19 / 66
勇者の初仕事
努力と覚悟
しおりを挟む
……成る程、どうやら彼らは単なる温室育ちの苦労知らずでは無いらしい。いや、相応に厳しい環境で切磋琢磨してきた事は分かった。――実際獣と戦ったその実力は目の前で見せつけられたのだから。
「……分かった。あんた達自身の努力まで否定した事だけは謝る。けど、だったら私が怒っている理由だって分かるハズよね? あんた達がそうやって努力して得た地位、それを実力とは何の関係もない理由で取り上げられたらどんな気持ちになるか! これまでの努力とは全く無関係の分野で一からやり直せと言われる悔しさが! 分からないとは言わせないわ!」
その叫びに。彼らはようやくハッとした表情をした。
「――私達は、王族です。その地位を得るために死ぬほど努力しました」
「だからこそ我らは王族として相応しい振る舞いを日々心がけるのです。全てに於いて自分より民を、国を、世界を優先するのが我らの義務だと」
「どんな理不尽だって、民や国、世界のためなら飲み込んで責務を果たすのが僕達の誇りだからね~」
「……それを当然と思いすぎて、お前もそう在るべきという認識で居た。お前はそれが出来ない貴族の風上にも置けねぇクズを見るようで……けど、奴らと違って妙に頑なで……妙な奴だと思っては居たが――」
「……改めてお伺いしますが、貴女は何のお仕事をされて居たのですか?」
「パソコンで広告チラシやらパンフレットやらをデザイン制作する仕事よ」
「……あ? 何だって?」
「うん。分かんなくて当然だよね。と言うか、まずこの世界に紙ってあるの?」
「ありますよ、勿論。……安いものではありませんが」
「そう。私の世界ではピンキリあったけど、安い紙は三桁の枚数でパン一つより安い値段だったわ。だからそれに色んな情報を書いて広く大勢の人に配れるの。私はそれを宣伝の為に利用したい会社から仕事を貰って、相応しいデザインを提案するところから紙面を完成させるまでがお仕事でね。その為にパソコンという道具が要るの。それを単に使うだけなら誰でも出来るけど、実際使いこなして、お客様に満足いく物を提供するには技術も知識も居る。それだけのものがあると証明する資格を取るために、私はこれまで努力してきた。……けど、紙は高い、道具もない。この世界じゃ私が磨いた技術は役に立たない。私は憎い女神やあんたらの助力が無ければこの世界で生きることすら難しい」
「――あんたの憤りは理解した。……いや、これからも理解に務めたいとは思うし、怒りをぶつけられるのは当然だと思う。……思うが、それでも俺達は俺達の民も国も世界も見捨てる事は出来ないんだ」
……まあ。女神は憎いし男も大嫌いだけど。施政者の立場に居る者としての言葉と言うなら正論だ。多数を救う為に少数を切り捨てる決断をする、その為に私情を殺して公の態度を求められる立場に居るんだから。
そもそも私という異世界人に頼ろうと安易に考えやがったのは駄女神で、彼らはこれまで絶対とされていた命令に従っただけ。
……私が今ここに居る理不尽を、彼らばかりに当たるのもまた理不尽かもしれない……?
