からもお頼みしたい。妻やまだ見ぬ腹の子にこの様な有り様を見せたくないのだ」
お店の人、ちょっと面倒そうな顔はしてたけど、宝石は魅力的だった様で。
「……確かにそっちの兄さんの肌や髪はそこら辺の女が嫉妬しそうなくらい綺麗だもんな。明らかに服が浮いてて違和感あるし。――いいぜ。これだけ上等な品なら服とちょっとの路銀くらいなら用意してやるよ」
よしっ、交渉成立!
「お兄さんありがとう!」
ここは貰うおまけしてとっときのスマイルをあげよう。
こうしてまずは私達二人の衣服と現金を入手した。
……勿論、手に入れた金額の価値はよく分からない。
だから、しばらくは商店の並ぶ通りをただぶらぶらと歩き回って人々の様子をじっくり観察する。
幸い言語チートで話し言葉は分かるから、「あいよ、100エランだよ!」なんて声を聞いたら即座に注目して、どの硬貨をどれだけ払っているか確かめる。
「リンカの実は80、カルンの蜜は120エランだ! 安いよ~!」
なんて売り口上にも耳を傾け品物と値段をだいたい記憶していく。
それをしばらく続けてから、安い衣料品を扱う店で安い服を男物一着、女物一着買い、着替える。
綺麗な服を売り、その代金で安い服を今度は男物二着買って戻る。
……まどろっこしいやり方ではあるけど、貴重な現金はなるべくとっときたいからね。
取り敢えず衣裳問題は解決したけど、まだ懐具合は寒々しい。
「んじゃ、稼がないとね」
だから、私は男達四人を振り返りにっこり笑って言ってやる。
「頑張ってお仕事するのよ?」
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