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召喚されました。
30歳の誕生日
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「――これで……よし」
最後のパーツを配置し、忘れず保存。プリント設定……よし、GO。
席を立ちプリンターから出力された物を手にして課長の席へ持っていく。
「A社のチラシ上がりました」
「……校正に回して」
「校正さんのチェック訂正済みの版です」
「……クライアントに確認――」
「メールチェックでOK出てます、印刷データも出来ているので、課長の判子があればすぐ印刷に回せます。……今日中の急ぎの案件なんですよね?」
「――可愛くない女だな、相変わらず。鬼の首でも取ったみたいに……」
「可愛くなくて結構です。仕事が出来れば問題なく生きていけますから」
ひくひくしている課長の口元を見なかったふりをして、データと見本を担当に渡し、席に戻る。
「環先輩、上がりですか?」
デスクのMacをシャットアウトし、散らかった文房具を引き出しに片付けていると隣の席の後輩が話しかけてきた。
「ええ、定時は過ぎちゃったけど、久しぶりに早く帰れるわ」
「先輩、先輩、今日金曜日ですし飲みに行きません? 総務の子に合コン誘われてて……」
「――ごめんなさい、私はそういうの行かないから」
「え、でも先輩……アラサーですよね?」
ええアラサーでしたよ、昨日まで。でも……
「アラサーだろうがアラフォーだろうが、私そういうのは行かないの。女の子だけの飲み会の時にまた誘ってちょうだい」
本当はそれだって行きたくないけど、流石に全部断っていたら角が立つ。
「それじゃ、お先に失礼するわね」
椅子の背にかけていた上着を羽織り、オフィスの外に出る。
機械の熱で暑い社内に比べると、暖房が効いていてもエレベーターホールは肌寒く感じる。
……エレベーターを降りてオフィスビルを出ればビル風が吹いてなお寒い。
まだ11月、されどもう11月。
早足に家路を急ぐおっさん達に紛れ、大ガードを抜けて西武新宿の前を過ぎ、歌舞伎町のとある飲み屋へ。
「お一人様ですか?」
「はい」
もう少しすると忘年会シーズンで、予約無しのお一人様飲みは厳しくなるから、今日はしっかり飲んで食べるんだ。
誕生日だし、たまのプチ贅沢を楽しもう。
好みの果実酒ソーダ割りをとつまみをいくつか頼み、スマホをいじりながらのんびり飲んで食べる。
ワイワイガヤガヤと大勢での飲み会よりも私はこういう方が好き。
ご飯も映画も一人で行くのが好き。旅行も一人で行く。
遊園地とキャンプだけは厳しいけど、焼き肉カラオケは一人で楽しむ。
一通り酒を楽しんだら、店を出てアスタ裏のこってりラーメンで〆る。
映画は……あんまり面白そうなのないな。
靖国通りに出ると、区役所前からずらりと的屋のテントが並んでいる。
「ああ、今日は酉の市の日……」
新宿伊勢丹前の花園神社で毎年酉の日に行われる恒例行事だ。
「……覗いて行くか」
明治通り側の鳥居まで続く列に並び、本殿での参拝を済ませてからところ狭しと並ぶ店を冷やかして回る。
いくらするのか分からない大きな熊手が壁面を飾るが、店先には千円の小さな物から枡入りの可愛いものも売っている。
店の数自体も多くて、目移りしてしまう。
あちらこちらで響く拍子と威勢の良い声にのせられながら歩き、ふと参道に出て気付く。
さっきは道の向こう側に並んでいたから気付かなかった祠。
ちょうどテントの背と背に挟まれた暗がりに連なる朱の鳥居の先にある祠。
何故かは分からない。
何となく人混みから離れ、鳥居をくぐる。
お賽銭――
鞄から財布を出そうとした、その時。
祠から光が溢れ。
あまりに眩しすぎるその光に思わず目を閉じた。
それでもまぶたの裏まで届く光がようやく消え、目を開けると――
「龍の大地へようこそ、勇者よ」
……あ。私こういうの知ってる。