「――だったら。取引、しましょう」
私は。
だから、覚悟を決めた。
「……分かった。あんた達自身の努力まで否定した事だけは謝る。けど、だったら私が怒っている理由だって分かるハズよね? あんた達がそうやって努力して得た地位、それを実力とは何の関係もない理由で取り上げられたらどんな気持ちになるか! これまでの努力とは全く無関係の分野で一からやり直せと言われる悔しさが! 分からないとは言わせないわ!」
その叫びに。彼らはようやくハッとした表情をした。
「――私達は、王族です。その地位を得るために死ぬほど努力しました」
「だからこそ我らは王族として相応しい振る舞いを日々心がけるのです。全てに於いて自分より民を、国を、世界を優先するのが我らの義務だと」
「どんな理不尽だって、民や国、世界のためなら飲み込んで責務を果たすのが僕達の誇りだからね~」
「……それを当然と思いすぎて、お前もそう在るべきという認識で居た。お前はそれが出来ない貴族の風上にも置けねぇクズを見るようで……けど、奴らと違って妙に頑なで……妙な奴だと思っては居たが――」
「……改めてお伺いしますが、貴女は何のお仕事をされて居たのですか?」
「パソコンで広告チラシやらパンフレットやらをデザイン制作する仕事よ」
「……あ? 何だって?」
「うん。分かんなくて当然だよね。と言うか、まずこの世界に紙ってあるの?」
「ありますよ、勿論。……安いものではありませんが」
「そう。私の世界ではピンキリあったけど、安い紙は三桁の枚数でパン一つより安い値段だったわ。だからそれに色んな情報を書いて広く大勢の人に配れるの。私はそれを宣伝の為に利用したい会社から仕事を貰って、相応しいデザインを提案するところから紙面を完成させるまでがお仕事でね。その為にパソコンという道具が要るの。それを単に使うだけなら誰でも出来るけど、実際使いこなして、お客様に満足いく物を提供するには技術も知識も居る。それだけのものがあると証明する資格を取るために、私はこれまで努力してきた。……けど、紙は高い、道具もない。この世界じゃ私が磨いた技術は役に立たない。私は憎い女神やあんたらの助力が無ければこの世界で生きることすら難しい」
「――あんたの憤りは理解した。……いや、これからも理解に務めたいとは思うし、怒りをぶつけられるのは当然だと思う。……思うが、それでも俺達は俺達の民も国も世界も見捨てる事は出来ないんだ」
……まあ。女神は憎いし男も大嫌いだけど。施政者の立場に居る者としての言葉と言うなら正論だ。多数を救う為に少数を切り捨てる決断をする、その為に私情を殺して公の態度を求められる立場に居るんだから。
そもそも私という異世界人に頼ろうと安易に考えやがったのは駄女神で、彼らはこれまで絶対とされていた命令に従っただけ。
……私が今ここに居る理不尽を、彼らばかりに当たるのもまた理不尽かもしれない……?
「――だったら。取引、しましょう」
私は。
だから、覚悟を決めた。
0
お気に入りに追加
231
あなたにおすすめの小説
そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。
しげむろ ゆうき
恋愛
男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない
そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった
全五話
※ホラー無し
辺境伯へ嫁ぎます。
アズやっこ
恋愛
私の父、国王陛下から、辺境伯へ嫁げと言われました。
隣国の王子の次は辺境伯ですか… 分かりました。
私は第二王女。所詮国の為の駒でしかないのです。 例え父であっても国王陛下には逆らえません。
辺境伯様… 若くして家督を継がれ、辺境の地を護っています。
本来ならば第一王女のお姉様が嫁ぐはずでした。
辺境伯様も10歳も年下の私を妻として娶らなければいけないなんて可哀想です。
辺境伯様、大丈夫です。私はご迷惑はおかけしません。
それでも、もし、私でも良いのなら…こんな小娘でも良いのなら…貴方を愛しても良いですか?貴方も私を愛してくれますか?
そんな望みを抱いてしまいます。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 設定はゆるいです。
(言葉使いなど、優しい目で読んで頂けると幸いです)
❈ 誤字脱字等教えて頂けると幸いです。
(出来れば望ましいと思う字、文章を教えて頂けると嬉しいです)
溺愛の始まりは魔眼でした。騎士団事務員の貧乏令嬢、片想いの騎士団長と婚約?!
参
恋愛
男爵令嬢ミナは実家が貧乏で騎士団の事務員と騎士団寮の炊事洗濯を掛け持ちして働いていた。ミナは騎士団長オレンに片想いしている。バレないようにしつつ長年真面目に働きオレンの信頼も得、休憩のお茶まで一緒にするようになった。
ある日、謎の香料を口にしてミナは魔法が宿る眼、魔眼に目覚める。魔眼のスキルは、筋肉のステータスが見え、良い筋肉が目の前にあると相手の服が破けてしまうものだった。ミナは無類の筋肉好きで、筋肉が近くで見られる騎士団は彼女にとっては天職だ。魔眼のせいでクビにされるわけにはいかない。なのにオレンの服をびりびりに破いてしまい魔眼のスキルを話さなければいけない状況になった。
全てを話すと、オレンはミナと協力して魔眼を治そうと提案する。対処法で筋肉を見たり触ったりすることから始まった。ミナが長い間封印していた絵描きの趣味も魔眼対策で復活し、よりオレンとの時間が増えていく。片想いがバレないようにするも何故か魔眼がバレてからオレンが好意的で距離も近くなり甘やかされてばかりでミナは戸惑う。別の日には我慢しすぎて自分の服を魔眼で破り真っ裸になった所をオレンに見られ彼は責任を取るとまで言いだして?!
