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勇者の初仕事

努力と覚悟

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    ……成る程、どうやら彼らは単なる温室育ちの苦労知らずでは無いらしい。いや、相応に厳しい環境で切磋琢磨してきた事は分かった。――実際獣と戦ったその実力は目の前で見せつけられたのだから。
    「……分かった。あんた達自身の努力まで否定した事だけは謝る。けど、だったら私が怒っている理由だって分かるハズよね?    あんた達がそうやって努力して得た地位、それを実力とは何の関係もない理由で取り上げられたらどんな気持ちになるか!    これまでの努力とは全く無関係の分野で一からやり直せと言われる悔しさが!    分からないとは言わせないわ!」
    その叫びに。彼らはようやくハッとした表情かおをした。
    「――私達は、王族です。その地位を得るために死ぬほど努力しました」
    「だからこそ我らは王族として相応しい振る舞いを日々心がけるのです。全てに於いて自分より民を、国を、世界を優先するのが我らの義務だと」
    「どんな理不尽だって、民や国、世界のためなら飲み込んで責務を果たすのが僕達の誇りだからね~」
    「……それを当然と思いすぎて、お前もそう在るべきという認識で居た。お前はそれが出来ない貴族の風上にも置けねぇクズを見るようで……けど、奴らと違って妙に頑なで……妙な奴だと思っては居たが――」
    「……改めてお伺いしますが、貴女は何のお仕事をされて居たのですか?」
    「パソコンで広告チラシやらパンフレットやらをデザイン制作する仕事よ」
    「……あ?    何だって?」
    「うん。分かんなくて当然だよね。と言うか、まずこの世界に紙ってあるの?」
    「ありますよ、勿論。……安いものではありませんが」
    「そう。私の世界ではピンキリあったけど、安い紙は三桁の枚数でパン一つより安い値段だったわ。だからそれに色んな情報を書いて広く大勢の人に配れるの。私はそれを宣伝の為に利用したい会社から仕事を貰って、相応しいデザインを提案するところから紙面を完成させるまでがお仕事でね。その為にパソコンという道具が要るの。それを単に使うだけなら誰でも出来るけど、実際使いこなして、お客様に満足いく物を提供するには技術も知識も居る。それだけのものがあると証明する資格を取るために、私はこれまで努力してきた。……けど、紙は高い、道具もない。この世界じゃ私が磨いた技術は役に立たない。私は憎い女神やあんたらの助力が無ければこの世界で生きることすら難しい」
    「――あんたの憤りは理解した。……いや、これからも理解に務めたいとは思うし、怒りをぶつけられるのは当然だと思う。……思うが、それでも俺達は俺達の民も国も世界も見捨てる事は出来ないんだ」
    ……まあ。女神は憎いし男も大嫌いだけど。施政者の立場に居る者としての言葉と言うなら正論だ。多数を救う為に少数を切り捨てる決断をする、その為に私情を殺して公の態度を求められる立場に居るんだから。
    そもそも私という異世界人に頼ろうと安易に考えやがったのは駄女神で、彼らはこれまで絶対とされていた命令に従っただけ。
    ……私が今ここに居る理不尽を、彼らばかりに当たるのもまた理不尽かもしれない……?
    「――だったら。取引、しましょう」
    私は。
    だから、覚悟を決めた。
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