異世界召喚、だ。
環 蒼生、30歳。
勇者として異世界に召喚されたみたいです。
最後のパーツを配置し、忘れず保存。プリント設定……よし、GO。
席を立ちプリンターから出力された物を手にして課長の席へ持っていく。
「A社のチラシ上がりました」
「……校正に回して」
「校正さんのチェック訂正済みの版です」
「……クライアントに確認――」
「メールチェックでOK出てます、印刷データも出来ているので、課長の判子があればすぐ印刷に回せます。……今日中の急ぎの案件なんですよね?」
「――可愛くない女だな、相変わらず。鬼の首でも取ったみたいに……」
「可愛くなくて結構です。仕事が出来れば問題なく生きていけますから」
ひくひくしている課長の口元を見なかったふりをして、データと見本を担当に渡し、席に戻る。
「環先輩、上がりですか?」
デスクのMacをシャットアウトし、散らかった文房具を引き出しに片付けていると隣の席の後輩が話しかけてきた。
「ええ、定時は過ぎちゃったけど、久しぶりに早く帰れるわ」
「先輩、先輩、今日金曜日ですし飲みに行きません? 総務の子に合コン誘われてて……」
「――ごめんなさい、私はそういうの行かないから」
「え、でも先輩……アラサーですよね?」
ええアラサーでしたよ、昨日まで。でも……
「アラサーだろうがアラフォーだろうが、私そういうのは行かないの。女の子だけの飲み会の時にまた誘ってちょうだい」
本当はそれだって行きたくないけど、流石に全部断っていたら角が立つ。
「それじゃ、お先に失礼するわね」
椅子の背にかけていた上着を羽織り、オフィスの外に出る。
機械の熱で暑い社内に比べると、暖房が効いていてもエレベーターホールは肌寒く感じる。
……エレベーターを降りてオフィスビルを出ればビル風が吹いてなお寒い。
まだ11月、されどもう11月。
早足に家路を急ぐおっさん達に紛れ、大ガードを抜けて西武新宿の前を過ぎ、歌舞伎町のとある飲み屋へ。
「お一人様ですか?」
「はい」
もう少しすると忘年会シーズンで、予約無しのお一人様飲みは厳しくなるから、今日はしっかり飲んで食べるんだ。
誕生日だし、たまのプチ贅沢を楽しもう。
好みの果実酒ソーダ割りをとつまみをいくつか頼み、スマホをいじりながらのんびり飲んで食べる。
ワイワイガヤガヤと大勢での飲み会よりも私はこういう方が好き。
ご飯も映画も一人で行くのが好き。旅行も一人で行く。
遊園地とキャンプだけは厳しいけど、焼き肉カラオケは一人で楽しむ。
一通り酒を楽しんだら、店を出てアスタ裏のこってりラーメンで〆る。
映画は……あんまり面白そうなのないな。
靖国通りに出ると、区役所前からずらりと的屋のテントが並んでいる。
「ああ、今日は酉の市の日……」
新宿伊勢丹前の花園神社で毎年酉の日に行われる恒例行事だ。
「……覗いて行くか」
明治通り側の鳥居まで続く列に並び、本殿での参拝を済ませてからところ狭しと並ぶ店を冷やかして回る。
いくらするのか分からない大きな熊手が壁面を飾るが、店先には千円の小さな物から枡入りの可愛いものも売っている。
店の数自体も多くて、目移りしてしまう。
あちらこちらで響く拍子と威勢の良い声にのせられながら歩き、ふと参道に出て気付く。
さっきは道の向こう側に並んでいたから気付かなかった祠。
ちょうどテントの背と背に挟まれた暗がりに連なる朱の鳥居の先にある祠。
何故かは分からない。
何となく人混みから離れ、鳥居をくぐる。
お賽銭――
鞄から財布を出そうとした、その時。
祠から光が溢れ。
あまりに眩しすぎるその光に思わず目を閉じた。
それでもまぶたの裏まで届く光がようやく消え、目を開けると――
「龍の大地へようこそ、勇者よ」
……あ。私こういうの知ってる。
異世界召喚、だ。
環 蒼生、30歳。
勇者として異世界に召喚されたみたいです。
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