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旅立ち
非常識な世界
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……皇都を出て一日。
そう、馬車の速度でたった一日。
なのに。
「何なの、この一面の雪景色は……」
皇都は暑くも寒くもない程よい気候だった。
季節自体あるかどうかという場所で、召喚からこっち色々ありすぎたせいでそんな事に気を回す余裕なんかなかったけど、景色相応の寒さに震える事態となれば話は別だ。
「どういう事よ、これ!」
「あ? 端ッから冬氷の国に行くっつったろ」
「それは聞いたけど、そうじゃなくてこの気候の変わり様はどういう事だって聞いてるのよ!」
「だから、冬氷の国だからだと言ってるだろ」
「は?」
「あー、勇者殿。我らが女神が創りし龍の大地には四つの国と皇都が存在しております。内、我が冬氷の国は一年を通してこの様に雪の白に染まる寒冷の地。逆に和貴殿の夏火の国は年中暑く、緑濃き国なのですよ」
「……ああ、そう。私の国では一年通して春から夏、秋から冬へと季節が巡るのが当たり前。南の暖かい地方から北の寒い土地まで馬車なら何ヵ月もかけて移動する距離で徐々に気候が変わるのが当たり前。あなた達の常識は私の非常識なの。私が異世界人だと知らない人なら仕方ないと割りきるけど、あんたらは知ってるくせに。自分の常識しか主張出来ないなんて、所詮狭い世界しか知らない箱入り王子様なのね」
通りで奴らだけやけに厚手の服を着てるわけだよ。
私だって召喚された時は11月のそれなりに冷える季節なりの格好をしてたのに、牢に入れられたときに囚人服らしき白一色の襦袢みたいなのに着せ変えられて、とられた服は今頃どうなっていることやら。
……まあ大方捨てられたんだろうと思うけど。
ちくしょう。あのコートお気に入りの高いやつだったのに!
流石に旅立ち前に囚人服は脱がされたけど、この格好じゃこの気候に対応しきれない。
奴らに情けない様を見せたくないけど、こればかりはどうしようもなく。
かちかちと歯の音が合わず震える体を縮込めるしかない。
「……何だ? まさか勇者なのに人間の民のように防寒具が要るなんて言わないだろう?」
「私は! 正真正銘人間よ! この獣が余計な事しなきゃ勇者じゃ無いし。……この際だわ、ここに捨ててってくれて構わないのよ。こないだは死に損ねたけど、火炙りに比べたら凍死のが楽だもの」
あはは。
「寝ちゃダメだ~! ばちん!」
「父さんにもぶたれたことないのに~!」
ゴッコでもしてやろうか。
――鬼め。
奴らは。……あの黄色い皇子は吸血鬼で。
彼の先祖から分かたれた赤毛は鬼神族。
同じく黄色から分かれた緑髪は夢魔族。
同じく(略)白金は魔人族。
同(ry)は巨神族。
どいつも先祖が吸血鬼なせいか血を飲む。
――普段の食事としてではないと言うけど……どこまで信用できるのか。
色んな意味で寝込みを襲われないように気を張らなきゃならなくて、気の休まる時がない。
朝と昼は軽食を出され――流石に処刑を取り止めてまでの旅なんだから毒は入れないだろうと思いながらも警戒しながら食べ、今のところ何ともないけど。
命はとられずとも……私は女だ。
――あのときの悪夢を、私は未だに忘れられない。不幸中の幸いとやらで最後の最後は未遂で終わったけれど、屈辱的な行為を散々受けた後ではトラウマになるには十分過ぎた。
……人を呪わば穴二つ、自分がされて嫌なことを他人にしちゃいけませんというけれど。
今、私は猛烈にあの女神に見せてやりたい。
私の過去という、悪夢を――。
そう、馬車の速度でたった一日。
なのに。
「何なの、この一面の雪景色は……」
皇都は暑くも寒くもない程よい気候だった。
季節自体あるかどうかという場所で、召喚からこっち色々ありすぎたせいでそんな事に気を回す余裕なんかなかったけど、景色相応の寒さに震える事態となれば話は別だ。
「どういう事よ、これ!」
「あ? 端ッから冬氷の国に行くっつったろ」
「それは聞いたけど、そうじゃなくてこの気候の変わり様はどういう事だって聞いてるのよ!」
「だから、冬氷の国だからだと言ってるだろ」
「は?」
「あー、勇者殿。我らが女神が創りし龍の大地には四つの国と皇都が存在しております。内、我が冬氷の国は一年を通してこの様に雪の白に染まる寒冷の地。逆に和貴殿の夏火の国は年中暑く、緑濃き国なのですよ」
「……ああ、そう。私の国では一年通して春から夏、秋から冬へと季節が巡るのが当たり前。南の暖かい地方から北の寒い土地まで馬車なら何ヵ月もかけて移動する距離で徐々に気候が変わるのが当たり前。あなた達の常識は私の非常識なの。私が異世界人だと知らない人なら仕方ないと割りきるけど、あんたらは知ってるくせに。自分の常識しか主張出来ないなんて、所詮狭い世界しか知らない箱入り王子様なのね」
通りで奴らだけやけに厚手の服を着てるわけだよ。
私だって召喚された時は11月のそれなりに冷える季節なりの格好をしてたのに、牢に入れられたときに囚人服らしき白一色の襦袢みたいなのに着せ変えられて、とられた服は今頃どうなっていることやら。
……まあ大方捨てられたんだろうと思うけど。
ちくしょう。あのコートお気に入りの高いやつだったのに!
流石に旅立ち前に囚人服は脱がされたけど、この格好じゃこの気候に対応しきれない。
奴らに情けない様を見せたくないけど、こればかりはどうしようもなく。
かちかちと歯の音が合わず震える体を縮込めるしかない。
「……何だ? まさか勇者なのに人間の民のように防寒具が要るなんて言わないだろう?」
「私は! 正真正銘人間よ! この獣が余計な事しなきゃ勇者じゃ無いし。……この際だわ、ここに捨ててってくれて構わないのよ。こないだは死に損ねたけど、火炙りに比べたら凍死のが楽だもの」
あはは。
「寝ちゃダメだ~! ばちん!」
「父さんにもぶたれたことないのに~!」
ゴッコでもしてやろうか。
――鬼め。
奴らは。……あの黄色い皇子は吸血鬼で。
彼の先祖から分かたれた赤毛は鬼神族。
同じく黄色から分かれた緑髪は夢魔族。
同じく(略)白金は魔人族。
同(ry)は巨神族。
どいつも先祖が吸血鬼なせいか血を飲む。
――普段の食事としてではないと言うけど……どこまで信用できるのか。
色んな意味で寝込みを襲われないように気を張らなきゃならなくて、気の休まる時がない。
朝と昼は軽食を出され――流石に処刑を取り止めてまでの旅なんだから毒は入れないだろうと思いながらも警戒しながら食べ、今のところ何ともないけど。
命はとられずとも……私は女だ。
――あのときの悪夢を、私は未だに忘れられない。不幸中の幸いとやらで最後の最後は未遂で終わったけれど、屈辱的な行為を散々受けた後ではトラウマになるには十分過ぎた。
……人を呪わば穴二つ、自分がされて嫌なことを他人にしちゃいけませんというけれど。
今、私は猛烈にあの女神に見せてやりたい。
私の過去という、悪夢を――。
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