異世界で神様に農園を任されました! 野菜に果物を育てて動物飼って気ままにスローライフで世界を救います。

彩世幻夜

文字の大きさ
上 下
29 / 39
3章 農園カンパニー

第3話 鬼兄……弟?

しおりを挟む
「ふう……」

 ホールを抜け、バルコニーに出る。
 秋を迎え、この暖かい王都でも夜となれば吹く風もひんやりと冷たい。

 こっそり持ってきたグラスとオードブルを乗せたお皿を手摺に置いて、自然とため息が出た。
 大きな窓から明かりが漏れるテラスでやっと一息つくと、次の曲が聞こえて来る。
 手を取り合いホールへ出ていく人々の影。
 賑やかな会場から離れたここは、休憩にちょうどいい。
 今年は肩が大きく開いたドレスが流行ったからだろう、風が冷たくなったこの時間にバルコニーに出ている人はいない。
 私はと言うと、首から手首までレースで覆われた、来春発表されるドレスを着て長いフリンジのストールを肩にかけているので、むしろホールは暑いくらいだった。

(さすがにこんな格好の人はいなかったけど、注目はばっちり浴びたわね)

 華やかでボリュームのあるドレスの中で一際浮いているけれど、決して地味ではない私のドレス。
 ドレスの流行に目敏い女性たちはこのレースが上質な物だと見抜き、扇子の向こうからこちらをじっと見つめていた。
 
 私の領地では染料や生地が主産物だ。王都や近隣の街のテーラーでは高級品として取り扱われ、安定した収入を得ている。
 領地で染料となる草花を育て、染料にして糸を染める。最近では紡績工場が建設され、街がとても活気づいてきた。
 社交シーズンラストを飾る、五日間にも及ぶ晩餐会に出席したのも、流行に敏感な貴族たちに実物を見てもらい、販路を拡充するため。
 そのために何着もドレスを作った。これらを見てもらうためにこの晩餐会にやって来たのだから、今夜のように人々の見せ物になるのは全く苦ではない。

 お皿に乗せたピンチョスを一口齧ると、ふわりと燻製の香りが口に広がる。

「おいしい……」

 一口食べれば途端にお腹が空く。

(もっと持ってくればよかったわ)

 白ワインを一口飲むと、これもとても美味しい。
 流石、王家主催の秋の晩餐会だ。

「……食べきってしまったわ」
「何かお持ちしましょうか?」

 突然話しかけられ驚いて振り返ると、濃紺のマントに白い隊服、金の肩章の背の高い騎士がにこにこと人懐っこい笑顔でこちらを見ていた。

「失礼しました、驚かせるつもりはなかったのですが」
「こちらこそ、誰もいないものと思っていて……」
「お声を掛けるつもりはなかったのですが、その、とても美味しそうに食べていらしたので、つい」

 いつから見られていたのかしら。

「どれもとても美味しかったわ」
「そうみたいですね。ワインはどうですか?」
「これも美味しいわ。どこの産地のものかしら」
「ではラベルを確かめてきますね」
「え」
「ついでに何か食べ物もお持ちします。ちょっと待っていてくださいね」
「え、あの騎士様、ま…っ」

 騎士はふにゃりと人懐っこい笑顔を残すと、その場を離れホールへと戻って行った。
 
(確かにもう少し食べたかったけど、騎士に持ってこさせるなんて、誰かに見られたら怒られそうね)
 
 騎士を待つ間に視線を庭へ向けると、夜の闇に浮かぶ黒い木々の向こうに、ぼんやりと明かりのついたガラスの屋根が見えた。

(コンサバトリーだわ)

 明かりがついているということは中に入れるのかもしれない。
 王城にあるコンサバトリーなんて見る機会もないだろうし、何を育てているのか凄く気になる。庭には所々明かりが灯されているし、暗さに目が慣れれば一人でも行けそうだ。

「お待たせしました」

 キイ、と硝子扉の軋む音がして振り返ると、先ほどの騎士が片手にワインのボトルとグラス、片手にオードブルが沢山盛り付けられたお皿を持って現れた。

「ボトルごと?」
「ご自身の目でラベルを見たいかと思って」

 照れくさそうに笑う騎士の手から、器用に持っていたグラスを慌てて受け取る。騎士は「ありがとうございます」と笑顔で礼を言うと、手摺に新しいお皿とカトラリー、ワインのボトルを置いた。お皿のオードブルはかなり多い。

「ありがとう、勤務中なのにお手を煩わせてしまったわ」
「いえ、ちょうど休憩時間なんです。先ほど同僚と交代したばかりで」
「ではよろしければご一緒にいかが? 残してはもったいないもの」

 私がそう言うと、騎士は照れくさそうに笑みを浮かべた。なんだか反応が可愛らしくて微笑ましい。
 
「すみません実は、貴女が食べているのを見たら僕も食べたくなってしまって」
「初めからそのつもりでこの量なのね?」
「はい。すみません」

 頬をポリポリと掻いて恥ずかしそうに視線を落として笑う騎士は、かなり若い。十八……、二十歳前くらいだろうか。
 弟のような雰囲気だけど、それよりも何か違う雰囲気を感じる。
 なんだっけ、何かに似ている気がする。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

好き勝手スローライフしていただけなのに伝説の英雄になってしまった件~異世界転移させられた先は世界最凶の魔境だった~

狐火いりす@商業作家
ファンタジー
 事故でショボ死した主人公──星宮なぎさは神によって異世界に転移させられる。  そこは、Sランク以上の魔物が当たり前のように闊歩する世界最凶の魔境だった。 「せっかく手に入れた第二の人生、楽しみつくさねぇともったいねぇだろ!」  神様の力によって【創造】スキルと最強フィジカルを手に入れたなぎさは、自由気ままなスローライフを始める。  露天風呂付きの家を建てたり、倒した魔物でおいしい料理を作ったり、美人な悪霊を仲間にしたり、ペットを飼ってみたり。  やりたいことをやって好き勝手に生きていく。  なぜか人類未踏破ダンジョンを攻略しちゃったり、ペットが神獣と幻獣だったり、邪竜から目をつけられたりするけど、細かいことは気にしない。  人類最強の主人公がただひたすら好き放題生きていたら伝説になってしまった、そんなほのぼのギャグコメディ。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

滅びる異世界に転生したけど、幼女は楽しく旅をする!

白夢
ファンタジー
 何もしないでいいから、世界の終わりを見届けてほしい。  そう言われて、異世界に転生することになった。  でも、どうせ転生したなら、この異世界が滅びる前に観光しよう。  どうせ滅びる世界なら、思いっきり楽しもう。  だからわたしは旅に出た。  これは一人の幼女と小さな幻獣の、  世界なんて救わないつもりの放浪記。 〜〜〜  ご訪問ありがとうございます。    可愛い女の子が頼れる相棒と美しい世界で旅をする、幸せなファンタジーを目指しました。    ファンタジー小説大賞エントリー作品です。気に入っていただけましたら、ぜひご投票をお願いします。  お気に入り、ご感想、応援などいただければ、とても喜びます。よろしくお願いします! 23/01/08 表紙画像を変更しました

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

ギルドの小さな看板娘さん~実はモンスターを完全回避できちゃいます。夢はたくさんのもふもふ幻獣と暮らすことです~

うみ
ファンタジー
「魔法のリンゴあります! いかがですか!」 探索者ギルドで満面の笑みを浮かべ、元気よく魔法のリンゴを売る幼い少女チハル。 探索者たちから可愛がられ、魔法のリンゴは毎日完売御礼! 単に彼女が愛らしいから売り切れているわけではなく、魔法のリンゴはなかなかのものなのだ。 そんな彼女には「夜」の仕事もあった。それは、迷宮で迷子になった探索者をこっそり助け出すこと。 小さな彼女には秘密があった。 彼女の奏でる「魔曲」を聞いたモンスターは借りてきた猫のように大人しくなる。 魔曲の力で彼女は安全に探索者を救い出すことができるのだ。 そんな彼女の夢は「魔晶石」を集め、幻獣を喚び一緒に暮らすこと。 たくさんのもふもふ幻獣と暮らすことを夢見て今日もチハルは「魔法のリンゴ」を売りに行く。 実は彼女は人間ではなく――その正体は。 チハルを中心としたほのぼの、柔らかなおはなしをどうぞお楽しみください。

処理中です...