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旅は道連れ世は情け

勇者アオイ

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    ああ、気持ち良い。
    ……昨日も体感したこの心地の良さ。
    荒み気味の心が安らぐ一時が、まさか幸守の吸血の副作用オマケだとは。
    「勇者どの、風呂の支度を整えさせました故、どうぞごゆるりとお過ごし下さい」
    一つ目の“ブツ”を止める事に成功した日。
    幸守に代償を支払い。
    「次に行く前に、流石にちょっと色々体裁を整えた方が良さげだね~」
    との皆の意見が一致した結果、この国の城にお邪魔させていただく事になった。
    この国もまた、中華風の和建築の城と城下町を持ってる様だけど、一つ明らかに違うのがその立て付けの寸法がことごとく大きい事。
    「この冬氷の国を治める我ら一族は巨人族故、ことのほか図体がでかいのです」
    ニカッと笑って教えてくれた彼、幸守。
    ……私、男なんか大ッ嫌いだけど。
    こんな極限の世界で、頼りがいのある彼に少し気を許しはじめてしまっている気がしてならない。
    「ふぁー、ひっさしぶりのお風呂……。やばい、涙出そう」
    この後は久しぶりのまともな食事と、暖かく柔らかいベッドでの眠りが待ってる。
    日本じゃ最低限当たり前のはずだった生活が、プチ贅沢どころか本気で贅沢してる気分になる。
    「……まあ、贅沢なお風呂ではあるけど」
    大浴場だもんね。こうして身体伸ばすのさえ久しぶりだった気がしてくる。
    「大変そうだったもんなぁ」
    ここへ来る途中、幾つか村を通り過ぎだけど。どの家も、吹雪こそ止んだけれど、これまで降った雪が高く積る上にまだはらはらと降る牡丹雪に濡れそぼりながらも大人から子供まで皆働いていた。
    がりがりに痩せ細った子供。
    顔色の悪そうな妊婦さん。
    厳しい、と話には聞いていても……実際に目にしてしまうと……キツイなぁ。
    この先、どう転ぶか全く分からなくなってしまったし……。どうせ勇者しなきゃならないなら、少しだけ――手の届く範囲くらいは拾ってやるかな……。
    なーんてのほほーんとしてたらさ。
    「……何、これ」
    食事だと案内された席に居たのは。
    「そなたが勇者アオイどのか。この度のご活躍は幸守より報告を受けておる。この国の王として改めて礼を言おう」
    冬王 大雅とうおう たいが及び冬太子 狗狼とうたいし くろう――つまり国王&王太子コンビだ。
    おーい、これじゃ折角の食事の味が分かんなくなるじゃない!
    と心の中では叫んでも、つい営業スマイルで応対してしまう社畜は私です。
    当然第二王子四人組も同席してるんだけどね。
    あー、本当に皆さん王子様なんですね。こういう場での装いも仕草も完璧ですよ。
    私だってマナー教室行ってそこんとこはきっちり身に付けたつもりだけど。
    ああは、出来ない。
    それと、こうして冬氷の国の王、王太子、第二王子と並んだ事で以前に聞いた位が世襲でないという話が事実と確定した。
    種族柄の特徴である体格や髪と目の色はほぼ同じだけど、よく見なくてもすぐに血の繋がりの無い他人と分かる位に似ていない顔立ちがそれを教えてくれる。
    彼らがこの席に居るのはひとえに彼らの努力の結果なのだと。
    だったら私もそれに倣おうじゃないか。
    私は、私の努力で認めさせてやる。
    ――私は、勇者アオイ。
    この仕事を終えたら、絶対に元の世界へ帰るんだ。
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