上 下
23 / 66
勇者の初仕事

ぱそこんつかえます……?

しおりを挟む
    血を吸われる、なんて。
    ……採血とそう変わらないしと自分に言い聞かせてたはずなのに。
    怖いだのなんだの、余計な事を考える暇すらない程の早業で済まされ、何だか分からない内に穏やかな気分にさせられて終わった。
    ……結局妙に構えてしまっていたのが恥ずかしくなるくらいに、健康診断の採血よりあっさりと「かたじけない」と幸守は私の手を離し、手巾で指先を拭ってくれる。
    ちらりと一瞬だけ私の顔色を伺い、後はつらつらと他愛ない雑談に興じて。
    翌日。
    私達は目的地の一つに到着した。
    ……と言うか、特攻した。
    配置は昨日の訓練と同じ。
    幸守さんは私の盾として傍に付き、他三人が昨日の群れが児戯に見える魔獣を牽制しながら切り伏せる。
    私は結界で身を守り、それを無効化する事のみに専念する。
    その為馬車は今全力で雪の上を駆け、車が酷く揺れ――倒れる、横転すれすれのUターンと同時に作戦開始。
    私は車内から飛び出し、獣と幸守の力を借りて結界を張る。
    背後に大挙する獣を極力視界に入れないようにしながら目の前のそれを見上げる。
    それはまるで子供が絵に描いた様なロケットの様なフォルムをしていた。
    円錐型のとんがり頭に円柱型のボディ。
    飛行機の尾翼のような形をした翼が四枚ついた尻が空を向いた状態で地面に突き刺さる杭だ。
    ボディ部分のドアの丸窓部分が丁度私の胸の高さにある。
    ――そして、そのすぐ脇にあるのは。
    例えば銀行のATMとか。
    例えばクレジットカード決済のレジで。
    そんな場所で見かけるような、数字ボタンが並んだテンキーのキーボード。
    ボタンに記されているのは0、1~9のアラビア数字。
    翻訳機能による見え方ではなく、確かに日本で見慣れたモノ。
    ――この扉を開けたいなら暗証番号を入力せよ。
    そんな無言のメッセージを感じてしまう。
    だって、そんな。
    日本とは別の異世界の産物であるはずの物になんで……?
    たまたまその世界でもアラビア数字が使われてるとかどういう因果が。……それとも駄女神も少しは頭を使った結果が単なる異世界人召喚ではなく地球人……というか日本人の召喚をしたのだろうか。
    ……だからって無理矢理無断でというのは許しがたいけど。
   「ぎゃうっ」
   「ぐぉう」
     ――考え事をする間にも背後の気配はどんどん増える。
     ……気になるけど、後で考えよう。それより、暗証番号は!
     何桁かも分からないのに全てのくみあわせを試すなんて時間は勿論無い。何か……何かヒントは無いか?
    期待薄なのを分かって、それでも機体をとっくり観察する――と……。
    「これ……」
     この寒い中、白くなった吐息が丸窓を曇らせ――指でなぞったらしい文字が現れた。
    「0407」
    それを目にすると同時に指が動く。
     0、4、0、7。
     シュンと軽い音がして、呆気なく扉が開いた。
    ……罠の可能性も考えてそっと指で開いた空間をつついてみるけど……何も起こらない。
    天地が逆さになった室内に入る。
    ……狭い。
    カラオケボックスに一人で入ると案内される小さめの部屋程度の広さしかない。
    殺風景で特に何がある訳じゃないけど。
    辛うじてコンソールらしき物はあった。
    一昔前の、ブラウン管モニター式のパソコンみたいなのが。Macの表記もWindowsの表記も無いけど――これは……。
    恐る恐る主電源らしきボタンを押してみる。
    ブン、と静電気が発する微かな音と共にモニターに光が灯る。
    さて。この世界じゃ縁なんかあるはず無いと思っていたモノ。……随分と旧型な上に見覚えのある大手メーカーのブランドのモノではないけど、これはパソコンと言って良いだろう。
    だけどね。
    古い人はパソコン使えるって言うだけで何でも出来るスーパーマンと勘違いしちゃうんだけどさ。
    私、デザイナーなんです。
    流石にWord・Excel・PowerPointくらいは今どきの社会人の嗜みとして資格まで取って使いこなせるようにしてるけど。
    私、プログラマーでもシステムエンジニアでもないんです。
    プログラミング言語?
    名前くらいは知ってるけど、読み方も使い方も分かんない。
    どうしろって言うのよ!
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

人質姫と忘れんぼ王子

雪野 結莉
恋愛
何故か、同じ親から生まれた姉妹のはずなのに、第二王女の私は冷遇され、第一王女のお姉様ばかりが可愛がられる。 やりたいことすらやらせてもらえず、諦めた人生を送っていたが、戦争に負けてお金の為に私は売られることとなった。 お姉様は悠々と今まで通りの生活を送るのに…。 初めて投稿します。 書きたいシーンがあり、そのために書き始めました。 初めての投稿のため、何度も改稿するかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。 小説家になろう様にも掲載しております。 読んでくださった方が、表紙を作ってくださいました。 新○文庫風に作ったそうです。 気に入っています(╹◡╹)

果たされなかった約束

家紋武範
恋愛
 子爵家の次男と伯爵の妾の娘の恋。貴族の血筋と言えども不遇な二人は将来を誓い合う。  しかし、ヒロインの妹は伯爵の正妻の子であり、伯爵のご令嗣さま。その妹は優しき主人公に密かに心奪われており、結婚したいと思っていた。  このままでは結婚させられてしまうと主人公はヒロインに他領に逃げようと言うのだが、ヒロインは妹を裏切れないから妹と結婚して欲しいと身を引く。  怒った主人公は、この姉妹に復讐を誓うのであった。 ※サディスティックな内容が含まれます。苦手なかたはご注意ください。

大好きだけど、結婚はできません!〜強面彼氏に強引に溺愛されて、困っています〜

楠結衣
恋愛
冷たい川に落ちてしまったリス獣人のミーナは、薄れゆく意識の中、水中を飛ぶような速さで泳いできた一人の青年に助け出される。 ミーナを助けてくれた鍛冶屋のリュークは、鋭く睨むワイルドな人で。思わず身をすくませたけど、見た目と違って優しいリュークに次第に心惹かれていく。 さらに結婚を前提の告白をされてしまうのだけど、リュークの夢は故郷で鍛冶屋をひらくことだと告げられて。 (リュークのことは好きだけど、彼が住むのは北にある氷の国。寒すぎると冬眠してしまう私には無理!) と断ったのに、なぜか諦めないリュークと期限付きでお試しの恋人に?! 「泊まっていい?」 「今日、泊まってけ」 「俺の故郷で結婚してほしい!」 あまく溺愛してくるリュークに、ミーナの好きの気持ちは加速していく。 やっぱり、氷の国に一緒に行きたい!寒さに慣れると決意したミーナはある行動に出る……。 ミーナの一途な想いの行方は?二人の恋の結末は?! 健気でかわいいリス獣人と、見た目が怖いのに甘々なペンギン獣人の恋物語。 一途で溺愛なハッピーエンドストーリーです。 *小説家になろう様でも掲載しています

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~

tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。 番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。 ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。 そして安定のヤンデレさん☆ ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。 別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

処理中です...