※結構ふざけたラブコメです。
恋愛が苦手な女性シリーズ、前作と同じ世界線で描かれた2作品目です(続きものではなく単品で読めます)。今回は無自覚系恋愛苦手女性。
ヒロインによる一人称視点。全56話、一話あたり概ね1000~2000字程度で公開。
前々作「訳あり女装夫は契約結婚した副業男装妻の推し」前作「身体強化魔法で拳交える外交令嬢の拗らせ恋愛~隣国の悪役令嬢を妻にと連れてきた王子に本来の婚約者がいないとでも?~」と同じ時代・世界です。
※小説家になろう、ノベルアップ+にも投稿しています。※R15は保険です。
どうやら私(オタク)は乙女ゲームの主人公の親友令嬢に転生したらしい
海亜
恋愛
大交通事故が起きその犠牲者の1人となった私(オタク)。
その後、私は赤ちゃんー璃杏ーに転生する。
赤ちゃんライフを満喫する私だが生まれた場所は公爵家。
だから、礼儀作法・音楽レッスン・ダンスレッスン・勉強・魔法講座!?と様々な習い事がもっさりある。
私のHPは限界です!!
なのになのに!!5歳の誕生日パーティの日あることがきっかけで、大人気乙女ゲーム『恋は泡のように』通称『恋泡』の主人公の親友令嬢に転生したことが判明する。
しかも、親友令嬢には小さい頃からいろんな悲劇にあっているなんとも言えないキャラなのだ!
でも、そんな未来私(オタクでかなりの人見知りと口下手)が変えてみせる!!
そして、あわよくば最後までできなかった乙女ゲームを鑑賞したい!!・・・・うへへ
だけど・・・・・・主人公・悪役令嬢・攻略対象の性格が少し違うような?
♔♕♖♗♘♙♚♛♜♝♞♟
皆さんに楽しんでいただけるように頑張りたいと思います!
この作品をよろしくお願いします!m(_ _)m
お母様が国王陛下に見染められて再婚することになったら、美麗だけど残念な義兄の王太子殿下に婚姻を迫られました!
奏音 美都
恋愛
まだ夜の冷気が残る早朝、焼かれたパンを店に並べていると、いつもは慌ただしく動き回っている母さんが、私の後ろに立っていた。
「エリー、実は……国王陛下に見染められて、婚姻を交わすことになったんだけど、貴女も王宮に入ってくれるかしら?」
国王陛下に見染められて……って。国王陛下が母さんを好きになって、求婚したってこと!? え、で……私も王宮にって、王室の一員になれってこと!?
国王陛下に挨拶に伺うと、そこには美しい顔立ちの王太子殿下がいた。
「エリー、どうか僕と結婚してくれ! 君こそ、僕の妻に相応しい!」
え……私、貴方の妹になるんですけど?
どこから突っ込んでいいのか分かんない。
それは報われない恋のはずだった
ララ
恋愛
異母妹に全てを奪われた。‥‥ついには命までもーー。どうせ死ぬのなら最期くらい好きにしたっていいでしょう?
私には大好きな人がいる。幼いころの初恋。決して叶うことのない無謀な恋。
それはわかっていたから恐れ多くもこの気持ちを誰にも話すことはなかった。けれど‥‥死ぬと分かった今ならばもう何も怖いものなんてないわ。
忘れてくれたってかまわない。身勝手でしょう。でも許してね。これが最初で最後だから。あなたにこれ以上迷惑をかけることはないわ。
「幼き頃からあなたのことが好きでした。私の初恋です。本当に‥‥本当に大好きでした。ありがとう。そして‥‥さよなら。」
主人公 カミラ・フォーテール
異母妹 リリア・フォーテール
異世界で王城生活~陛下の隣で~
遥
恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。
グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます!
※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。
※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。
今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました
四折 柊
恋愛
子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる