37 / 66
旅は道連れ世は情け
秋黄の国
しおりを挟む
猛吹雪が常で豪雪地帯の冬氷の国と、雨天が常で湿地帯と化していた春茨の国、猛暑に少雨で干上がりかけていた夏火の国と来て。
暑くも寒くもない、程よく涼しい気候。
風に紅葉した木々の葉が舞う、心地よい微風。
湿度もちょうど良い。
これまで過酷な地ばかりを旅してきた私は過ごしやすい環境に体を支管させ目を閉じる。良い感じにお昼寝できそう……だけど……。
「嶺仙」
「彩り豊かな国でしょう? 気候も他国を思えば楽園のごとき国。……ですが、この国で実る作物は皆無。故に獣も育たず魔物さえ植物型のものしか現れません。この国は食料自給率が限りなく0に近いんです」
――秋といえば実りの秋なのに。
でも考えてみれば春に芽吹き夏の間に成長するからこそ秋の実りがあるんだよね。
秋に芽を出して秋のうちに食べられるもの。……うん、あまり思い浮かばないや。
「でもそう言う事ならそれはアレのせいって訳でもないんじゃないの?」
「いいえ、――いえ自給率の低さは確かに元からですが、魔物等が出る以前は他国から仕入れた物を加工し輸出したり観光客のもてなしで栄えた国だったのですよ」
――つまり夏火の国で水路の工事が出来なかったのと似た理由でそれが絶たれ困窮している、と。
「植物の魔物は歩く木という例外を除き移動はしません。」
「つまり今回の敵はトレントオンリーか。――楽勝だな!」
「木はよく燃えますから、確かに和貴の技は相性が良いですね」
「これで一先ずはこの地に平穏が戻るからな。――果たしてなんねんぶりなんだろうなぁ」
「ですが、過去に一度あれを破壊してのけた皇帝一族の祖は、しかしあちらへ出向く前に新しい物を再び寄越されたと記されています。……同じ事を繰り返さぬ為には急がねばなりません」
「今回も頼むぞ、アオイ」
「……ええ」
「どうかしたか、アオイ?」
「え、……いえ。久しぶりに気持ちの良い陽気でつい眠気が……」
「あー、つい昼寝したくなる気持ちは僕も分かるよ。馬車の振動も気持ちいいし」
「ふむ。道程はすこぶる順調でこの調子なら今日の宿泊予定地に早めに着くでしょうし……。しばし休息を挟みましょうか」
「あー、賛成賛成~!」
「確かにこれはこの国じゃなきゃ味わえねー感覚だよな」
「ウチの国もも少し雨が減れば気持ち良い陽気になるんだけどね~」
「――そう遠くない未来にそれは実現するでしょうな。……夏火の国で報告を受けとりました。我が国にて降雪量が目に見えて減ったと」
「……ウチもだね。幸守んとこに比べたらそこまで劇的じゃないけど、たまに晴れ間が見れるようになったって。……多少のタイムラグはあるだろうから、今はもう少し進んだ報告が受け取れるかも」
「さすがにウチはまだだが……それなら近いうちに何か報告が上がってくるんだろうな」
「……ええ。アオイ、どうか我が国もお救いください」
――寄せられる期待が重い。
ねぇ、もし本当にあいつが黒幕だったなら。私は貴方達にどう謝れば良いの……?
暑くも寒くもない、程よく涼しい気候。
風に紅葉した木々の葉が舞う、心地よい微風。
湿度もちょうど良い。
これまで過酷な地ばかりを旅してきた私は過ごしやすい環境に体を支管させ目を閉じる。良い感じにお昼寝できそう……だけど……。
「嶺仙」
「彩り豊かな国でしょう? 気候も他国を思えば楽園のごとき国。……ですが、この国で実る作物は皆無。故に獣も育たず魔物さえ植物型のものしか現れません。この国は食料自給率が限りなく0に近いんです」
――秋といえば実りの秋なのに。
でも考えてみれば春に芽吹き夏の間に成長するからこそ秋の実りがあるんだよね。
秋に芽を出して秋のうちに食べられるもの。……うん、あまり思い浮かばないや。
「でもそう言う事ならそれはアレのせいって訳でもないんじゃないの?」
「いいえ、――いえ自給率の低さは確かに元からですが、魔物等が出る以前は他国から仕入れた物を加工し輸出したり観光客のもてなしで栄えた国だったのですよ」
――つまり夏火の国で水路の工事が出来なかったのと似た理由でそれが絶たれ困窮している、と。
「植物の魔物は歩く木という例外を除き移動はしません。」
「つまり今回の敵はトレントオンリーか。――楽勝だな!」
「木はよく燃えますから、確かに和貴の技は相性が良いですね」
「これで一先ずはこの地に平穏が戻るからな。――果たしてなんねんぶりなんだろうなぁ」
「ですが、過去に一度あれを破壊してのけた皇帝一族の祖は、しかしあちらへ出向く前に新しい物を再び寄越されたと記されています。……同じ事を繰り返さぬ為には急がねばなりません」
「今回も頼むぞ、アオイ」
「……ええ」
「どうかしたか、アオイ?」
「え、……いえ。久しぶりに気持ちの良い陽気でつい眠気が……」
「あー、つい昼寝したくなる気持ちは僕も分かるよ。馬車の振動も気持ちいいし」
「ふむ。道程はすこぶる順調でこの調子なら今日の宿泊予定地に早めに着くでしょうし……。しばし休息を挟みましょうか」
「あー、賛成賛成~!」
「確かにこれはこの国じゃなきゃ味わえねー感覚だよな」
「ウチの国もも少し雨が減れば気持ち良い陽気になるんだけどね~」
「――そう遠くない未来にそれは実現するでしょうな。……夏火の国で報告を受けとりました。我が国にて降雪量が目に見えて減ったと」
「……ウチもだね。幸守んとこに比べたらそこまで劇的じゃないけど、たまに晴れ間が見れるようになったって。……多少のタイムラグはあるだろうから、今はもう少し進んだ報告が受け取れるかも」
「さすがにウチはまだだが……それなら近いうちに何か報告が上がってくるんだろうな」
「……ええ。アオイ、どうか我が国もお救いください」
――寄せられる期待が重い。
ねぇ、もし本当にあいつが黒幕だったなら。私は貴方達にどう謝れば良いの……?
