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旅は道連れ世は情け

魔術がちっともファンタジーじゃない。

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    炎を出したり茨を操ったりと、日本でOLをしている以上、本当にゲームの中に入れるVRMMOが実用化されない限りは不可能な体験をしたけれど。
   「あれは、魔術とは言いません。魔術とはもっと崇高なものなのです」
    嶺仙はざっくり切り捨てた。
   「魔術とは緻密な理論と計算の上に成り立つ芸術です。本格的に使いこなすには魔法理論や数学に魔法工学に魔術式構築実技……。数多くの学問と修練を修める必要がある。――ですが、補助魔法だけと言うなら、それに必要な知識のみ覚えてもらいます」
    ……すらすらとよく滑る口。
    こういうの、知ってる。語り大好きなオタの人だ。この人、魔術オタなんだ、こんな美形インテリな外見してるのに!
    覚えろと渡された手書きのテキストはとても綺麗に纏まっていて見やすいし、説明の文章は読みやすいし、参考に描かれた図や表、グラフの類いも分かりやすい。
    真面目で几帳面な人なのも確かなんだろうけど……。
    ちょっと質問すれば一から十を通り越し、途中で止めない限りは百まで語り尽くしてくれる。こんなに流暢にペラペラ喋る人だったなんて……。
    この王子様達皆個性が強すぎる。
    ――丸三日費やして、和貴の訓練の代わりに魔術の実技は……。
    「――貴女の物覚えの良さは素晴らしい。……魔人でないのがこれほど惜しいと思うなんて事は初めてです。もし貴女がライバル家の魔人であったら、私がこの地位に居られたかどうか……」
    そう大変複雑そうな目で睨み下ろされたけど。吸血は幸守に次いで紳士的なものだった。手を掬われ、小指に牙を立てられ。
    ……しつこいようだけど、私は男が嫌いだ。けど、色っぽい美人さんに間近でこうも雅やかな仕草で触れられて平常心は保てない――と、思うのに。不思議な程に凪いでいく心。
    ……どうやらこれが嶺仙の吸血に伴う副作用らしい。
    そんな訓練の合間にも例えば採寸されたかと思えば服や防具の試着をしたり、訓練後の入浴前後にマッサージのお姉さんに捕まったりと色々あった。
    ――そう、この世界に来て初めて女性とまともに話をしたんだ。
    世間話程度の雑談だけど。
    ……巨人族の女性とも、人間の女性とも話してみたけど。
    やっぱりこの地で暮らすのはかなり大変らしい。……その為か、人間達は自分達を守ってくれる人外の存在を自然と受け入れている。
    彼らを生かすための、文字通りのを差し出すことに嫌悪や恐怖を感じるどころか、より上位の者に求められる事は栄誉な事と考えているようで。
    特にあの四人の王子はなかなか人気があるらしい。
    ここが地元の幸守は勿論、他国の三人についても尋ねれば、異世界でも年頃のお嬢さんは恋バナは好まれる様で、好きなアイドルについて熱く語る女子高生みたいにそれはそれは嬉しそうに語り続けてくれた。
    ……それを聞いていれば、ここが環境のせいで厳しいのは確かだけれど、国としてはとても良い国なのだと。
    彼らはとても優秀な為政者で守護者なのだと。
    私の男嫌いの事情だけで彼らを裏切れば、駄女神どうこう以前に怒った民に殺される。
    ……これからしばらく共に旅をする仲間を、少しくらいは認めてやろう。少なくとも私を男嫌いにした原因のあいつらと彼らは違うんだと。
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