上 下
45 / 66
異世界へ

異世界サバイバル術

しおりを挟む
    街の様子は大正・昭和初期のレトロな和なのに、行き交う人々の服は着物や袴でもなければ洋服でもない。
    ストンとした貫頭衣をまとい、腰に帯のような物を巻き付けるのが男女共にスタンダードな格好らしく、服や帯の色柄やデザインは様々だけど、服の形は大きく外れる事なくだいたい同じ。
    だからか、幸いにも既製の服を売る店はすぐに見つかった。……識字率が低いのだろうか、店の看板はどれも文字でなく絵が描かれている。
    服屋はすぐ見つかったけど、装飾品を換金出来そうな店はない。
    「……なら、物々交換を狙いますか」
    私は辺りを見回し、比較的高価そうな服を扱う店を選んで飛び込んだ。
    「あの……!」
    あえて世間知らずのお嬢様ぶりながら、店の従業員らしい男を上目遣いに見上げた。
     「すみません、この宝石と引き換えに服を売って下さいませんか……?」
    両手にそっとそれを乗せて見せる。
    「……この街への旅の途中に物取りに捕まってしまったのです。隣の彼は義兄で……姉の旦那様なのですが、とてもお強くていらして、すぐに物取りを捕まえて下さったのですが、隠れていた仲間の数が多くて……。彼らに乱暴を働かれることはありませんでしたが、必死で隠していたコレ以外身ぐるみはがされて、この様などこの田舎のものとも知れぬ服一枚置いて逃げてしまって。……せめて服と食料を手に入れないと。せっかく姉に会いに来てくださった義兄にも申し訳ないですし、姉に余計な心配をかけたくなくて……!」
    と、哀れを誘うべく渾身の泣き真似を披露する。
    ――けど、これでほだされてくれる相手かどうか、内心は緊張しまくりである。
    ……ついでに嶺仙さん、話を合わせてくれると嬉しいな~!
    「――私からもお頼みしたい。妻やまだ見ぬ腹の子にこの様な有り様を見せたくないのだ」
    お店の人、ちょっと面倒そうな顔はしてたけど、宝石は魅力的だった様で。
   「……確かにそっちの兄さんの肌や髪はそこら辺の女が嫉妬しそうなくらい綺麗だもんな。明らかに服が浮いてて違和感あるし。――いいぜ。これだけ上等な品なら服とちょっとの路銀くらいなら用意してやるよ」
    よしっ、交渉成立!
    「お兄さんありがとう!」
     ここは貰うおまけしてとっときのスマイルをあげよう。
     こうしてまずは私達二人の衣服と現金を入手した。
     ……勿論、手に入れた金額の価値はよく分からない。
     だから、しばらくは商店の並ぶ通りをただぶらぶらと歩き回って人々の様子をじっくり観察する。
    幸い言語チートで話し言葉は分かるから、「あいよ、100エランだよ!」なんて声を聞いたら即座に注目して、どの硬貨をどれだけ払っているか確かめる。
    「リンカの実は80、カルンの蜜は120エランだ!    安いよ~!」
    なんて売り口上にも耳を傾け品物と値段をだいたい記憶していく。
    それをしばらく続けてから、安い衣料品を扱う店で安い服を男物一着、女物一着買い、着替える。
    綺麗な服を売り、その代金で安い服を今度は男物二着買って戻る。
    ……まどろっこしいやり方ではあるけど、貴重な現金はなるべくとっときたいからね。
    取り敢えず衣裳問題は解決したけど、まだ懐具合は寒々しい。
    「んじゃ、稼がないとね」
     だから、私は男達四人を振り返りにっこり笑って言ってやる。
    「頑張ってお仕事するのよ?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

完結 愛人と名乗る女がいる

音爽(ネソウ)
恋愛
ある日、夫の恋人を名乗る女がやってきて……

【完結】記憶を失くした貴方には、わたし達家族は要らないようです

たろ
恋愛
騎士であった夫が突然川に落ちて死んだと聞かされたラフェ。 お腹には赤ちゃんがいることが分かったばかりなのに。 これからどうやって暮らしていけばいいのか…… 子供と二人で何とか頑張って暮らし始めたのに…… そして………

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

【完結】もうやめましょう。あなたが愛しているのはその人です

堀 和三盆
恋愛
「それじゃあ、ちょっと番に会いに行ってくるから。ええと帰りは……7日後、かな…」  申し訳なさそうに眉を下げながら。  でも、どこかいそいそと浮足立った様子でそう言ってくる夫に対し、 「行ってらっしゃい、気を付けて。番さんによろしくね!」  別にどうってことがないような顔をして。そんな夫を元気に送り出すアナリーズ。  獣人であるアナリーズの夫――ジョイが魂の伴侶とも言える番に出会ってしまった以上、この先もアナリーズと夫婦関係を続けるためには、彼がある程度の時間を番の女性と共に過ごす必要があるのだ。 『別に性的な接触は必要ないし、獣人としての本能を抑えるために、番と二人で一定時間楽しく過ごすだけ』 『だから浮気とは違うし、この先も夫婦としてやっていくためにはどうしても必要なこと』  ――そんな説明を受けてからもうずいぶんと経つ。  だから夫のジョイは一カ月に一度、仕事ついでに番の女性と会うために出かけるのだ……妻であるアナリーズをこの家に残して。  夫であるジョイを愛しているから。  必ず自分の元へと帰ってきて欲しいから。  アナリーズはそれを受け入れて、今日も番の元へと向かう夫を送り出す。  顔には飛び切りの笑顔を張り付けて。  夫の背中を見送る度に、自分の内側がズタズタに引き裂かれていく痛みには気付かぬふりをして――――――。 

婚約解消したら後悔しました

せいめ
恋愛
 別に好きな人ができた私は、幼い頃からの婚約者と婚約解消した。  婚約解消したことで、ずっと後悔し続ける令息の話。  ご都合主義です。ゆるい設定です。  誤字脱字お許しください。  

処理中です...