0
お気に入りに追加
231
あなたにおすすめの小説
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
愛するひとの幸せのためなら、涙を隠して身を引いてみせる。それが女というものでございます。殿下、後生ですから私のことを忘れないでくださいませ。
石河 翠
恋愛
プリムローズは、卒業を控えた第二王子ジョシュアに学園の七不思議について尋ねられた。
七不思議には恋愛成就のお呪い的なものも含まれている。きっと好きなひとに告白するつもりなのだ。そう推測したプリムローズは、涙を隠し調査への協力を申し出た。
しかし彼が本当に調べたかったのは、卒業パーティーで王族が婚約を破棄する理由だった。断罪劇はやり返され必ず元サヤにおさまるのに、繰り返される茶番。
実は恒例の断罪劇には、とある真実が隠されていて……。
愛するひとの幸せを望み生贄になることを笑って受け入れたヒロインと、ヒロインのために途絶えた魔術を復活させた一途なヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID25663244)をお借りしております。
何も出来ない妻なので
cyaru
恋愛
王族の護衛騎士エリオナル様と結婚をして8年目。
お義母様を葬送したわたくしは、伯爵家を出ていきます。
「何も出来なくて申し訳ありませんでした」
短い手紙と離縁書を唯一頂いたオルゴールと共に置いて。
※そりゃ離縁してくれ言われるわぃ!っと夫に腹の立つ記述があります。
※チョロインではないので、花畑なお話希望の方は閉じてください
※作者の勝手な設定の為こうではないか、あぁではないかと言う一般的な物とは似て非なると考えて下さい
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
史実などに基づいたものではない事をご理解ください。
※作者都合のご都合主義、創作の話です。至って真面目に書いています。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
前世の記憶を持つ守護聖女は婚約破棄されました。
さざれ石みだれ
恋愛
「カテリーナ。お前との婚約を破棄する!」
王子殿下に婚約破棄を突きつけられたのは、伯爵家次女、薄幸のカテリーナ。
前世で伝説の聖女であった彼女は、王都に対する闇の軍団の攻撃を防いでいた。
侵入しようとする悪霊は、聖女の力によって浄化されているのだ。
王国にとってなくてはならない存在のカテリーナであったが、とある理由で正体を明かすことができない。
政略的に決められた結婚にも納得し、静かに守護の祈りを捧げる日々を送っていたのだ。
ところが、王子殿下は婚約破棄したその場で巷で聖女と噂される女性、シャイナを侍らせ婚約を宣言する。
カテリーナは婚約者にふさわしくなく、本物の聖女であるシャイナが正に王家の正室として適格だと口にしたのだ。
宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました
悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。
クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。
婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。
そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。
そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯
王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。
シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
【完結】忘れられた王女は獣人皇帝に溺愛される
雑食ハラミ
恋愛
平民として働くロザリンドは、かつて王女だった。
貴族夫人の付添人としてこき使われる毎日だったロザリンドは、ある日王宮に呼び出される。そこで、父の国王と再会し、獣人が治める国タルホディアの皇帝に嫁ぐようにと命令された。
ロザリンドは戸惑いながらも、王族に復帰して付け焼刃の花嫁修業をすることになる。母が姦淫の罪で処刑された影響で身分をはく奪された彼女は、被差別対象の獣人に嫁がせるにはうってつけの存在であり、周囲の冷ややかな視線に耐えながら隣国タルホディアへと向かった。
しかし、新天地に着くなり早々体調を崩して倒れ、快復した後も夫となるレグルスは姿を現わさなかった。やはり自分は避けられているのだろうと思う彼女だったが、ある日宮殿の庭で放し飼いにされている不思議なライオンと出くわす。そのライオンは、まるで心が通じ合うかのように彼女に懐いたのであった。
これは、虐げられた王女が、様々な障害やすれ違いを乗り越えて、自分の居場所を見つけると共に夫となる皇帝と心を通わすまでのお話。
【完結】どうして殺されたのですか?貴方達の愛はもう要りません
たろ
恋愛
処刑されたエリーゼ。
何もしていないのに冤罪で……
死んだと思ったら6歳に戻った。
さっき処刑されたばかりなので、悔しさも怖さも痛さも残ったまま巻き戻った。
絶対に許さない!
今更わたしに優しくしても遅い!
恨みしかない、父親と殿下!
絶対に復讐してやる!
★設定はかなりゆるめです
★あまりシリアスではありません
★よくある話を書いてみたかったんです!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる